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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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十五話 身支度十分以内って逆にどうやったら出来るの?友人R.Mの疑問


「酷いお人ですね」


先ほど制服姿の少年少女が退室した背を見送った私の主人は椅子に座ったままそちらを向いている。

本来ならばこちらから話しかけることは許されない立場であるが現在の二人きりである空間ならば恐らく許される。


「酷い人……ね。その誹りは甘んじて受け入れますわ」


そう、このお方はそういう人だ。

人道に反するとされることを、反すると知っていながらも必要とあらばやって見せる。それこそなんの躊躇いもなく。


「けれどルーメルトの名に誓ったあの部分は嘘ではなくってよ?」

「真実も言っていませんがね」


その返しに主人は音もなく笑ってみせた。

「主犯側ではない」だからといって完全に巻き込まれた被害者であるとは言っていない。

「この国に危害を加えるつもりはない」加えるつもりはないが危害が加わったときは加わったときである。

あの少年少女を囮として使ったときも、危害を加えるつもりはなく、極限まで怪我の危険性を潰しながらも使う。


やはり主人はそういう人なのだ。


「……それで?わたくしがリレーの列に並ぶ際に引き止めたあの案件。どうなりましたの?」


茶番はお終い、と言わんばかりにすっと表情を切り替えるとこちらに視線と言葉を向けた。


「その節は御手を煩わせて申し訳ありません。やはり、あの説が正しい可能性が高いとの予測がつきました」

「そう」


主人は短い返事を返すと目を伏せた。この表情をするときの主人は次の身の振り方を考えている時だ。

その瞳が次にこちらを捉えた時、恐らく新しい指示が出される。


「わたくしは内側からその存在を探りますわ。貴方は対象人物の出生から最近の動向を出来るだけ探りなさい」


思わず笑ってしまいそうになる無理難題な指示。

その存在がよくわからないから問題となっているのにそれを探れという。そんな指示に――


「御意に」


私は笑って答えよう。


表を生きながら裏を生きる我が主人。

付き従うのは恩だとか、愛だとかそんな大層な感情がある訳ではない。それが契約であり、ただ私たちの明日を守るため。それだけだ。


* * *


「月乃会計、もうクラス出し物の開始アナウンスになりますが……」


生徒会室で突っ伏してピクリともしない……できない私、月乃玲明に躊躇いながら声をかけてくるのは風夜先輩だ。……気を使わせてしまってすみません。

返事したいところなのですが今口開いたら多分吐きます。


「れい……あれ基本食べ切れる前提で出されてないから程よい感じに残すのが大事。最初に言っておけばよかった……」


のあが何とも言えない表情でこちらを見る。

……そう、私は今あのフルコース料理のせいで苦しめられていた。


前菜も量が多いなーと思いつつ食べ切り、スープもバッチリ飲みきり、魚料理が出てきた辺りで胃はだいぶ死んでいたがなんとか食べきった。

その後のアイスは別腹に収納され、あーよかったと思ったのも束の間、肉料理が出てきた。死んだ。

さらにその後にデザートが出てきた。おかしいって。あのアイスなんだったんだ。

そっからもうほぼ覚えてないが多分気力で食べきった。


「風夜先輩、ちょっとれい今色々あって口開いたら死にそうなのでとりあえず休ませてあげてください。

恐らく後、十分あれば生き返ります」


の、のあぁぁぁぁ……。凄い、のあに後光が差してる。持つべきものは、のあ。一家に一台のあ。さっきは悪魔なんて言ってすみませんでした。


「……とりあえずはわかりました。仕事は華道書記の方に回しておきますので終わり次第月乃会計と分担するように」


若干呆れが滲み出た声ながら了承の返事をしてくれた風夜先輩に目線でお礼と謝罪を伝えた。

首を傾げた後去っていったのでちゃんと伝わったかは定かではないが。


「れい、返事しなくていいからとりあえずこの後の動きだけは確認するよ」


目線ですみません、と了解です、を伝えた。

「はいはい」と返事をしてくれたのあには多分どっちも伝わってくれていた。流石のあさん。


「現在が十一時半。十二時から先輩三人は来賓の出迎えと案内に回るから、恐らく一時間から二時間は身動き取れないだろうし聞きたいことがあったら今のうちに」


少しずつ胃の中身が落ち着き出したため首を動かしてこくこくと返事をする。


「そんでもって僕らのクラス劇は一時半集合。それまでは校内を回ったり本部とされるこの生徒会室に待機でアナウンスやら運営の対応」

「の、あ……開演、って、もっ、と後……うぐぅ」

「あーほら、無理に喋らない。

開演は三時四十五分からだけど確認やら、れいの場合は主役だからヘアセットやら着替えやらお化粧だとか色々あるんだよ」


成程。それがあるから開演よりかなり前に集合しなくてはならないのかーと一人納得する。

一時半から三時四十五分までを支度の時間と考えて……あれ!?


「支度、って、一時間半っも、かかる、も、のなんです……か!?」


必死に絞り出した言葉に対するのあの返事は半顔だった。


「あのねぇ……れいの役は姫な訳だから、ドレスとか着なきゃいけない訳で。まぁ社交界に出る子と同じ様に支度するんだからそりゃあまぁ一時間半はかかるよねって感じだけど」

「世の、ご令嬢方、は大変です、ね」


いくらか滑らかになった言葉でそう伝えても、まだのあは半眼だった。


「れい、いつも登校するときにかける身支度の時間は?」

「ご飯を、考えなけれ、ば、制服に、着替えて髪結ぶ、だけ……なので、十分、もかかりませんよ……?」


ついにのあが手で顔を覆った。


「れい、基本世のご令嬢は身支度に三十分はかけるから。ちょっとれいの身支度が簡素すぎるだけ……」


世のご令嬢方は三十分もかけて何をしているのだろうか。切実に気になるところではある。


「まぁ、いい経験だよ。着飾る経験してみたら意外と楽しいかもだし」


えぇーと思いながらも私は何か反論する術をもたない。……というよりここで反論したところで何にもなりはしないのだが。


兎にも角にも、一時間半もじっとしていられるだろうか。少し、心配ではあるがまぁどうにか頑張るしかない。

出てくる女性陣の皆さん、ほぼほぼお洒落に興味ない方々なんですよね。


玲明→とりあえず着られればいい

凛→身だしなみは大事です(社交界のドレスは武装)

留紀→着飾る暇があったら本を読みたい

ライ→公爵家の色々がなければ多分服着ておしまい

ミア→お洒落楽しいわよ!最近の流行りはねーー


みたいな思考です。

強いて言えば、留紀さんが若干目覚め気味かもしれない……(参照、番外編)




おまけ


楓先生→お洒落?んなもん関係ない!どれだけ男ウケするかが正義じゃ!(やけくそ)

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