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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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三十八話 よよよよよ(お使いの端末は正常です)


「……っ!」


圧倒的な戦力差を前にしながらも少女は必死に隙を突きながら魔物たちの数を減らしていく。


「此方のお相手はしてくれないのかな」

「あら、ごめんあそばせ。舞踏のお誘いがあまりに多くなってきたもので、一人の殿方とばかり踊っているわけにもいきませんのよ。ご理解くださる?」

「……ははっ、まぁ、よくも咄嗟に返せるものだね。

よほど頭が回るようだけれど結局君は何者だい?」


少女は魔物や眷属の死角に回り、素早く腱に相当する場所を切り、身動きを取れないようにしながら合間に吸血鬼の相手をする。


「女性にはそう易々と話せない秘密の一つや二つ、あるものですのよ。秘密も一つの嗜みですわ」

「話さない……か」


心底つまらなそうな顔をした吸血鬼は何を思ったか、己の腕に食らいつく。


「なっ」


先ほどとは比べものにならないくらいの出血量になおさら遠くにいた魔物も反応しだしたらしく、遠くの方からもどさどさ、どかどか音がし出す。


「聞くことも尽きてきたしそろそろお開きかな」

「……つれませんのね」


近づき出す騒音に顔を顰めながら少女は剣の構えを――()()()


「おや、諦めたのかい?」


その言葉を受けても少女は俯いて何も言わない。――否。


(遺言、か?)


ぼそぼそと、吸血鬼に内容は聞こえない……が、何か呟いているのはわかるくらいの声量で少女は何かを言っている。その文字列が何を意味するのかは分からないが、隙を見せている間に仕留めた方がいいだろう、と吸血鬼が動き出した瞬間。


少女はニヤリと顔をあげて呟いた。


「――地王の君臨」


大地が揺れるのような音が響き、吸血鬼はあたりを見回した。

……ただ、見回してもとくに何も変わった様子はなく、目の前にいる少女に視線を移してようやく気づく。

 

――少女の奥の方にいた魔物がいない。


「何をした」

「あら、ただ目に見えぬ王のお通りをあなた方の可愛い眷属たちが邪魔してしまっただけですわ。……ふふっ、彼女に知られるわけにはいかなかったもので、今の今まで隠しておりましたの」


少女の奥にあるのは無数の血溜まりと押しつぶされたかのようなつぶれた毛皮や骨。


それが先ほどまでそこに居た魔物や眷属たちの残骸だと気づくのにそう時間はかからなかった。


「あの()()は貴方みたいな高位の存在になると防がれてしまうのでしょうが、あのくらいの魔物や眷属には十二分に効いたようで何よりですわ」


吸血鬼は思わぬ悔しさから、歯をガチガチと鳴らした。


(こんな小娘に。人間に……っ!

私は主から期待された。目をかけられているのだ。

こんなところで終わる器ではないっ!)


『いざというときは、()()()()を使いなさい』


先ほどまでの余裕綽々で弄ぶような態度であった吸血鬼は、思ってもみなかった一手で境地に立たされもう、目の前の少女を殺すことにしか意識がなかった。

――だから、どんな手段でも厭わない。


「あはははははははははっ!!」


ある手段――吸血鬼は、笑いながら片手をホロホロと崩壊させた。

そうして、片方の腕を失った吸血鬼は牙を剥きながら少女の方へと向かってくる。


「……っ!?」


咄嗟に切ろうとした少女は先ほどとは比べものにならない硬さに目を剥き、その瞬間視界をチラついた長い爪に肩を裂かれる。


「ふっ……ゔっ」


一瞬だけ呻き声をあげた少女は次の瞬間には体を起こし、脂汗を浮かべながらも余裕そうに笑っていう。


「体を形作る魔力さえも動かして身体強化にあてた……正気とは思えませんわ」


少女も理論としては、体を形作る魔力を動かすこともでき、そうすると体が一部崩壊する、というのは知っていたが、さすがに実際に見るのは初めてらしく、その異様さが理解できない、といった様子が声からも伝わってくる。


本来体の一部が崩壊したら激痛が走るはずだが、目の前の吸血鬼にそんなようすはない。

――その痛みを感じないほど、この吸血鬼は周りが見えなくなっている。


魔力はだいぶ消費してしまったから魔術はもう使えない。体も怪我をして万全ではない。

徐々に不利に傾き出す状況に、どくどくと嫌な音を立てる心臓を感じ取りながら、少女はまた短剣を構え、大きく息を吸い込んだ。


* * *


「とりあえず、れいの手当をしながら情報共有と作戦会議をしよう」


目的地にしていた絵画と写真の部屋について、すぐ、のあからの提案で、次の行動が定まった。

私、月乃玲明はのあに促されるがまま、座って手当を受ける。


「私が下に落ちた後のことですよね。

まず、さっき廊下で伝えたとおり、落ちた先でライと会いました。それで、目を瞑りながら歩くことになって……」

「目を?」

「あ、はい。なんか館のカラクリがーって最初は言っていたんですけど、恐らく周りにいた魔物たちを見せないようにしてたのかな、と。

でも目をつぶっていたので逆に吸血鬼が近寄ってきたのに気がつかなかったんです」


のあがガーゼを当てて、上からクルクルと包帯を巻く。

驚くほど手際がいい。あと、包帯を常時持ち歩いているのだろうか。


「……のあ、手慣れてますね」

「いつどこで何が起きるかわからないから、すぐ出来るように練習したり包帯やらなんやらも持ち歩くようにしてるんだよ」


女子力……と思い、口に出そうとしたが今更ながら説明の続きをしなくてはと意識を切り替え、言葉を呑み込んだ。


「すみません、話逸らしました。続きを話します。

恐らくライは、私に目を瞑らせて見えないようにして、ライ一人で少し先まで進み、ある程度の魔物を屠ってから私を連れて行く……というようにしていたんです。

けれど、私がある時待っていたら別の人の声がして」

「それが吸血鬼だったんだ」


頷いて肯定する。目線で優しく続きを促してくれるのあを見据えながらもう一度口を開く。


「それで、吸血鬼から「ライは怪しそうだから私が外まで連れて行こう」と言われ、手を取ろうと目を開いたら目の前に……というよりすぐ首元のところに吸血鬼がいて、それと同時にライが戻ってきて静止の声をかけてました」

「そんな状況からよく上手く逃げられたね。……本当に運が良かった」

「あ、いえ……。なんというか私たちで上手く撒いたというより吸血鬼が触れようとした瞬間、ガラス壁が出来て吸血鬼も押し出してくれたので怯んだ隙に逃げられたんです」

「……」


ふと、気づくと無言になっていたのあに視線を向けるとのあは、ポカンとしたまま固まっていた……と思えば、今までの膝立ち姿勢からへりゃりと座りこんだ。


「……よ」

「よ?」

「よよよ、よ、良かったぁ……」


なんだかすごく泣きそうな顔のまま、のあはぽろりと呟いた。


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