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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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四十話 愚かなる吸血鬼に捧ぐ


「……っ」


少女は、先ほどまでと変わらないような動き――かのように思えたが肉が裂け、血まみれの肩が鎖のように少女を縛る枷となっており今までに比べて少し重い動きになっていた。


さらに攻撃を重ねる吸血鬼の爪や、食らいつこうとする牙をくるりと回転して円舞曲(ワルツ)をするかのように優雅に避け、吸血鬼の視界から外れた一瞬に剣を振ろうとするが、ずきりと肩が痛み、咄嗟のことで身動きが取れなくなる。


「終わりか」


心底つまらなそうに呟く吸血鬼は首元の血管を裂こうと爪を伸ばした。

吸血鬼が近づくのを肌で感じながらも動けない体と吸血鬼に対する憎悪でぎり、と少女が睨みつけたその時――


声が、響いた。


「防御式結界っ、構築!」


「……本当に、戻ってきちゃったんですか」


()()はそう呟いた。

幾らか前に去り、戻ってきた()()にこの声が聞こえていたかは定かではない。

でも、それでもいいと思った。

ほんの少し……でも、たしかに嬉しいと思ったのは本当なのだから。


* * *


「防御式結界っ、構築!」


そう、大きな声で詠唱をしながら私、月乃玲明はなんとか上手いタイミングで間に合ったことに安堵する。


回し扉を抜けて、例の場所に戻ってきたのはよかったが、ある意味で予想と違う光景……魔物がいなかったのだ。


いいことではあったが、あの数の魔物をライが一人でどうにかしたというならどのような手段を使ったのであれ、だいぶ体力を消耗することだろう、と予想付けのあと全速力で走った。


――すると、案の定窮地に陥ったライがいた。


正直、結界術はこの前の授業で作った普通の結界が初めてだったし、防御式結界など作ったことはなかった。

でも今、やらねばきっとライは死ぬ。

そう思ったら自然と口が動いた。


「れい、解除!」

「は、はいっ!」


別の場所に意識を向けてしまっていた私は、のあの掛け声に意識を引き戻され、それと同時に指示の内容であった防御式結界の解除をする。


「お嬢様、来ちゃっ、たんですね……」


ふふっと、ライは柔らかく笑うのが、近くに作っていた灯り用の火で見えた。

……が、同時に脂汗が酷く、その肩は赤黒い血で覆われていることにも気がつく。


「そんなこと言ってる場合じゃ」

「……そう、ですね。ひとまず、は、ありがとうございます」


そう言葉を連ねるライはぼろぼろの体をしていた。


「煩わしいな」


目の前の吸血鬼はそう、一言を重々しく告げた。

たった一言だというのに、その言葉はのしかかってくるほどの威圧感があって、少しだけ身をすくめた。


「……れい」


そんな私を見てか、のあが静かに名前を呼んだ。


「……大丈夫です。ありがとうございます」


そんなのあにちらりと視線を返しながら、己を奮い立たせる意味も込めた返事をする。


「じゃあ、行くよっ――」


そう言うと同時に私は詠唱をし――近くに作っていた灯り用の火をポトリと下に落とし、地面に火をつけるとライの手を引きながら、のあと共に走り出す。

本来、ここは石でできているため燃えないが、床に散らばる魔物の毛皮に上手く燃え移り火が広がる。


「お嬢様!?何を」


そう、私が走り出したのは先ほど歩いてきた道。

……いうなれば逃げているような状況なのだ。


「ライも!辛いと思いますが全力で走ってくださいっ!!このままだと吸血鬼に殺されるより先に焼死しますのでっ!!」


私も足首は痛むがのあの手当てのおかげもあり、一応は全速力で走ることが出来ている。


「逃すと思うか」


少し後ろからは低い声で脅しにかかる吸血鬼も走ってきている。


「れい!もう少し走ったらあの部屋だから()()の準備を!!」

「わかりました!!」


そう答えると同じタイミングでちょうど回し扉に着く。

今まで使った時のように、勢いよく押し込むとガコンと音がして扉が回る。


一旦は吸血鬼と距離を取れたが、魔物と違い、しっかりと知能のある吸血鬼ならば、すぐさまこの部屋に入るだろう。


「れい、部屋出るよ!」


数秒間、息を整えた私、ライ、のあの三人はまた走りながら部屋を出る。

そして、あの謎の書かれたカード一枚をちぎって()の道、始末部屋がある方にまいて私たちは左の道の奥へ入った。

先ほどの部屋の扉のすぐ左に置いたカードに火をつけ、火のバリケードをつくり私たちは奥の方へと駆けた。


* * *


煩わしい、煩わしい。

思うように死んでくれない小娘や、また新たに五月蠅い二匹が出てきたのが鬱陶しくて仕方がない。


本来なら、もう食事にありつけていたはずなのに。

我が同胞である魔物たちに「人間」という餌を与え、その力をより強大にすることこそが主から課せられた、名誉ある仕事だったというのに。


その名誉ある仕事を完遂できなかったことが、何より口惜しい。


――それもこれも、あやつらのせいだ。


せめて、あいつらを殺して主の前に差し出すことこそが、贖罪だ。

一匹の小娘は魔力がたっぷり詰まっていて美味そうな匂いがしていた。あれを差し出せば主も喜んでくれるのではなかろうか。


そう、そのためにも今はあやつらを殺さなくてはと、回し扉を抜け、額縁が沢山飾られている部屋に着く。


『――私は幸せです』


誰のものかわからない声が頭に響く。


(五月蠅い)


それが率直な感想だった。


『貴方様と居られることは私にとって、この上ない幸せなのです』


(何ももう話すな)


誰のものかわからない声が聞こえるのは当然不気味であり、不快だ。……ただ、それ以上の別の何かが私をこんな気持ちにさせているようにも感じる。


(かなどめ)残星(ざんせい)様――愛しております』


「その名を呼ぶなっ!!」


何故かわからない。何故かわからないけれど妙に癇に障り、誰もいない部屋で一人声を上げた。


(今はこんなことをしている時間はない)


何か引っかかるところは残しながらも、そう頭を切り替えて部屋の扉を抜けた。



(拙い抵抗だな)


廊下に出て、すぐに見えた炎のバリケードに私は呆れる他なかった。こんなもの程度で足止めできると思っていたのか。ここ以外にも廊下のところどころには火が見える。


(最後の抵抗か)


そう思いながら、私は火をも潜り抜け、駆ける。

いくらか進み、階段が見えだす。


見たところこの階段の先は行き止まり……に、見えるがわざわざ階段があるということはどうせ回し扉でもあるのだろう。


片方だけしかない腕に、精一杯の力を込め、回し扉を回すと、今までの廊下に比べてとても暗い部屋にたどり着く。


(この部屋は――)


そう気づくと同時に姿は見えないが明らかに部屋の中にいるとわかる距離で、声がした。


「朝日を浴びるのって気持ちいいものですよ」


あの、美味そうな娘の声が響く。

窓の外を見ると紺色の帳が薄紫に変わりつつあり――夜明けの色をしていた。


そろそろ決着編です!!

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