一話 はじまりの時
章追加を忘れるという大失態……しかも題名にメモしてたのもそのままにしてた……なんかひやっとした綾取でした。
――リレー対決の時に新しく買い揃えた体育着を身にまとい、私のチームカラーである赤色のハチマキを特別高く結った髪にかけて私、月乃玲明はきゅっと思い切り結ぶ。
今、私は女子寮の一室にある自分の部屋にいるが、ここにいても控えめながらそわそわした話し声や、皆が支度をする生活音が聞こえる。
この服装も、この空気も、いつもとは違う。
――今日、明日は二日間開催の学園祭。
皆が待ちに待った、年度内最大規模の生徒会行事である。
私は生徒会として最終確認をするために、一般生徒の登校時刻より少し早めの集合時刻で、もうそろそろ出発するところである。
もう一度、姿見の前でくるりと回っておかしなところがないかを確認すると扉を開けて廊下へ出る。
女子寮全体に、そわそわとした空気は蔓延っているものの、まだ早い時間帯であるため廊下に出ている人の数はだいぶ少なかった。
(今日は午後に演劇の第一公演をして……)
「おーはよ」
ふと、かけられた声にパタリと足を止める。
「おはようございます。のあ」
頭の中で今日と明日のシュミレーションをしているしているうちに玄関まで着いたらしく、声をかけたのはいつも通り私を待っていてくれた幼馴染、華道のあである。
いつもと変わらぬ蒼い瞳に茶色の癖っ毛……だが、茶色の髪にはいつもとは違う白色のハチマキが。
「体育の部は敵同士だけど、お互い頑張ろうね」
ニヤリと少し悪い笑みを浮かべながら手を差し出される。その手をがっと掴むと――
「負けませんからね」
のあの悪い笑みを真似して、私もにっと笑ってみた。
* * *
「では、最終確認をしましょう」
第一競技場の競技場に私たちがついた時には他の生徒会メンバーである一条先輩、峰先輩、風夜先輩がもう既に集まって話をしており私たちが到着すると、早速それぞれの担当の最終確認に入った。
「学園祭の事前準備の担当と基本的には同じペアで活動していただきたいと思います。
一条庶務、華道書記が出場生徒の列整備、また観客席の方の整備」
「おうよ。列整備なら準備期間で散々鍛えられたからな。ばっちりこなすぜ」
自信満々に一条先輩が答えた。
のあがやけに実感のこもった目で見ているが、その気持ちもだいぶわかる程度には私も巻き込まれた。
……頑張れ、のあ。
「続いて月乃会計と峰副会長は、本部席の魔道具で全体に指示を出したりプログラムを読み上げる係、もう一つ競技準備係の方への指示もよろしくお願いします。
私も本部席に残るので、指示出しの方のサポート、その他諸々の雑務はお手伝いしますので一緒によろしくお願いします」
「了解しました」
そう返事をしたところで風夜先輩が、私の奥の方へ目をやりながら口を開いた。
「さて、そろそろ一般生徒も登校時間になります。各自持ち場の方へ移動を。三十分後には開会式を始めますので各々時間に間に合うよう、またここに集合してください」
その風夜先輩の掛け声で、みんな解散しようとしたが最後にポツリと零した言葉に全員の足が止まった。
「……頑張って、成功させましょうね」
その言葉に全員ばっと振り返る。私やのあはもちろん、峰先輩や一条先輩といった先輩メンバーも普段なかなか見ないように目を見開き、その表情が驚きに染まった。
数秒間、みんなが固まったかと思えばふっといい笑顔になり各々、激励の言葉を口にした。
「勿論、頑張ろうね」
「会長!絶対成功させるぞ!!」
「いい学園祭にしましょうね!」
「頑張りましょう!」
聞かれてしまったんですね、とでもいいたげな無表情の中に滲み出たバツの悪さがあったが、激励の言葉を受けるなり少しだけ表情を変えた。
「……えぇ」
短い言葉だったが、そこには恥ずかしさと嬉しさがこもっていたような気がする。
「風夜様!こちらの第一競技の機材はどちらに持って行けばよろしいでしょうか!」
「競技用機材は下の競技場の第四入場口にまとめられているのでそっちのほうへ」
『わかりました!!!』
一方では信者たちを上手く使いこなしながら指示を出し……
「月乃くん……プログラムと原稿どこいったかわかる?」
「嘘ですよね!?まさかなくしたんですか!?」
「プログラムならさっき下で見ましたよ」
「ちょっと下に探しに行ってきます!!」
一方ではいつもと変わらず資料をなくし……
「第一競技に出場生徒の皆さんは開会式の後、赤チーム第一入場口、白チーム第二入場口となっていますのでご確認をよろしくお願いしまーす!!」
『見て!一条様よ!!』
『いつもと違う服装でも見目麗しい……』
「おいそこ外野うるせぇ!!ちょっと黙っとけ!!」
「一条先輩!口悪すぎますって!!」
一方信者たちに牽制を入れ……
ついにその時は訪れる。
最終準備も全て終え、競技場に一列に並んだ私たち、生徒会役員。開会式も一通りの挨拶を終え、残された言葉は生徒会長たる風夜先輩の一言のみ。
「それでは、第七十二回ルトリア学園祭を開始いたします」
その一言に会場は大きな拍手で包まれた。
誰もが嬉しそうな表情を浮かべる開会式終了の言葉。
――今、学園祭の幕が上がった。




