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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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十六話 美術クラブ関係者にまともなやつはいないのか?


(なんで私がこんな目に遭わないといけないのかしら)


私は、怒りに打ち震えながら暗い廊下を歩く。

もう少しで学級の出し物も始まる時間だがそんなこと知ったところではない。


忌々しいあの黒髪の女。あの女さえ居なければ名誉ある生徒会役員のひと枠に私が入れたかもしれないのに。


(人気高い風夜凛の信奉者に成り切って、風夜凛を持ち上げる様にしていれば上手い位置を取れると思っていたのに……逆に私が辱められるなんて!!)


あぁ!もう本当に苛立たしい!

あの女だけじゃなくて、あの女と同じく何処の馬の骨かもわからない男子生徒や、もうなんなら風夜凛、一条悠里、峰叶斗も私から生徒会の席をとったように思えて仕方がない。


「私が生徒会に入るには……」

「今の生徒会の地位を落としてしまえば?」

「!?」


さっきまで誰も居なかったはずなのに、同じ暗闇の中から私に向けられた声が返ってきた。


「ん?あぁ、気にしなくていいよ。別に誰に言うつもりもないから。それより生徒会に入りたいんじゃないのかい?」

「え、えぇ」


暗闇というほどの暗闇ではない、ただの影なのにそれが被さって声の主の姿が全く見えない。

ただ、声だけで判断するならば私と同じくらいの年の青年だろう。


どんな人物か素性もわからない人にいつもならば頼ることはなかっただろう。でも今は、ただただ腹立たしく、何も考えていられなかった。


「貴方には、それを可能にする方法があるとでもいうの?」


「――君が覚悟を決めればなんだって出来るよ」


影の中で、紫色の怪しい光が蠢いているのを見た。

でも、そんなことどうでもよく、ただ今の私にあるのは「生徒会役員になりたい」という願望と、恥をかかせた原因である現生徒会を貶めたいという思いだけ。


「何をすればいいのかしら?」

「それはね――」


* * *


「はぁぁぁぁ」


ひっどいめにあったなぁ……と、私、月乃玲明はとりあえず収まった吐き気に感謝しながら校舎内を歩く。

つい先ほどまで一時間半に及ぶ身支度の予定に震えていたが、いつまでもそうしている訳にはいかない。


現在十二時少し前。もうそろそろ、のあの開始アナウンスが入り、文化の部……クラス別やクラブによる展示など様々な催し物が始まる。

その時間と同時に保護者や来賓も入場となるためどうしても人が多くなる。


この学園は貴族の子供が多く通うということでということで、派閥やら階級やらトラブルが起こると色々面倒くさい。そこに親まで加わったら尚更大惨事である。

というわけで大惨事……トラブルを未然に防ぐためにも何かおかしなことはないか見回りする役を私は引き受けた。


『……十二時になりました。これより文化の部を開始いたします。お越しくださった保護者の皆様――』


そうこうしている内にアナウンスが入り、本格的な開始を告げた。……なんだか凄く外面な気がしないでもない。


(さて、始まって一番最初といったら――)


やはり、向かうべきところはあそこだろう。


* * *


「こちら案内用の小冊子になります。学級によっては教室ではなくホールの方で劇を行うこともありますのであわせてご確認ください」

「わかりましたわ。ありがとう」


「えぇっと、別棟につきましてはこの廊下を突き当たりまで進んで――」

「あぁ、そっちか」


(人多いなぁ……)


