八話 弱者救済処置より下克上って呼んだ方がカッコよくね?
赤チーム勝利という、結果を納めた第三競技、玉入れを終えた私、月乃玲明は、生徒会本部席にもど――らずに、また第一入場口に並んでいた。
私はこのまま、第四競技――最終種目であるリレーにも出場予定のため、生徒会本部席に帰らずに第一入場口にて集合が掛かるのを待っている。
「お、月乃じゃねぇか」
「あ、一条先輩」
第三競技が終わり、それなりに時間が経ったため第三競技の人たちはほぼ二階の観客席に戻り、かと言って第四競技の最終アナウンスもかかっていないため、ここにいるのは私のように連続で出る生徒くらいなものだが、その生徒数も多くはないようで見つけやすかったようだ。
「さっきはのあが先導してましたけど、今回は一条先輩が?」
「あぁ。第四競技はあいつも出場側だからな。白チームの列を先導してそのまま列に回った方が早い」
「成程。最終競技はのあと直接的に戦うことになる訳ですか」
そういうと眉間に皺を寄せながら、半眼で睨みつけられた。美しい顔はどんな表情をしていても美しいがなかなか怖いのでちょっとどうにかしていただきたい。
「……今はそっちが有利だからって負けねぇぞ」
「悠里さんなのに、そっちのチーム不利なんですね」
「やかましいわ」
しょうもないボケをつい口に出してしまったが為に一条先輩がツッコミに回るとかいう大変珍しい状況ができてしまった。謝る必要があるかはよくわからないところだがとりあえず心の中で謝ろう。なんかすみません。
「さて、そろそろアイツがアナウンス入れ出す頃だろうし俺も準備に戻るわ。じゃ、敵だし応援はしねぇけど怪我しないように、ほどほどに楽しんでやれよ」
「ありがとうございます」
手をヒラヒラと振りながら去っていった一条先輩を見送る。……柄こそ悪いが普通にいい人が隠しきれてないんだよなぁ、と度々思う。
『今から十分後に第四競技、リレーを開始いたしまーす。これがラストの競技になるので参加側も観戦側も楽しみましょうねー。
出場生徒は赤チーム第一入場口に、白チーム第二入場口によろしくお願いします』
なんとも峰先輩らしいアナウンスが入った。
改めてラストの競技と言われると少しだけ寂しいような……。
だが、ラストのリレーはなかなかに見ている方も面白いだろうと思う。
なんにせよこれで勝敗が決まるのだ。
今までの競技は、勝ったチームに十ポイント、負けたチームに五ポイントの得点が与えられる。
今は第一競技白チーム、第二競技赤チーム、第三競技赤チームの勝利で、白チーム二十ポイント。赤チーム二十五ポイント。
現在赤チームが五ポイント差で勝っている。
だが、最終種目、リレーはそう一筋縄ではいかない。
――遡ること数週間前。
* * *
「なぁ、これ第三競技までどちらかのチームがずっと勝ち続けてたら三十ポイントと十五ポイントで倍の差が付くから絶対的に勝ち目ねぇよな?」
「うん、まぁそうなるよね……?」
点数配分の確認の時、急に一条先輩がそう言い出した。
だが、それは普通に仕方ないのではないだろうか……と誰もが思っていたところに一条先輩が追加の説明を入れた。
「わかってねぇな。そこまで大差がついて、第三競技の時点で勝敗が決まっちまうと最後まで見る生徒が減るだろ。
はい、ここで問題。華道そんな生徒たちに残る思い出は?」
「へっ!?……うーん、特に面白くもない、なんなら記憶にも残らない思い出……になるんじゃないですかね……?」
「正解」
何故かこの局面でニヤリと笑った一条先輩は、この状況を静かに見ていた風夜先輩に視線を向けた。
「会長、今年から始めた体育の部。つまらないなんて記憶で終わったら今年の生徒会の評価は?」
「……まぁ、色んなところから予算を削り、余計に使ったとして延々と恨み言を言われる最悪世代として名を刻むことでしょうね」
淡々と、だがそれこそ想像したくない事態を述べた、風夜先輩に一条先輩はビシッと指を突きつけた。
「そこでだ、絶対に最後まで飽きさせない方法がある」
『絶対に飽きさせない方法?』
全員がその言葉を繰り返した。そんな方法があるのなら、それはもちろん知りたい。
「……本当にそんな方法があるんですか?」
流石に気になった私は一条先輩に問いかけた。
「あぁ」と二つ返事で軽く流した一条先輩は、「一条の管轄の辺りや三文の方で使う言葉なんだが……」と前置きをして、言い放った。
「――下克上。逆転用の救済処置を作ってやればいい」
* * *
という訳で、その会議は一条先輩の独壇場となり、一条先輩の出した案は勢いと、割と正当性のあることからとんとん拍子に整えられ、今から第四競技に適用される……が、肝心の内容は、まずリレーの形式の話からになる。
私たち、生徒会(と生徒会メンバーの知り合い数名)で行ったリレー対決の際は赤チーム、白チームの単純な、二チームで競技を行なったが、これだと大勢になった時の待ち時間が凄いことになる。
大玉転がしも似たようなものと言ったらそうなのだが、やっぱり「玉を転がしながら走ります!」という競技より「ただ走ればいいよー」という競技の方が内容が分かりやすかったため、リレーの方が希望人数は圧倒的に多かった。
と、まぁそんな背景もあり、リレーのチームを赤チームに属する赤、黄色チームの二つと白チームに属する白、青チームに、それぞれの組を二つに分けた、計四チームで行うことになった。
ここからが、肝心の内容になる。
今回の第四競技のみ、四チーム制にしたため、赤、白で決めるのではなくそれぞれ、四チームごとに点数が決まるようになっている。
一位のチームが十ポイント、二位のチームが八ポイント、三位のチームが五ポイント、四位のチームが二ポイントという大盤振る舞いだ。
そして、さらにここに一条先輩が付け足した、下克上ルール。それは、第三競技までの総得点が低いチームが四位をとった場合、ミスゼロでで追加得点が入るというルールである。
例えば、現在の状況でリレーが終わった時の順位を赤チームが一、三位。白チームが二位、四位と仮定する。
すると基本ポイントが赤チームは十五ポイント、白チームが十ポイントで総得点は十ポイントの差がついて白チームの負けだ。
だが、この時バトンパスの範囲を守ったり、内側からの追い抜きがなかった、などのミスが何もなかった場合、追加得点が入る。
負けているチームと勝っているチームの得点差により倍率は変わるが現在の総合得点差でいくと二、五倍が第四競技の白チーム得点にかけられる。
さっきの仮定でこの制度を用いると、赤チーム十五ポイント、白チームは二十五ポイントになり総合得点は赤チーム四十ポイント、白チーム四十五ポイントとなり、白組の勝利が見えて来る。
本来六通りの結果で、引き分け以上にできる結果が二通りしかない中、この制度を用いれば九通りまで結果を増やすことができ、なおかつ引き分け以上は四通りと半分近くまで確率を上げることが出来るのだ。
よく出来た制度だなぁ、と私は思うが一条先輩のことだから、単純に「楽しそうだから」という理由で推し進めていた気がしなくもなくもない。
「そろそろ人も集まったようだから点呼始めるぞ、さっさと答えろよ!黄色チームの一番――」
そう、思考を巡らせているうちにいつのまにか周りには大勢の人がおり、一条先輩も点呼を始めるところだった。
「……月乃!」
「――はい!」
差し迫る決戦の時を前に、私は決意を新たにし、一条先輩の声に元気よく返事をした。




