二話 大縄対決
穏やかな開会式とは一変、一番初めに開催される今年新設の「体育の部」に向けての指示だし、その他用意に私、月乃玲明や他生徒会メンバーは奔走する。
「月乃くん、アナウンスの方お願い!」
「わかりました!」
『これより十分後第一競技、長縄跳びを開始いたします。赤チームは第一入場口へ、白チームは第二入場口へお集まりください
また、「体育の部」におきまして魔術の使用は原則禁止とさせていただきます――……』
その後も他の細かいルールを読み上げ、初仕事であったアナウンスを終えた。だが、ホッとしたのも束の間。
「月乃くん、忙しいところ本当申し訳ないけど第一競技と第二競技は僕、出場生徒側だからそろそろいかないと……」
「え!?あ、はいっ!わかりました!!頑張ってきてください」
貴重な人手である峰先輩が一時離脱し、二人で分担してした仕事を一時は一人でやらなくてはならなくなってしまった。たが、指示を出さなくては……と声をかけると。
「すみません長縄の用意を……」
「先ほど峰様に指示を出されておりましたのでいまちょうど準備しているところです」
「あ、ありがとうございます」
意外にももう準備をしているとの返答が返ってきた。
峰先輩なかなか仕事はできる人なので私一人でも間に合う程度には捌いておいてくれたようだった。
……あの人本当こういうところは優秀なのに何故資料管理は疎かなのだろうか。
そして、峰先輩もいなくなってしまったし、風夜先輩の力も借りながら頑張ろうと思ったその時。
「月乃会計、数時間後の来賓対応の方で少し質問があるようですので一度校舎の方に行ってきます」
絶望に突き落とされるような言葉が紡がれた。
「校舎の方に?」
「はい。申し訳ありませんが、私が行かなくてはいけないようです。この後やることは数分したら開始のアナウンス。
競技中は簡単な実況と……」
指を折りながら幾つかの仕事を読み上げる風夜先輩の涼しげな声が、いっそ清々しい。
「競技が終わったら審判係の方から結果が届けられますのでそれの読み上げもよろしくお願いします。かなり多いですが……出来るだけすぐに戻りますので頑張ってください」
「わかりました。お気をつけて」
動揺を表には出さないように気をつけた私を誰か褒めてほしい。
内心では、一人ですかー、そうですかー。と、やさぐれているのだが、こっちも誰かどうにかしてほしい。
とりあえず、誰かどうにかしてほしい。
今のところ問題は特にないものの、私が生徒会教の方々に指示を出さないと思うと胃がキリキリしてくる。
そもそも生徒会教の方々にとって私という存在は美しい花の近くでたむろう虫ぐらいに思われているのだろう。
先ほど指示を出そうとしたときのように普通に会話が出来れば御の字。
何か一言二言オブラートに包んだ侮蔑の言葉が飛んでくるくらい覚悟はしておいた方がいいだろう。
(あ、時間だ)
どんなに大変だろうと仕事は仕事。
それに、信者達に指示を出すのは精神が擦り切れるが、体育の部自体は楽しみにしていたものの一つである。
『それでは第一競技、長縄跳びを開始いたします。
出場生徒の皆様はご入場ください』
手元の時計から入場時間であることを確認すると入場開始であるアナウンスを読み上げた。
そのアナウンスを合図に入場の担当をしている一条先輩、のあが赤、白チームの列をそれぞれ先導し、競技場まで連れて行った。
赤チームの方には峰先輩の姿も見える。
どちらのチームも入場を終え、回し手が縄を持ったのを確認すると、担当生徒の鳴らした開始合図である火薬の音が空に響いた。
『せーの』
両チームの回し手が声をかけながら縄を回す……が。
「これを飛ぶの……?あっ!?」
練習時間が取れてない、かつ生徒会目当てでとりあえず参加しただけの人も多かったことから両チーム、一回も飛ぶことが出来ないままだ。
それが数回目になったあたりで、ぽつりぽつりと不満の声が漏れ始めた。
「……こんなもの、何が楽しいの?」
「全然できねぇし」
「平民と一緒にやるなんて……ねぇ……?」
男子生徒、女子生徒、誰も彼もが不満を零し始め、良くない空気が流れ始め、私も焦りを覚え始めたその時、場違いな怒号が響いた。
「おいこの馬鹿野郎ども!このままだと負けるだろうがっ!!」
物凄い口の悪さで怒鳴り散らかしたその人は……
『一条様』
大勢の生徒がぽつりと呟いたその名前は口の悪さに定評のある生徒会おなじみ、一条先輩。
その姿は何処か、と探すと大縄跳びの白組列の一人として入っていた。
「平民だろうが貴族だろうが身分なんてもん八つ裂きにして犬にでも食わせとけ!!
とりあえずこのままだと負ける!!縄が来たら飛ぶタイミングを俺が声かけっからそれに合わせて飛べっ!!」
なんと横暴……と呟いてしまったのは悪くないはず。
身分を八つ裂きにして犬に食べさせるのは流石にダメだと思う。犬もそんなもの食べたくないと思う。
――だが、横暴極まりない言葉がみんなははっと目の色を変えた。
「そうだ、このままじゃ勝てない」
「一条様が言うのなら……」
まだ、平民と協力することに不満を覚えるものや疑心暗鬼の者もいる。
だが、王族に次ぐ権力を持つ六家の出である一条先輩の言葉だからこそ、身分を振り翳す貴族は特にその言葉に従わなくてはならない。
仕方なく従うもの、一条先輩ならと期待を寄せるもの、新しい方法を疑うものなど、人それぞれだがみんなが一つの列として並んだ。
「いきます!せーのっ!!」
運命の一回。回し手が声をかけながら縄を振り上げたのを注意深く、見ていた一条先輩が叫んだ。
「今だ!飛べっ!!!」
縄が地に着くスレスレを狙ってかけられた言葉に全員が同じタイミングで地を離れ――
――無事、縄が下を通過した。
「やったぁ!!」
「すごいっ!飛べましたわ!!!」
「え!?本当に飛べてる!?」
先ほどまでの暗い空気から一転し、そう騒ぎ出す様子を横目に一条先輩はふっと笑む。しかし、相変わらずの口調で告げた。
「気ぃ抜くなよ!!次来るぞ――今だ!!」
その掛け声に、さっきの一回で感覚を掴んだらしい生徒たちは一回目より軽く跳ね、二回目の縄を跳び切った。
『白チーム、現在二回。赤チームより一歩リードしています』
今まで全くしていなかった実況のアナウンスを思い出し、魔道具に声をいれると、赤チームもようやっと敵チームがうまく飛べていることに気づいたらしく各々焦り始めた。
「ヤバい!このままだと……」
「負けちゃいますね……」
焦り出す生徒たちをまとめたのは、こちらも生徒会役員だった。
「みんな落ち着いて。……僕らもあっちの作戦を真似しよう」
のほほんとしながらも、よく通る声。生徒会副会長、峰先輩だった。
「僕が声をかけるから、タイミング合わせて!!」
白チームが上手く飛べたのをみているからか、その作戦に皆期待を寄せ、大人しく一列に並んだ。
「せーのっ!!」
峰先輩の声に息を揃えてジャンプした赤チーム。
白チーム同様上手く縄が足の下を通り抜けた。
「次行くよ!!」
白チームもまだ、連続記録を途絶えさせることなく跳んでおり、それを見た赤チームが自分達も!と影響を受けて跳ぶ。それを見た白チームが……といいループが繋がり、試合時間である五分はあっという間に過ぎていった。




