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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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三十二話 紅の(血に染まる)館


「れ、れい……!?」


一瞬にして床が開き、瞬きをしている間に何の変哲もない床へと戻り、上に立っていたれいだけが消えてしまった。――そんな摩訶不思議な状況を前に僕、華道のあは固まった。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)


頭の中は、それだけを唱えた。

何が起こった?れいは何を伝えようとした?どこに落ちた?下までの距離は?怪我してないよね?

――死んじゃったりしないよね?


何があるかわからない。下が危険だったら、何かに巻き込まれていたら……。

何かを考えようとすればするほど絶え間ない不安が頭をよぎる。


「ふっ、……すっ、はふっ」


段々と上手く息が吸えなくなってきて、胸を押さえながらへにゃりとその場に座り込んだ。


お願い、お願いします。何も怪我してないで。無事であって。


過保護すぎる自覚はある。

でも、過保護になるのも仕方ないと思ってほしい。だって――


(れいが、死にかけるところを何度も見て来たんだもの)


月乃玲明は、()()()()()かのように死の運命が隣にある。


崖から落ちたり、大火事に巻き込まれたり、最近では記憶を失ったり……。

細かいことを数えればキリがないほど死にかけている。本当に一歩でも間違えたら死んでいたかもしれないことが多々ある。


()()()()()()が今回起こったら、と思うと血の気がさぁっと引き、身体が冷たくなっていくのを感じてしまう。

また、悪い想像ばかりしてしまい、上手く機能しなくなる自分の体にも苛立ちを覚え、胸を一度どんと叩くと無理矢理思考を切り替える。


(冷静になれ、華道のあ。今やるべきことを考えろ)


自分で動き回り、れいが落ちた場所を探すよりも外にいるであろうライや、他の人にも協力してもらった方がいい。

この際謎を解くなんていう方法じゃなくて、窓から外に出る方法を使おうと結論付けて僕は立ち上が――ろうとして、座ったまま手を祈るように組み、姿勢を整えた。


(僕の能力は「守護」だ。守るための能力)


自分にしかできない、自分の能力の意味を思い浮かべると口を開いて詠唱をした。


「守護大華」


何時ぞや授業でれいに見せたときはガラス板のように出現させて、浮かせる浮遊術まがいの使い方をしたが、本来のこの術は術が判断した「然るべき時」に()()()()何の攻撃も通さない、最強の盾となる術である。


対象であるれいの位置も、今の状況も何もわからない状態でかけるこの術は魔術としてはこの上ないほど杜撰で、言ってしまえばおまじない、に近いものである。


けれど、こんな魔術紛いの何かでも、れいを守れる可能性があったならばいいな。と胸中で呟きながら僕は立ち上がった。


* * *


「お嬢様、足辛そうですね。一度止まりましょうか」


そう言って私、月乃玲明の手をライ(自分)の手からから壁へつたわせるとそのまま二人で立ち止まる。


「道の確認をしてきますねぇー」

「はい」


……道の確認なのだから、そこまで遠くに行かなくてもいいはずだ。


ただどこかから聞こえる獣の咆哮のような声と、ほんの微かに聞こえる誰かの足音、獣の断末魔、近くにいるはずなのに感じないライの気配。


その不可思議な要素の幾つもが絡まって、色んな可能性が出てくるけれど、ライが先ほど言ったように「嫌なものを見たくなければ」何も考えない方が安全だと己の好奇心にも似た何かを押し込めた。


「さて、お嬢様。また進みましょうかぁ」


壁に置いていた私の手を取り、ライの手を掴んだことを確認するとまた歩き出す。


「……ライ」

「どうしましたぁ?」

「この場所ってなんなのでしょうか?」


まだ、踏み込んではいないはず。落ちた側からすると気になるのは当たり前だしどういう「機能の場所」なのかを聞いているわけでもない。


あくまで「どういう場所」なのか聞いただけなのだ。私が知りたいのは「地理的な場所」。

変なことは聞いてませんよー(出来れば前者のも漏らしてくれると嬉しいが)と思いながら問いかけた。


「ここはですねぇ。館の地下に当たる場所です」

「地下……」

「この館、カラクリ屋敷じみたところがあるのでそのカラクリたちの制御場も兼ねているらしいですが」


「本当は私なんて集客のバイトでこんなところも入る予定なかったのですけどねぇ〜。関わっちゃったものだから衛兵さんに責任とって後始末の一部を押し付けられてましてー」と、うるうるした声で言われた。


「不運でしたね……」

「本当、お嬢様も巻き込んでしまって申し訳ありませんねぇ……」

「気にしないで大丈夫ですよ」


そんなことを話しながら、私はライに続き歩く。

不思議と鉄臭い匂いがして、体の芯が冷えた気がしたが気のせいだ。……気のせい。きっとカラクリに使われた鉄。


「お嬢様のお連れ様もちゃんと迎えに行って無事に帰れるよう、ライちゃん頑張りますので今しばらくお待ちくださいねぇ」


のあの方もなんとか大丈夫そう……かな、とひとまず安堵しているところでまた「休憩挟みましょうかぁ〜」と言われ、立ち止まった。


遠ざかる足音も、何もないのにライが隣から離れていったのを気配で感じ、一人であることに少しだけ不安になっていたらふと、声をかけられた。


「こんばんは、お嬢さん」


中性的な、でも少しだけ低いその声を聞き、どこからきたのだろう……と考えながら私は口を開いた。


「こんばんは。衛兵の方、ですか?」

「そんなものかな。……不躾なことを聞くけれど君は目が見えないのかい?」

「いいえ。そういうわけでもないのですけれど道案内をしてくれている子に目を瞑っていた方がいいと勧められたもので」

「そうかい。ただ見たところによるとその案内をしてくれる子……どこかにいってしまったようだけれど」


やっぱり……と、思いながらもライにはライの事情があるのだろうと自分で納得する。


「きっと、その子にもその子の事情があるんだとおもいます」


やっぱり、少しだけ滲み出て来てしまった不信感を感じながらも、出来るだけ平然とつぶやいた私に、その衛兵は不気味な雰囲気を醸し出しながら問いかけてきた。


「本当に?」

「何、がです」

「その子、なんだか怪しくないかい?」

「……い、え」


考えないようにしていたところを無理矢理引っ張り出されたような、気持ち悪い感覚に息を詰まらせる。そんな私を、さらに追い詰めるかのように衛兵は口を開く。


「その子……なんだか危なそうだし私が外まで送っていこうか?」


その提案に私の心が揺れ、返事をしようと目を開いたその時――声が、響いた。


「お嬢様!下がってください!!」


どこからか聞こえたライの忠告。その忠告に従おうと動く矢先、目を開くと私の視線は捉えてしまった。


きっと、それはライが言っていた「嫌なもの」で私に見せたくはなかったもの。


青白い、不気味な肌に、血走った目。そして――

血塗れな風貌と長い牙。

そこにいたのは、紛れもない吸血鬼だった。


そろそろクライマックスになります。

どうぞよろしくお願いします。

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