四十六話 ▷パーティはぜんめつした
さっきまで、風夜先輩がいたという名残の扉の音だけも消えると、僕、華道のあと幼馴染、月乃玲明の二人の間には無言の間ができる。
「あのー……のあ?私、謝られるようなことをされた覚えがないのですが」
▷無自覚系天才少女があらわれた
そうだ!月乃玲明は無自覚!!
無自覚だから、こちらに手を回してきたのもただの流れ!深い意味はないしごちゃごちゃ考えず謝るのが最善!
……と考えたかったが、れいが無自覚なら僕はその無自覚に漬け込んだ最低野郎じゃないか……と一人罪悪感が渦巻く。
▷かどうのあはダメージをおった
「あのー、ですね。今朝……というか早朝、わたくし華道のあは勢いのまま……そのー……抱きついたじゃありませんか……?」
「あ、はい。そのことがどうしました……?」
「…………ごめん土下座していい?」
「急に!?」
謝罪をしようと思い切って口を開いたが、れいの「それがどうした」というきょとんとした態度に尚更、罪悪感を掻き立てられ、土下座がしたくなった。
「ダメですって」
「……玲明さん。恋人でもない人に抱きつかれるっていいきはしないもんじゃないですか」
「……?いえ、別に。あったかくてなんだか安心しましたよ?」
MU☆GI☆KA☆KU
おい!だれかこの無自覚をどうにかしろ!!!
と、胸中で叫びつつ口先からは「……ア、はい。そうなのですか……?」としか答えられない。
これはいかん、これはいかんぞ、華道のあ。そう頭の中で自分が囁く。
そう、このままだと将来れいが困る。知らぬうちに誰かに嵌められて醜聞を作りかねない。
れいのためにも幼馴染として無自覚に常識を教えなくては……!それが僕の使命だ!
と頭の中は情報量に大混雑し、変な方向にぶっ飛び出す。
尚、オールテンションのせいであるのが八割であることとその常識を教えることを使命、と燃える人物は先ほどまで目の前の人物に謝ろうとしていたことなどすっかり忘れている。
「玲明さん、玲明さん」
「はい?」
「普通はですね。恋人以外の人に抱きつかれるのももっての外ですし、不快になるものなのです」
「は、はぁ……」
「恋人以外が抱きついてきたら、その人のことは正当に怒ることができますし、許しちゃいけないのです」
「それならのあはどうなるんですか……?」
…………少しだけまともの世界に引き戻された。そうだよ、そのとおりだよ。
華道のあを許すな!!
わかってくれて結構、という気持ちとどの口が常識を説いた、という気持ちで今、僕はすごく珍妙な顔をしていることだろう。
「僕を許さないでくださいぃ……」
「……のあ」
「はーい……?」
不意にれいからじいっと見つめられ、挙動不審になる。
「のあ。私、思ったのですが、それはただの一般常識ですよね?」
「あ、はい」
おい、ついに一般常識を「ただの一般常識」とか言い出したのだが。わかってる?一般常識の意味わかってる?
大事だよ、一般常識。と思いながら続きに耳を傾ける。
「今私と向かい合っているのはのあ、な訳で、「私とのあ」の関係なんですから結局は私が「良い」と思えばのあを許してもいいと思うんですよね」
「そうですね……?」
「と、いう訳で私はのあに怒ってもいませんし、全然許しますよ」
急にれいのペースに呑まれ、ぽかんとしたままれいを見る。れいが至って真剣そうな顔で許しを与えてくれたため、なんかおかしいというかズレてないか?とは思いつつも、「ありがとうこざいます……?」と答えた。
一件落着したらしい様子、だがなんだか締まらない空気感にポカンとしていた……のも数秒前。
安堵していたところに急に訪れた爆撃に僕は呆気なくやられた。
「それに私からも抱き着きましたし、許すなっていうならお互い様じゃないですか?
それに、私はそうしたかったから抱きついたんです」
一瞬時が止まったかのような錯覚に陥る。そうしたかった?れいが、ぎゅって?
「――ちょ、勘弁してくださいぃぃぃぃ」
僕の精神はもう、キャパシティオーバーだった。
恥ずかしさが心を占領し、もう顔を向けていられない。
「のあ!?」
固まっていたのも一瞬、僕は顔から火が出るほどの恥ずかしさに身を任せ、勢いのまま、生徒会室を飛び出した。
「華道書記、謝れました……かっ!?」
入り口付近にいた風夜先輩に声をかけられるが、返すことが出来ないまま走り抜ける。
「もうすぐ学園祭だなー」
「そうだねぇー。あ、華道く、ん!?」
「……なんか面白そうなことになってんな」
「悠里くん、性格悪いよ……」
いつのまにきたのか、風夜先輩の近くでたむろう一条、峰先輩からも声をかけられるが、やはり答えることはなく過ぎ去る。
「あら、のあ。どうしたの……っ!?」
体育の部の受付に来てくれたらしいミアにも出会ったが、ごめんと思いつつ走り抜ける。
只事じゃない様子からか、走り抜けていったことに対する驚きか、何からかはわからなかったが、驚く声は廊下に響いていた。
(あーっ!!もう!!)
当分、あの無自覚で恥ずかしい台詞をバンバン吐く無自覚系天才少女は治らなそうである……と、辿り着いた廊下の隅で、一人項垂れる。
▷パーティはぜんめつした
と、いう訳で長かった三章完結です!
ここまで見て下さった方、繰り返しになりますが本当にありがとうございます!!
明日、登場人物紹介とまとめの二つを投稿しまして四章になります。
またお付き合いくださると幸いです。




