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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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三十話 気にしないもん勝ち


『何も知らない娘は優雅に茶を飲んだ。

訳を知る使用人は涙ながら月が昇るのを見つめた。

館の主人は草木の眠りと共に棺から目覚めた。

何も知らなかった娘は夜明けと共に死んだ。首元に紅い花を咲かせながら

この軌跡を描け』


この謎に隠されたもう一つの「何か」を探すため考察をしていた私たち。

点と点が繋がった私は核心を突くような問いをのあに投げかけた。


「「主人」は強い吸血鬼。「娘」は餌を表したかった……?」


のあは一度瞬きをするとこくんと頷いて告げた。


「……多分。それであってるんじゃないかと思う」

「すみません。今更な気もするんですけどなんで最初、餌のはずの娘は優雅に茶を飲んでいるんでしょう?」

「僕は、この娘を吸血鬼の館に呼び寄せた手段、嫁入りじゃなかったのかなーって思う」

「嫁入り……ですか?」

「うん。……まぁ、どこに根拠があるかと言われたら何も言えないんだけど、矛盾は出ないし「嫁入り」も一つの考察として持ってて」


餌と聞くとなんだかおどろおどろしい、連れ攫われた……とかが頭に浮かんでしまったけれど、最初の茶を飲んでいる娘の落ち着きようと言い、嫁入りと言われると納得できる点が出てくる。


(……ん?)


「のあ、お茶を嗜むのって、王宮官などの高位の身分の方ですよね」

「……?うん、そうだけど」

「娘が茶を嗜んでいることからもわかるようにきっと娘はその階級に属する方です。

そんな娘と正式に婚姻を結ぶことが出来ると考えたら館の主人……吸血鬼も、貴族階級に混ざっていたと考えられませんか……?」


ごくっとのあは唾を飲んだ。蒼の瞳も鋭く光っている。


「……可能性はあるね。ただそんな高位の者同士の婚姻ともなると騒がれるだろうし、娘を殺して、それをバレずに貫き通すことってできるかなぁ……?」

「――吸血鬼にとって身分に拘る意味はないはず。娘が死んだあと、身分も捨てて何処かへ隠れて仕舞えば解決です。……いや、まぁこの考察自体意味もないというか、物語を考察してるだけに過ぎないですけど」

「いや、ちょっと待って。なんか現実で聞いたことがある話の様な気が……」


のあの呟きに私はふっと、そっちを見た。ただ、のあはゆるゆる頭を振ると「紛らわしいこと言ってごめん、思い出したら言うね」と呟いた。


「……なんか色々と考察はしましたけどこれといって謎に関わるとこは思い浮かばなかったですね」

「まぁまぁここでの考察も何処かで役立つ……と、思おう。そういえばさっき時計の裏にカード挟まってたよね」

「そうですね、ちょっと寄り道しちゃったような気分ですがとりあえず第四の謎に進みましょう」


私は一度しまったカードをごそごそと取り出す。


「えっと……『主人の部屋で、眠る娘を呼び起こせ

九九(きゅうじゅうきゅう)の部屋、九の場所を入り口とし、六十四に、娘は眠る』」


九九という字に、違和感は覚えつつもとりあえず九九(きゅうじゅうきゅう)と読んで一通りの文を読み切る。


「主人の部屋って言った?」

「はい」

「主人が吸血鬼だとするのなら……棺があった部屋……だよね?」

「……そうですね」


思ったより早速考察が役に立った。だが、その喜びよりも――


『…………ここ!?』


私たちは各々、先ほど青薔薇の絵画を投げた扉の向こうを見つめ、さっと青ざめた。


* * *


私たちは開け放たれた扉の向こうを凝視しながら静かに青ざめる。あちらの表情を見るに考えていることは恐らく同じだろう。


耳の奥をよぎるのは先ほどの明らかヤバい感じの轟音。


『ガラガラドンドガンガッシャーン!!』


絶対に何か壊れた音がした。


「やばいよやばいよ。だってまさかこの部屋使うなんて思わないって」


焦り出すのあに何て声をかけるべきか私は思案する。「きっと大丈夫ですよ」と言うべきか?「ご愁傷様です」と言うべきか……否。

のあの「バレなきゃいい」に匹敵するレベルの名言を思い出し、口を開く。


「のあ」

「なに……?」

「人生、気にしないもん勝ちです」


一瞬目が点になり……ふはっと吹き出すとひとしきり笑い転げた。


「……そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」

「ごめんごめん。いやぁ、まさかれいにそんなこと言われるなんて思ってもみなかった」


「そうだね、気にしないもん勝ちだ」ぼそっと噛み締める様に呟いたのあは楽しそうだった。


「じゃ、気にしないことにして早速だけど謎解きしよう?」

「そうですね」


そう言って、また二人でカードを見つめる。


「九九の部屋ってなんだろう?」

「でも主人の部屋とも書かれてますし「主人の部屋」=「九九の部屋」になるのでしょうか?」

「とりあえずそう仮定しておこうか」


「主人の部屋」=「九九の部屋」だとするなら「九の位置が入り口」というのもこの部屋に当てはまるのだろうか。


「この部屋ってなんか正方形だよね」

「そうですね」


今それ関係あっただろうかと内心ツッコミつつさらっと流しておく。気にしないもん勝ち、気にしないもん勝ち。


「私たちのいるこの扉から部屋を真正面にみた場合の見方でこの位置って一番左下になりますよね。……ここが「九」?」

「ん?うーん……?」


なんだかのあがうんうん唸り出した。突然声を上げて唸り出したのあにびっくりしているとのあは小物を踏まないように気をつけながら、何故か部屋に入り、端っこの小物を退け始めた。


「の、のあぁ?」


突然の、のあの奇行に驚きながらもじっと眺めていたら、ふいにのあから叫び声が上がった。


「あーー!!!!」

「どどど、どうしたんですか!?」


突然の叫び声にびっくりしながら尋ねてみると、のあは目をキラキラさせながら答えた。


九九(くく)だったんだよ」

「へ?」

「だから、この部屋が、「九九(くく)表」なんだよ!!」


この世界にも九九はあります。

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