三十九話 名前のない感情
「のあ?どうしたんですか……?」
なんだか様子がおかしなのあを前に私、月乃玲明は首を傾げる他ない。
「……いや、本当に良かったなと思って。うまく作動してくれて良かった……本当に良かった」
最後の方は独り言のようにぽつぽつ呟いていたが、私の耳にはしっかり聞き取れ、その発言からはっと、色んなことが繋がった。
「もしかして、あの術はのあが……?」
「……あーまぁ、一応。半分おまじないみたいな心持ちでかけたけど作動して上手く動いてくれたなら本当にかけてよかった」
安堵しているのあを前に、私はじわじわ暖かい気持ちが込み上げるのを感じた。
いつも。……いつものあは私の知らないところでも私を助けてくれる。
「……本当に、ありがとうございます」
この込み上げる気持ち、のあからもらうこの行動一つ一つはとても暖かく、心地がいい。
でも――
「れいが無事ならよかった」
のあから向けられる暖かい気持ちも、私の中にある暖かい気持ちも、その名前を――私は知らない。
(私も、私の中にあるそれを返せればいいのに)
名前がつけば、返し方もわかるだろうか。
――出来ることなら、名前が知りたい。
そう、一人胸の中で言ちながら、のあから紡がれる言葉に耳を傾けた。
* * *
「で、その後は魔物が寄ってくると同時にライがれいを逃がしてくれたと」
「そんな感じです。そしてこの部屋に辿り着き、廊下でのあに会いました」
僕、華道のあはれいの説明を受け、下でどんなことが起こったか、現在の状況を把握する。
「なんとなく状況は理解したよ。
ただ、僕の方は、れいみたいな魔物や眷属、なんなら人にも、誰にも会わないままだった。ただ不思議な部屋があった」
「不思議な部屋……ですか?」
「そう。窓がある部屋」
そう伝えたところでれいはきょとんとした顔をして、すぐさまはっと顔を上げた。
「思い返せば、この館で窓を見たことがありませんでした。……なんのための部屋なんでしょう……」
「やっぱりそこが疑問だよね。何かの足しになるかわからない情報なんだけど三枚目の謎カード……あ、これ」
『何も知らない娘は優雅に茶を飲んだ。
訳を知る使用人は涙ながら月が昇るのを見つめた。
館の主人は草木の眠りと共に棺から目覚めた。
何も知らなかった娘は夜明けと共に死んだ。首元に紅い花を咲かせながら
この軌跡を描け』
一旦、包帯を巻く手をとめ、カードを取り出してれいに見せる。
「『訳を知る使用人は涙ながら月が昇るのを見つめた』この部分ですか」
「そう」
指でその部分を指しながら呟く、れいに肯定を示す。
「月が昇るのを見つめたってことは窓か、ベランダか何かないといけないと思うんだけど多分、窓はあの一室しかない。……でもそこ、だいぶ辺鄙な場所なんだよ。だから何のためにあるのか全く予想がつかない……」
そう説明している間、れいは黙り込んだまま、何かを考えている。そしてすうっと、厳しい顔をしたれいは顔を上げ、呟いた。
「のあ、その部屋の場所ってどこに?」
「さっき僕がきた方だけど……」
「方角的には……」そう呟くれいはまた俯き、そしてガバッと顔を上げた。
「東」
「東……?」
「そう、その部屋の位置が東なら、この考察、ほぼ当たりな気がします」
れいのいう考察とはなんだろう……と、首を傾げながら続く言葉を待つ。
「少し前強い吸血鬼の眷属は人格が別れるといっていましたよね」
「……?そうだけど」
「だから、放っておけば、人間人格が勝手に日にあたり死ぬはずなのですが、一部の眷属は吸血鬼が自分で始末したのではないでしょうか」
「一部の眷属って……」
まだ話の全貌が見えてこず、頭の中は疑問符が駆け巡る。
「……使用人など、自分のことを詳しく知って情報を持っている者達です」
あぁ、と話が繋がる。
「東にある……朝日が入りやすい場所にわざわざ窓を作ったあの部屋は――始末部屋。そういうことでしょ?」
「そうです」
始末部屋だとするのなら――
一つ作戦が思い浮かび、れいに提案する。
「それなら――したら」
「いやでも……が問題点になりますよ」
「今、……だから――すれば」
「え、今そんなことやってたんですか!?」
「ただそろそろ魔力切れそうだから、魔力供給の術を組んでもらっていい?」
「わかりました!」
今後の行動方針が定まり、れいの手当ても終えたため、二人とも立ち上がり、れいは魔力供給の術を組始め、僕は少しだけ残った僅かな魔力で微調整を行っていた――その時地響きがした。
「わっ」
「れい!」
二人で一度しゃがみ込み、地響きが収まるのを待つ。
「今のって……」
「うん。普通の地震ではないと思う。
音が発生したのも近くみたいだし……」
「もしかしたら、ライの方で何かあったのかもしれません。急ぎましょう」
そう、呟くれいの横顔はとても厳しい顔をしていた。
それだけ、ライが心配であることがよく伝わる。
「きっと……大丈夫」
出来るだけれいの不安を取り除いてあげたかったが、状況がわからない僕にはそれだけしかかける言葉が見つからなかった。
「――行きましょう」
一度目を伏せ、次に目を開けたれいは覚悟を決めた顔で足を踏み出した。
ユニークが累計1000人を超えました!!
合計で1000人もの方が、覗いてくれた(という読み取り方であってるはず……)なんてと、とても感動しております。
その中にはもちろん読み続けてくださる方、合わないなと感じて戻った方など様々な人がいたかと思いますが1000人もの方がこの作品と巡り合ってくれたことに感謝を述べさせていただきたいと思います。
度々言わせていただいている言葉ですが、やはりこれが綾取の感謝の気持ちを表すのに一番ぴったりなのでこの言葉で。
読んでくださる皆様も、ちらっと覗いただけの皆様も、この作品に関わってくださる全ての皆様、本当にありがとうございます。
読み続けてくださる方には本当に感謝してもしきれません。
これからも玲明とのあ、その他沢山の人の学園生活を見守っていただけると幸いです。




