十四話 やっぱりライはライ
「ルーメルトの末端……」
私、月乃玲明はその言葉を反芻するしかなかった。
隣にいるのあも同じように驚いた顔をしているだろう。末端であろうともルーメルトというその名、その容姿だけでそこには力が宿る。
「はい!もう末端も末端らしくてこれといった権力か付くわけでもなんでもないんですけどねぇー。
ルーメルト公爵家からすると末端のものであろうともルーメルトに関わりあるものが孤児として水準の低い生活を送るのはよろしくないそうで」
しかし、当の本人は何かを気にする様子もなくつらつらと説明を続けるばかりである。
「えーっと、えーっと……ライ……様?でいいんですか……いいんでしょうか?」
結局何をどう接すればいいのか分からなかった私は様付けにしてみた。ライ吹き出した。……解せぬ。
「ライ様はやめてくださいってぇ。玲明は玲明様ーって言って急に敬語でかしずかれたらどんな気分ですかぁ」
「え?うーん……羞恥で死にたくなりますかね」
「私を殺さないためにもぜひ今まで通り接してくださいよぅ。私は平民なんですからぁ」
とりあえず、今まで通り。という結論に落ち着いた私は、ふと思い返しまた気になる点を引っ張り出す。
「ライ、平民っていいましたよね?」
「そうですよぅ?」
「それにしては言葉遣い、凄く丁寧じゃないですか?しかも和語の発音が凄く綺麗です」
今になって思い出したがメリト国の公用語は西洋標準語と呼ばれるこの西の地のどこでもほぼほぼ通じる言語だ。しかし、この地レティア国は人名からもわかるように和語を基本に使う。
一応公用語は和語と西洋標準語とされており、その辺の人をつかまえて西洋標準語で話しても全然伝わるくらいに浸透しているため西の地内での留学生もそれなりに来やすいのだが、ライは完璧に和語を話している。
そして、いつもおちゃらけた間伸びしている口調ではあるものの、丁寧な口調で話せることも知っている。
「あー、それについてはですねぇ。
さっき公爵家の見栄の話したじゃないですかぁ、それと同じくルーメルト公爵家の名を後ろ盾とするなら言葉使いは丁寧に!マナーも仕草も全て丁寧に!和語を使う国に行くならば完璧に話せるようにして行きなさいとのことでしてぇ……。まー、めんどくさいことこの上ない」
あの常ににこにこしているライが笑顔を引っ込めて遠い目をし出した。死んだ魚の目をしているライはなかなかレアだ。相当キツかったのだろうか。……そして何故かのあも死んでいる。何があったのだ。
「……そこについてだけは凄く同情する」
「わかってくれますかぁ!!この部屋も料理も全部「公爵家の威厳を示すため!」なんですよぅー。正直もういいじゃないですかぁ!って思うんです」
なるほど。部屋に入ってきた時の「もっと軽い料理が出せたらよかった」というのはそういう背景があったのか。
「まぁ、でも新設された体育の部に出たいって話をしたら、初めてのものだから勝手が分からないだろうし知り合いや友人と関われる場を作ってあげてもいいよーって言われたので折角だし玲明の近くにしちゃえ!って思いましてぇ」
融通が利くところもあるようだがやっぱり貴族は色々大変そうだと思う。
……あと隣ののあは、目が死んでるが何を体験したというのだろう。
「なんか、色々買うのもルーメルト公爵家のお金なので、好きな小説が買いたかろうと下手に使うと怒られるんですよぅ。だからひっそりバイトしようと思ってあのバイトやってたんですけどぅ……まさかあんなことになるなんて思わないじゃないですかぁ!」
「あ、それ聞こうと思ってたんですよ」
気になっていたいくつかのことの一つに考えていた議題がふいにライの口から漏れ出たためそれに乗っかっていく。
「あれ、本当にバイトしてただけだったんですか?」
「そうですよぅ。バイトしてたら急に衛兵さん詰めかけてきて吸血鬼が牛耳るなんかやばい館だったとか言われて……いやぁ、ついてない」
本当だとするならこれ、ついてないどころの話ではないのでは?ルーメルト公爵に見つけてもらった事で全ての運が尽きたとでもいうのだろうか。
「とりあえず、のあも玲明も一番気になっているであろうところをまとめましょうか」
そう言って、目で追う隙もないくらい素早く無駄のない動きで立ち上がるとこちらに向かって礼をした。
「――私は、この国に危害を加えるためにきた訳ではありません。
あの夜の事件も私が主犯側として関わっていた訳ではないと断言致しましょう。私は性を持たない人間ですので後見であるルーメルトの名に誓いましょう」
それは、ただただ静かであり、無駄なものを何もかも削ぎ落としたような、純粋な言葉であった。
「僕らや、この国に危害を加えるつもりはなかった。それが知れれば十分です。だからといって完全に信頼することもできない、とは言っておきますがこれ以上その件は引きずらないことといたしましょう」
「私もそれで。……私は同じ学園にいるんだし出来れば仲良くしていただけたら嬉しいな、と思ってます」
のあの返答を真似ながら私もライに向けて言葉を返す。
「ありがとうございます」
ライとは思えないほどの静けさでその言葉を紡ぎ、顔を上げたかと思ったら……。
「……とりあえずあの日の件について決着はつきましたし、ご飯食べ切りましょうよぅ。走っておなか空いてるんです」
やっぱりライはライだった。
「……そうですね。食べましょうか」
扉の奥からのスープの匂いにわくわくしながら私はまた席についた。