やっぱり始まってすぐの、この時間帯に一番人が集まる場所といったら受付場所だろう。

案の定、人は多いし、受付をする生徒たちからしたら貴族を相手にしなくてはいけないわけだから粗相がないか、そわそわして落ち着かないことだろう。


出来ることならば手伝ってあげたい……といっても、問題が起きてない内に私が介入することはできない。


それは、私が本来平民であり、この場で貴族と生徒の会話に介入できる正当性が「生徒会役員」であることしかないからだ。

私個人としてではこの階級主義の貴族社会で発言権を持てない。ただ、生徒会役員という立場ならば「学園の秩序」を守ることが何よりも優先される。


だから、私が生徒会役員として、発言できるのはそれ相応のトラブルや、問題が起こったときに限る。


どうにか何もないまま無事に終わってください、と願いながらホールを去ろうとしてすんっ、と真顔になった。


「なんでそんなところに移動されたんだ!!」

「えっあー……それは生徒会が……」


早速トラブルである。……まぁ、一筋縄ではいかないだろうなとは思っていたけども。そして何やら生徒会の名が出ている。

対応している男子生徒に対し、相手は大の大人の男性。身なりから考えても貴族だろうし、男子生徒もどう対応していいかわたわたしている。


本来受付の生徒はそれなりに家の位が高く、社交界慣れしていそうな人を選んだはずなのだがこの生徒は見るからに不慣れそうである。


このままだとさらに何かが起こりかねないし、どっちにしろ生徒会の名を出してしまったのだ。この様子だと周り回って生徒会まで押しかけるのも時間の問題だろう。


「すみません。お話中に失礼致します」

「急に割って入ってなんだお前は?」


それを今言おうとしてたのになーと心底思いつつ、態度には出さない様必死で封じ込める。


「名乗るのが遅れて申し訳ございません。生徒会役員、月乃玲明です」


その言葉を聞いて一瞬男の目が見開かれた。

たった今、詰めかけようとしていた生徒会の方からやって来たのだ。その反応は当然だろう。


「偶然通りかかったら生徒会の名前が聞こえたもので、何か疑問点等ございましたら、お答えになれるかもしれないとお声をかけさせていただいた次第です」

「え、あぁ!そうだよ。なんで美術クラブの展示が隅まで追いやられているんだ!」

「………………」


いや……嘘――


美術クラブ関連なの!?!?


美術クラブにいい記憶はない。

もう二ヶ月くらい前になるだろうか。私たち、生徒会と美術クラブの間にはしょーもない事件が起こった。

その名も、私が記憶を失って一番初めに起きた事件、生徒会室の鍵消失事件。


鍵の在り方を漏らした共犯者は未だに調査しているが、わからずじまいであり完全な解決とはならなかったが、とりあえず主犯の立花隼人は怪我を充分に治すための一ヶ月療養するという名目で謹慎処分になった。


未だに美術クラブのクラブ長は務めており、クラブ員の一部、事情を知る者たちはクラブ長の熱意に当てられそっち側に行きつつある人もいるとかなんとか……なのだが。


やはり問題行動を起こしたとあって、生徒会側からの規制は強くなる。結果今年のクラブ展示場所争奪戦は惨敗し、展示場所は人が集まりにくい別棟の方まで追いやられたそうだ。


こちらからしたら自業自得だし、未だにしょうもない理由で時間を割かれたことに苛立っている。


だが、そんな事情を一般生徒、保護者は知らない。

故に、側から見たら、何もしていないのに隅に追いやられてしまった美術クラブは不遇に見えるのだろう。

今までちゃんとした場所を取っていたのに今年から急に、となっては何か不当な扱いを受けているのか心配になるのはまぁわかる。

……だが、だからといって急に騒いで怒り出すのはないだろう。


「……その件につきまして、ご説明させていただきたいと思います……が、それなりに長くなるお話ですので場所を変えてお話ししたいのですがよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ」


今までは男子生徒が何も答えられなかったため、男が一方的に話す形になっていて、それを「自分が優位」だとでも勘違いしていたのだろうか。

私側から話を切り出さすと、上手く答えることが出来なくなり、私の案に見事に流された。


場所を変えるのは、他の生徒に聞かれたくないから、というだけではない。


わざわざ場所を変えるのだ、折角戦うなら自分に有利な状況を作れる場所の方がいいではないか。


「ふふ」


私は笑った。悪役スイッチとでも言おうか、折角の学園祭なのに周りの状況も見ずにわぁわぁ喚き出した人を叩きのめしたくて仕方がない。


そんな私は気づかない。


「なんか怖ぁ……」


こちらが味方に回ったあの男子生徒でさえも、なんか怖いと思うほど不気味な顔をしていたことに。


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