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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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三十七話 怖い


「……もしかして……れい?」


「の、……のあ?」


私、月乃玲明は暗闇の中に蠢く影を見つめ、はっとしたように灯を付け直す。

転んだ瞬間、フワッと消えてしまった火をまた付けて、改めて目の前にいる人を見れば、やっぱりそれは私のよく知る幼馴染、華道のあだった。


「れい!!……もしかして転んじゃった?怪我はない……?」

「…………大丈夫です。幸い怪我はありません」


足首の怪我を伝えようとして、口から紡いだのは別の言葉だった。……やっぱり心配はさせたくない。


「本当に?」

「本当です」


何故か疑ってくるのあに、もう一度聞かれる。嘘をついてしまう気まずさから、少しだけ目を逸らしてしまったが返答はしっかりしたし、今後の行動を気をつけていればきっと気づかれない。


「……そう。ならよかった。……立てる?」

「立てます」


のあに気づかれない範疇で右足首に気を使いつつ、のあの手を借り立ち上がる。


私が立つなり手を引きながら無言で歩くのあに、私は焦りながら話しかけた。


「あの、のあ」

「どうしたの?」

「私、下に落ちた後ライに会ったんです。それで、私が外に出れるように案内してくれようとしたんですけれど、この館の「主人」……と思わしき吸血鬼に遭遇して……」


そこまで言ったところでのあの顔色が変わる。青ざめた死人のような、憤慨したような顔でのあはこちらの続きを待っている。


「それで、私を逃すために囮になって……で、も他の魔物も沢山いて……助けを、呼んでくるからって、その場から逃げて、今に至ります」

「……れいが、何を言いたいかは想像がつく。助けに行きたいんでしょ」


うまく回らない舌で説明をした私は、のあから告げられた言葉にこくりと頷いた。ただのあの表情は「じゃあ行こう」というものでもなく、何も言えないままただじっと見つめる。


「ただ、それは認められない」

「……っ!」


どこかで、のあがそう言うだろうという可能性は考えていたが、面と向かって言われてしまえばやはり言葉に詰まる。


「……行けば、のあも私も、危険に晒されることは十分承知です……でも、どうにかできるかもしれないなら」

「れい。ごめん、ちょっと酷なことを言うよ」


じっとこちらを見据えるのあの顔に宿る覚悟は生半可なものではなく……聞きたくない、そう思っても、目を逸らせない力強さがあった。


「――僕はライのことを信用していない。

ライがどんな立場なのか僕はよく知らない。けれどこの館に招いたのがライである事実は変わらない。

すぐに敵味方の判断をすることは難しい立ち位置だけれど、まず信用はしない方がいいと思う」


ひゅっと喉の奥が音を立てるのがわかった。

……のあの言い分もわかる。むしろそれが一般的だ。

ライのことは疑って、切り捨てるのが最適解。でも――


(――嫌だなぁ。誰かを疑うのも、私のせいで誰かが傷ついたり、死ぬのも)


咄嗟に思ったそれが私の奥底にある本音だった。

誰も疑っていたくない。ライにも無事でいてほしい。でも、行ったらのあまで危険に晒す。

わかっている。……わかっているのに。


(いっそのこと思考なんてなくなって誰かの言うままに動ける私であったらいいのにな)


こうしたい……かもしれない、という思考はある。

でも、はっきりこうしたい。こうでありたいと望むのは怖い。だから、今も結論を出せずにいる。

のあは私に最大限寄り添ってくれて、いる。

「認めない」なんて言っていたけれど結局は私がどうしたいか決められるように待ってくれているのだ。


「……ごめんね。れいにそんな顔させるつもりはなかったんだけど」

「ひどい顔、してますか」

「僕がそんな顔させておきながらー……だけど、うん。そうだね……ひどい顔、してるかな」


……怖い。望むのは怖い。

でも、私が怖がってライが死んでしまう方がもっと怖いし後悔が残る。

私、は。……私は……!


「のあ。私、は多分、合理的じゃないこと、言います。それでも、いい、ですか」

「……うん。それがれいの意見なら僕は尊重しよう」


「私、は。ライを助けに行きたい……です。お願いします。協力、してくれませんか」


もう、わかっているとでもいうように、諦めたような笑みを浮かべたのあは口を開いた。


「……僕、れいのお願いには弱いんだよ。

だから言わせないように強制連行しようとしたのになぁ……」


あーあ、と呆れたような声を上げながらも何処か晴れ晴れとしたのあは続けて言った。


「さて、そう決まったら早速行こう……と言いたいところだけど、戦力差を考えると無駄死にするだけだ。

どこか落ち着けるところで情報共有と怪我も手当てしないといけない訳だけど……」

「怪我……?」


何故か急に出てきた「怪我」という単語に私は首を傾げたが、のあのじとぉっとした目線の先に気がついて頭のてっぺんから急速に血が引いていくのを感じた。


「……バレてないとでも思いました?月乃玲明さん」

「……すみませんでした」


のあの顔に浮かんでいるのは笑みだ。しかも超キラキラしている。それにプラスで丁寧口調。

あ、これ怒ってる。しかも超がつくほどのレベルで。

と気づいた私は白旗をあげ、謝るほかない。


「騙せると思わない方がいいよ?」

「…………肝に銘じておきます」


怖い。超怖い。

すみません、本当すみません。反省しているのでそろそろ解放してくれませんか……?とささやかに目線で訴えるとはぁ、と肩を落としたのあはとどめの一撃をさして解放してくれた。


「……これ以上、話してる時間もないしお説教はまた時間を改めて。れい、この近くに安全そうな部屋はある?」


わぁ、この怖い時間第二ラウンドが確定してるんですねーと心が何処かに旅立つのを必死で抑え込みながら、意識を切り替え後半の大事な問い答える。


「なんだか不思議な部屋でしたがとりあえず安全そうなところなら」

「じゃあ、そこまでの案内はよろしく。……肩、貸すよ」


実をいうと立っているだけでもそれなりに辛かったため、大人しくのあの肩を借りながらあるいた。


いつ何時でもこちらに気を遣い、手助けをしてくれるのあに、ここまでしてもらってしまって申し訳ないなと思った。

でもそれと共にのあが一緒にいてくれることにこの上ないほどの安心感と暖かい気持ちも感じ、さっきとは違った意味で泣きたい気持ちになった。

でも、これだけは言わなくては、と口を開く。


「……ありがとう」

「どうも。……こちらこそお世話になってるからありがとう、かな?」


少しだけ首を回し、こちらを向いたのあは少しだけ笑った。


(のあが隣にいてくれる私は幸せ者だ)


この後起こるであろう厳しい戦いも、きっとのあが隣にいてくれるなら大丈夫だ。と確信めいた何かを感じながら、第一の目的地である絵画と写真の部屋を目指して、私はまた足を動かした。


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