六話 仕事中毒者、副会長に丸め込まれるの巻
「さて……まずはお疲れ様でした」
隣に座っていた教祖様からかけられた労いの言葉を私、月乃玲明は受け取った。
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「そろそろ風夜お姉様がお戻りになられる気配がありますのでわたくしは風夜お姉様に気づかれる前に下がりますわ」
風夜先輩の前に姿を表さないとかいう謎ルールを課しているのだろうか。やっぱり謎だなぁと思いつつ、振り返るともう教祖様の姿はなかった。
いや、早いって……と思っていたとき、声をかけられる。
「月乃会計、すみません遅くなりました」
「!?」
「…………きつねに摘まれたかのような顔してどうしたのですか?」
きつねどころか反対側の頬をたぬきに引っ張られているかのような勢いで私は変な顔をしていることだろう。
……先ほど割と感動的な話を聞かせていただいた訳だが、まず最初にこれだけはツッコませていただきたい。
なんで分かった!?
センサーでも付いているんですかと言いたくなってしまった。やっぱり教祖様ってちょっとヤバい人かもしれない。
怖い。やっぱり風夜教教祖様怖い。
「いえ……すみません。なんでもないです……」
その後の私の表情筋は、震えと驚きを抑え込むのに総動員された。
「そういえば次の種目は月乃会計の出場種目では?」
「あ、はい!そうです。第三、第四種目は出場側です。……でも、忙しい中穴を開けてしまうことになりますね」
そういうと少しだけ瞳の光を揺らしながら風夜先輩が言った。
「実をいうと私も第三は出場側なんですよ……私は出場取り消しするので月乃会計だけでも行って……」
「待った」
今後の行動方針についてを話し合っていると、ふと待ったの声が掛かった。
「峰副会長」
それは、先ほどまで競技に出場していた峰先輩だった。
「さっきまで月乃くんたちに任せきりだったからね。
流石にこれ以上二人を仕事にばっかり縛り付けてるわけにもいかないよ」
「いえ、でも……」と渋る風夜先輩を前に、「……あぁ、そう言うと凛くんは尚更離れられなくなるかぁ」と呟いた峰先輩は少し悪戯めいた顔をしていた。
「風夜凛生徒会長、副会長として進言いたします。
体育の部の不備がないか、生徒会長自ら確認していただくためにも第三競技には是非出ていただきたいのですが……いかがでしょう?」
……凄くいい笑顔。
峰先輩は「生徒会長」として仕事の一環で第三競技に行っていただけないでしょうか?(にっこり)
と、提案した訳だが……。
「…………」
凄く苦虫を噛み潰したような顔をしている。無表情といえば無表情なのだが。
……割と忘れがちだが、仕事中毒と呼んでも差し支えないレベルに一日の大半を仕事で埋め尽くしている風夜先輩は仕事を他の人に任せて自分だけ楽しんでしまうことに罪悪感があるのだろう。
「ほら生徒会長さん」
「…………仕事だと……思えば」
折れたのは風夜先輩だった。
「仕事、そうこれは仕事なのです。よって正当、私が気にする必要は何もない……」とか呟き出したがこの人だいぶ末期じゃないだろうか……。
だが、そんな風夜先輩だからこそ仕事として出されると断りずらいだろう。ましてや「不備がないかの確認」という名目ならそれなりに筋は通っている……ような。
「よし!じゃあ、凛くんも月乃くんもまとめて行ってらっしゃーい!」
にこやかな笑顔で峰先輩は送り出した。
爽やか〜なその笑顔は、風夜先輩には悪魔に見えた笑みなのかもしれない。……というよりなんだか風夜先輩を含みのある眼差しで見ている。
「……こうでもしないと結局踏ん切りつかないんだから」と、呟いたその真意はなんだろうと考え、頭からかき消した。
とりあえず色々考える前に風夜先輩に現実に帰って来てもらい、移動しなくては。
「風夜先輩、行きましょう」
「……!そうですね。すみません、少々取り乱しました」
今日は世界の全てをシャットアウトして飛んでいた訳でもないらしく、少し声をかけると風夜先輩はこちら側に帰ってきた。
しゃきっと再び姿勢を正すときびきび歩き出す。
歩き出せば早いもので、もう第一入場口と第二入場口に分かれる通路までやってきた。
「……月乃会計、どうぞ楽しんで」
ぼそっと呟いたこちらを気遣う言葉。だが、自分を対象に入れないその言葉に些細な反抗の気持ちも込めて言葉を返した。
「風夜先輩も……楽しんで」
少しだけ目を見開き「えぇ」と返した風夜先輩は第二入場口へと向かって行った。
その背を見送りつつ、私は私で風夜先輩とは反対方向へ向かう。
生徒会の本部席から裏ルートで降りてきたため今まで人通りは全くと言っていいほどなく、静かな道だったが集合場所である第一入場口に近づくにつれ人の話し声や足音といった声がよく聞こえるようになってきた。
「えー、点呼をするので名前を呼ばれたら答えてくださーい!!登録番号一番の……――」
近づくにつれ増える声の中でも、よく聞こえる声があった。
「れ――月乃玲明さんーいらっしゃいますかー?」
……今絶対癖で「れい」と呼ぼうとしてた。
その呼び方をする人は私の知り合いに一人だけ……幼馴染の華道のあである。
「はい」
「了解でーす!次に――」
生徒会役員としての仕事中であるため表だった会話は出来ないが名前を呼びながら、ちらりとこちらに目配せをしてくれた。
きっと『頑張れ』と伝えようとしたのだと、読み取れるくらいには私ものあの思考回路が読み取れるようになったものである。
……きっと、二ヶ月間ほぼ一緒に居たという密度の関係もあるが記憶を失う前から染みついた何かもあるのだろう、と私は密かに思っている。
『まもなく第三競技、玉入れを開始します。赤チーム、白チーム、両チーム入場してください』
珍しい峰先輩の敬語に不思議な感覚を覚えながら私はのあが先導する列に並び競技場へと入場していった。




