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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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四十一話 思い出の夜明け

やたらと長いですがどうぞよろしくお願いします。


「朝日を浴びるのって気持ちいいものですよ」


その言葉で、私は嵌められたことに気がついた。


(廊下の火はこの部屋の明るさを誤魔化すためのダミーか)


だが、まだだ。まだ、上階に登る梯子がある。


「あぁ、そういえばまだ解除してなかったね」


軽やかな青年の声がしたと思うとさらに続いてある言葉か発せられる。


「解除」


何が……と、思う間も無く、上階から轟音が響くのが聞こえた。

少しだけ遅れとさっ、と青薔薇の絵画が私の足元に落ちる。


「あ、一つだけ座標間違えちゃった。

……今まで別次元隔離してた小物を戻したんだよ。

この位置には棺があった場所だから、もう開けられない」


表情は見えないが、恐らくにこやかに笑っているのであろう、てわかるその声は私の神経を逆撫でて仕方がなかった。


どうにか。どうにかっ……!死ぬとしてもこいつらを殺せないだろうか、と思案し――もう一つの腕を崩壊させた。


『えっ!!?』


先ほどから代わる代わる話していた二人が同時に驚きの声を上げた。

失った腕がついていた場所でこれ以上ないほどの熱が渦を巻く。それを痛みと、人は呼ぶのだろうが、今の自分にとっては痛みさえも心地がいい。


「見えているようだな。……ということはやはり結界か」

「……っ!?」

「結界の壊し方。高密度の魔力に当てられれば、結界の魔素配列か崩れて結界の役目をなさなくなる」


小娘たちが息を飲んだ音が聞こえた。

あぁ、いい気味だ、と思うと同時に準備を続ける。


「体の一部を崩した分の魔力を部屋全体に放てば――どうなるだろう」


残った片腕がじわじわ炙るような痛みを放ちながら、粒子のように崩れていく。


顔を上げ、魔力を放とうとした――その瞬間。


「……っ!!」


美味そうな、あの小娘が黒い髪を揺らしながら飛び出てきた。


「えっ!?」

「のあは出ないでくださいっ!!普通結界、条件変更、火属性の魔力を持つもの以外出入り禁止っ!!」

「れいっっ!!!!このっ……!!」


放とうとした魔力を急いで押し戻し、目の前に飛び出てきた少女の方へ駆け出す。


「ぅっ……」


この少女はもう一人と違い、戦闘に慣れていないらしく、急に距離を詰めただけで対応に困り、たじろいでいる。


「立ち向かった勇気だけは賞賛してやろう」


私は壁の隅側へじりじりと、もう後へ下がれないところまで少女を追い詰め、喉元に食いつく――と、その時。胸に金色の刃が当たる。


「油断、しましたね」


当たった、と思った次の瞬間、硬い皮膚に思い切り刃が突き刺さり、心臓を抉る。


「うっ、が……」


抉られた心臓が熱を持つ。何か一手だけでも反撃を、と重い顔をあげ――固まる。

恐怖に強張りながらも己を奮い立たせ笑みにも似たその表情を浮かべる顔があまりにも美しく、目を奪われた。


……いや、私が見ていたのはきっとその少女ではない。昔、会った誰かに似ていた気がしたのだ。


そんなことを考えている場合じゃない。このままだと、死ぬ。この場所から逃げないと、こいつを殺さないと。そういう意思だけはしっかりとある。

でも――体は動かなかった。


(あれは、誰だっただろうか――)


私は、膝から崩れ落ちながらそればかりに意識を囚われ、意識が宙に溶けるように、何処か遠くの記憶が蘇る。




彼女は、貴族の姫君でありながら、勝ち気で、でも臆病な面もあって……初めて会ったときも巨大な体躯の私に怯えながら笑みを浮かべていた。


なんの偶然かはわからかったが、彼女とはたまに顔を合わせ、会うたびに親しくなっていった。


――その彼女に抱く思いが恋慕と気づいたのはいつからだっただろうか。


その時の私、京残星は幸い中級王宮官という立場、そして若く、それなりに見目麗しい容姿を持っていたから彼女と婚姻を結ぶことは容易かった。


私の感情だけで決めてしまった婚姻。

それに彼女を付き合わせてしまうのは申し訳さも、罪悪感もあったが、それらを抱えながらも彼女を手放すことはできなかった。


それに付き合ってくれる彼女に対して、せめてものけじめとして己の感情は話さないことに決めていた。

――だから、この気持ちが帰ってくるなんて思ってもみなかったのだ。


とある日、罪悪感から溢した言葉があった。


『……こんな、好きでもない男に付き合わせてしまって申し訳ないね』


その言葉を聞いた瞬間、くわっと目を剥いた彼女は詰め寄ってきた。


『何を言ってるのですか!――私は幸せです』

『無理にそう言わなくても……』


もうっ!と何故だか頬を膨らませてさらににじり寄ってきた彼女は言った。


『貴方様と居られることは私にとって、この上ない幸せなのです。――京、残星様――愛しております』

『え?』

『え、じゃありませんよ!乙女からの一世一代の告白ですよ。もっと言うことあるでしょう』


そう言いながらこちらを膨れ面で見据える彼女は「貴方様は?」と振ってきた。


「……もちろん、愛している」

「じゃあ両思いですね」


くすくすと悪戯っ子のように笑う彼女は何より幸せそうだった。


京残星。何の気まぐれか人間社会に溶け込んでみようと思った私の仮の名。

そんな何の思い入れもないはずだった名前なのに、彼女が呼んだ瞬間、色がついた。


これが私の名だと。手放したくないと、素直にそう思う。


目の前でにこにこと笑う彼女を見やりながら私の中に渦巻く感情は本当にいいのだろうか、という気持ちやなんだか格好付かないと思う気持ち。

でも、胸を占めて揺るぐことのない嬉しさが何よりも大きくて、今はこれに身を任せていたい、と私も静かに笑った。


私の思いが実を結んだ、その時は確かに幸せであったのに。

――想いが通じたその夜に、惨劇は起こった。


(何だ、何が起こっている。体が……熱い)


