四話 風夜様の素晴らしさ
風夜教教祖様から言葉を投げかけられた後、私、月乃玲明は少しぼぅっとしていたが、「ほら、行きますわよ」と声をかけられるがまま本部席へと戻った。
なんというか……戻って驚くことになる。
「第二競技に向けての準備はこれとこれ……ですが先ほど帰りがけに指示を出してきたのでもう大丈夫としてついでに第三競技に向けて今出来ることとしましてはこれがありますわ」
「え、あ、はい。やっておきます」
風夜教教祖様が、驚くほど優秀だったのだ。
「追加で得点計算係より、現在のチームごとの得点がわかりやすいようにボードを取り付けたいとの意見をもらっていますがご指示は?」
「うーん……設置場所やボードの取り付けが簡易的だと落下の危険性があることから私の一存では決められません。風夜先輩か峰先輩が戻り次第確認を取りますのでいつでも設置出来るようにして待機をよろしくお願いします……とお伝えいただけますか?」
「わかりましたわ」
話しながらつくづく思う。……この人本当誰だろう。
あの扇子を突き付け、一条先輩を黙らせ、早口で風夜先輩がいかに素晴らしいかを語っていた人と同一人物だろうか。
「もうそろそろ第二競技の開始時間になりますのでアナウンスの用意をしておきました。どうぞお使い下さい」
「あ、ありがとうございます!」
『間もなく、第二競技大玉転がしを開始いたします。
赤チーム、白チーム、入場して下さい』
私のアナウンスでまたもやのあと一条先輩を先頭に入場が開始された。
赤チームの列には先ほどと同じく峰先輩、加えて白杜先輩がいた。白チーム側は一条先輩が先導しているが、現在赤チームの先導をしているのあも、第二競技は出場するらしく、先導が終わったら白チームの列に混ざる手筈だ。
入場が完了した所でパン、とまた競技開始の音が鳴り、事前に組まれた二人一組で玉を転がしはじめた。
『第二競技、大玉転がしで最初に一歩リードしたのは赤チームです』
今回、リードをしたのは先ほどの大縄での失点を取り返すべく士気の上がった赤チームであった。
私も赤チームの一員だし、出来ることなら赤チームに勝ってほしいと思いながらも実況についつい漏れ出てしまうことがないよう注意する。
「お疲れ様ですわ」
「ありがとうございます」
労いの言葉をかけてくれた教祖様にお礼をしつつ、教祖様にも席を進め、二人で本部席に並びながら競技の様子を眺める。
「教祖さ、……先輩は見たところ出場はしないようですけれどどちらのチームを応援していらっしゃるのですか?」
「それはもちろん風夜お姉様の所属する白チームですわ!!」
あ、これは間違えた……と密かに項垂れる。
やっぱりいくら有能でも教祖様は教祖様だった。
「風夜お姉様はなんでも出来る天性の秀才とも呼べますが、人一倍の努力家でもありますのよ。
この体育の部も密かに体を動かし、練習しているところを見ましたわ」
「努力家……?」
ここで聞き返してしまったら教祖様の語りにさらに熱が入ることなど想像に容易かったが、どうしても風夜先輩には想像がつかなかった「努力家」という言葉が気になり聞き返してしまった。
「努力家……と似て非なるものではありますが忍耐強かったり、何事にも熱心に取り組むところがありますのよ」
意外な言葉に続いて教祖様はさらに言葉をつづけた。
「……昔の風夜お姉様はお体が弱く、思うようにお身体を動かせないことも多かったのですわ。
ですけれどそんな中でも、必死に自分のお役目を果たそうと、周りに気づかれないよう社交界に出ておられましたの」
風夜先輩、お体が弱かったんだ……と、私は驚きに目を見開きながら食い入るように教祖様を見つめた。
「……その様子だと」
「そう……ですね。聞いたことありませんでした」
教祖様は少しバツの悪そうな顔をするとポツリと呟いた。
「風夜お姉様が伝えていなかったことをわたくしの口から伝えるべきではなかった……迂闊でしたわ。
……どうぞ忘れて下さいまし」
そう言った教祖様のいう通りで、これ以上は踏み込んでもいけない気がしたので少しだけ話題を変える。
「……先輩って風夜先輩をいつから知っているのですか?」
「そうですわね……わたくしは四、五歳あたりから風夜お姉様を崇拝しておりますわ」
いや、目覚めるの早くないか……???と思った私は悪くない。
四、五歳って……どうやって出会ったのかも気になってしまった。
「出会ったのはどのようにして……?」
「わたくし祖母と風夜様の御祖母様が友人同士だったのですわ。その関係で幼少期、遊び相手という名の子供の社交練習相手としてお会いしたのですけれども……その時、一眼見てあのお方が神であることを悟ったのですわ」
「は、はぁ……」
前半は理解した。だが一眼みて神であることを悟るってなんなのだろうか。
具体的に聞いてみたいという好奇心もあるが、またあの熱量で話されるのは避けたいがため、ここは好奇心を抑えよう……と一人言葉を飲み込んだ時、信じられないことを口にされた。
「どうして神だと思ったのか気になるようですわね」
「!?」
そんなに顔に出ていたのだろうか。そう考えいるとまた心を見透かされる。
「次は何故わかったのかという顔ですわね?」
「魔術ですか……???」
こんなことに使える魔術など少ないだろうと考えながらもそう思わずにはいられないほどの的中率に私は慄いた。
「生憎ですが魔術ではありませんわ。
……わたくし、人の心情を読むのが得意ですの。
その人の目線、眉の角度、口元、瞬きの回数など、細かなところまで観察して、どうしても読み取ってしまうのですわ」
その表情は何を考えているのか全く読み取れない。
自分が、人の表情から心情を読み取れることを知っているからだろうか完璧に心情を覆い隠すかのようにその表情は造られていた。
「情報を引き出したい時には上手く話題を振ってそれに対する反応を見ればそれでいいのですから貴族社会を生き抜く為には凄く有利な特技でしょう?
――でも、わたくしはそれにうんざりしていましたの」