遠く、でもすぐそばにあるようなところから声が聞こえた。


『……え、……らえ……娘を、喰らえ』


娘、それはきっと彼女のことだ。


「喰らうわけがない」


『喰らえ。それがお前への「命令」だ』


低い声が響いたかと思うと、私の体は言うことを聞かなくなった。


(やめろ、傷付けるな、彼女に触れるな)


そう何度唱えても体は止まらずに彼女の元へ向かって歩き始める。


『残星様?こんな夜更けにどうしたんですか……っ!?』


(やめろ、やめろっ!!)


どれだけ唱えても聞かない体は、彼女の喉元に喰らい付いた。


『残星、さ、ま……』


力を無くしていく彼女をみながら私は何も出来ないまま、胸中で喚くだけだ。

すまない、申し訳ない。と懺悔の言葉を並べていたその時、彼女は()()()

恐怖を感じながらも、強気に、何よりも美しく笑った。


『これも、残星様の一部なのでしょう?

残星の、新しい一面っを、発見できました、ね』


その言葉を伝えきったあたりで生き生きとしていた彼女の瞳が人形の目についたガラス玉のように濁り、光を失った。


(私が、私の体が、彼女を喰らってしまった)


眷属化したたった今は吸血鬼人格だとしても――時間が経ち、人間人格に戻ったら彼女は日に当たる。


彼女のためだけに作った、秘密の窓部屋。

あそこは彼女のお気に入り場所だ。

あの部屋には青薔薇の絵画を飾り、嫁いだ時に持ってきたオルゴールを聞きながら、時に使用人にテーブルを運び込ませてお茶を飲んでいる。


彼女に死んでほしくないのなら、行かせないようにして、この暗闇の世界に閉じ込めるべきだ。

でも――


(それは、()()と呼べるのだろうか)


そう、悩んで悩んで、悩んでいるうちに、あっけなくその最期は来た。


『あら、残星様。今から朝日を見に行こうと思って』


体の主導権は、いつしか私に戻った。

嫌だ、やめてくれ。そう唱えることも、何故か触れない昨夜の出来事に関してを聞くことも出来たはずだ。

静止の声をかけられないまま、彼女は窓部屋へと進む。


『残星様はご病気で日にあたれないのでしょう?

……出来ることなら、残星様にも朝日を見せてあげたいのに』

『何故、昨日のことに触れない?』

『あれも「残星様」であることに変わりはないから』

『……朝日は……綺麗かい』

『えぇ、それはとても』


朝日の見えないところから、静かに彼女の姿を見ていた私にわかったのは、彼女のきらきら笑う顔。

そして、全貌()を知りながらも何も聞くことないまま、あっけなく灰になったということだけだった。


(灰に……なった。消えて、しまった)


『死んでしまったね。でも君自身が日に当たって焼けたわけじゃないんだ。悲しむ必要はない』


(そう、()()()が悲しむ必要はないと言っている。あの方が絶対。あの方は正しい)


その瞬間に私の心には穴が開き、その穴を表面上だけでも塞ぐ、「主」という存在が入り込んできた。


そこからは、主の言うがまま、何も考えずに行動した。


家のことをよく知っていた使用人は眷属にしてに日晒し、殺した。

可愛がっていた下町の子供たちも、餌として都合が良かったから喰らった。


何かをすればするほど、主から褒められ、心は満たされた……はずだった。

けれど何故だか、心の奥底はからっぽなままだった。




(そう、そうだった)


はっと現実に戻ってきた私は、なんだか長い夢から覚めたような心持ちだった。


『……奥方を愛することが幸せではなかったのなら、貴方の幸せは何処にありますの?』


今までは、ずっと自分の意思で動いて、話しているような、誰かが体を操作しているような気分だった。

けれど、自分で自分の体を操作する今ならこういうだろう。


(私の幸せは、彼女と共に)


彼女が死んだ今、もう私の幸せなどなかったのだろう。


蹲って俯いていた顔を少しだけ上げてみる。

もう、体を動かすなど、これが精一杯で何も出来そうにはない。


視界に映る夜明けをただ、見ることしか出来ない。

じわじわと、薄紫色と薄水色が混ざり出す空の彼方に、白く眩い光が見える。


(――あぁ)


泣きたくなるほどに綺麗な光が私を捉えた。


(彼女は、この景色を見ていたのか)


同じ部屋、同じ場所でみる同じ景色。


「……綺麗だ」


そう、ぽつりとこの世界に私が存在したという証拠の音を残して、体ははらはらと崩れ、灰になった。


……実は一つ前の話、四十話の題名と二つで一つのセットになっている題名です。

四十話と四十一話、吸血鬼の終わりが書かれた回をどうぞよろしくお願いします。

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