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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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二十九話 忍び寄る影


「『何も知らない娘は優雅に茶を飲んだ。

訳を知る使用人は涙ながら月が昇るのを見つめた。

館の主人は草木の眠りと共に棺から目覚めた。

何も知らなかった娘は夜明けと共に死んだ。首元に紅い花を咲かせながら

この軌跡を描け』」

「……のあ、あの時計は何時を指してますか?」


私、月乃玲明はのあの読み上げた文を聞き少しだけ引っかかる点があったため時計の指し示す時間を聞いた。


「え、普通に今の時間じゃ……ない。三時を指し示したまま止まってる」


予想外で驚いた様子の、のあに私は口を開く。


「……答え、わかりました」

「え?」


のあの手にあった時計を手に取りくるくると針を動かす。二か所で針を止め、最後の一か所、最初の三時も含めると四つの時間を示し針を回すのをやめるとカチリと音がして時計の裏が空いた。


「どうしてわかったの?」

「理由なんてなくて単純にこの謎が簡単なだけだったと思うんですけど……解説するならそうですね……」


のあの方に時計と謎の書かれたカードを差し出し、指を指すと説明を始めた。


「『何も知らない娘は優雅に茶を飲んだ』お茶の時間って午後三時でしょう?」

「あぁ!時計が三時を指し示してたのってそういうことなのか〜」

「そう言う規則性なら『訳を知る使用人は涙ながら月が昇るのを見つめた』月が昇り出すのはだいたい午後七時だから七に針を持って行けばいい訳か」

「その規則性で残り二つは『草木も眠る』、から丑三つ時で二時、『夜明け』で五時、になるんです」


そこまで説明し切ったところでのあもこの謎の規則性を理解したらしくうんうん頷いている。


「…………ん?となるとこの『何も知らない娘』とかって要らなくない?」

「……ですよね。そこは私も疑問なんですけどなんというか……この文章って物語みたいな……」


私の言葉を受けてか、のあもまじまじとカードを見つめ出す。


「『棺から目覚めた』って妙だね。……まるで魔物の吸血鬼みたいだ」

「吸血鬼」


それは知識だけは頭の中にある。

魔物と呼ばれる異形の存在のとある種類であり、比較的人間に近い容姿と知性を持つ。

ただその本性はやっぱり魔物であり高い嗜虐性、残虐性があり、生半可知性がある分その辺の魔物より厄介な存在。


「吸血鬼といえば日光に当たると灰になったり、銀で傷をつけられると苦しむだとか、棺で寝たり色々特徴があるんだよね」

「吸血鬼……見たことあるんですか?」

「いや?ないよ」


少しびっくりしながら私は口を開いた。


「あまりにも詳しかったものだからあったことがあったりするのかと」

「……まぁ、僕は魔物について知る機会がちょっと多くてね。

基本的にユールは周りを壁に囲われているし外に出ることができる二つの門には魔物を弾く特殊性防御式結界があるから、魔物が入ることは恐らくないし、ユール育ちの人は魔物を見ることなんてなかなかないんじゃないかな」


「あ、あとね」と言ってのあは言葉を続ける。


「ユールの外が出身の人なんかは特にそうなんだけど、魔物によって酷い被害を被った人もいるから魔物の話題はやたらと出しちゃいけないんだ。

……今回は二人だけだからちょっといいかな、と思っちゃって僕から切り出しちゃったんだけど」

「わかりました。……私も気をつけます」


忠告された私は返事をし、ふと、のあの声音がいつもより低かったことに気づく。


ちらりとのあを見てみるといつもて変わらない……ようにも思えたが、視線の先が(ここ)ではない何処かに向いていた。


(また、この表情)


のあがたまに見せるその表情は突然訪れる。

何かを慈しむ様な、悲しむ様な、悔やむ様なその表情をするのあが苦しんでいることだけはわかるのに何も触れられないまま、見ていることしか出来ない。


「――のあ……」

「ん?なぁに?」


私が話しかけると、まるで何もなかったかのように返事をするのあは本当に卑怯だ。


「……なんでもありません」


臆病な私は、結局今回も何も聞けないまま口を閉ざす。

その辺りをうろうろしながら謎について考え出したのあだが、その近いたり離れたりするような、その距離が、私たちの心の距離をも表しているようで、何処か落ち着かなかった。


* * *


あやつらは何故謎を解けるのだろう。


彼がそう思案する理由はただ単純に「謎が難しいから」ではない。


()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()謎なのに何故解けているのか、それが彼に疑念を抱かせる理由だ。


一度下がった階段の段は再び上がることはないし、青薔薇の絵画など取れる様にはなっていない。


今までの人間は階段の段が下がったまま、上り下りして踏み外し、怪我を負って()()()者もいた。

青薔薇の絵画の謎を解くこともできずに()()()()した者もいた。


だが、此度の人間はどうだろうか。


何故だかあやつらにとって都合のいい誤作動ばかりがおき、今の今まで順調に進んでいる……と、いっても困ることは何もない。()()()()()()()()()()()()


とは言っても、このまま苦悶の表情を見られないのも面白くない。

彼は思案し、少し早いが食事を始めようかと彼は右手をあげ、指示を出した。


* * *


私たち二人は、謎カードに隠されているであろうもう一つの意味を読み解くために文章と睨みっこしながら思考を回転させる。


「深夜に棺から出てくるという特徴が書かれているのでこの「主人」を吸血鬼だとして……「娘」ってなんなのでしょう?」

「「娘」は初め、茶を飲んでいるときは何も()()()()。夜明け、死ぬときは何も()()()()()()。つまりこの一夜の間に何かを知って死んでしまった訳だけど……」


『うーん……』


とりあえず考察はしてみるものの、特にこれといった確証は得られず、唸り声をあげるばかりだ。


「首元に咲いた紅い花ってやっぱり血……?」

「吸血鬼って首元から血を吸うイメージがありますし娘は血を吸われたという説が一番濃厚ですね」

「あ」


一つ一つ紐解きながら分析をしていると、ふいにのあから声が上がった。


「どうしましたか?」

「一般的には認知されていない吸血鬼の特性があるんだけど……吸血鬼は血を吸う時、眷属にする」

「……?私でも知ってますよ」

「大事なのはここから。普通の吸血鬼の眷属ならば、普通の吸血鬼に成り代わるだけ。でも、あまりに強い力を持つ吸血鬼の眷属になった者は――相容れぬ性質の反動で「人間」の人格と「吸血鬼」の人格を持つんだよ」

「!?」

「ここで大事なのは「人間」の人格は己が吸血鬼であることに気づかない。……でも、眷属と化した身体はもう吸血鬼。……よって起こることはなんだと思う?」


のあの補足により言いたいことがわかった。


「――自分でも知らぬまま日光に当たり、死ぬ現象が起こる……であってますか?」

「正解」


……ただ、のあが言いたかったことはわかるのだがこれの何が繋がるのか、イマイチわからない。


「ピンとこないって顔してるね」

「……はい、正直わからないです」

「なら、補足。吸血鬼達にとって血を飲む行為は生きるための食事。

でも、沢山血を吸って、吸血鬼(じぶん)の存在がバレると討伐対象にされる」

「そうですね」

「普通の吸血鬼の眷属になった吸血鬼は、自分の餌も探さないとならないから人の目に触れる。……そこから吸血鬼の情報は漏れる」


やっと、全てが繋がった。


「強い吸血鬼であれば、眷属ができてもすぐ、自分で死ぬため使()()()()()()として扱える。

しかも外部に情報が漏れにくい」

「そういうこと。通常の眷属ならば吸血鬼になったことが何処かでバレ、芋づる式にいろいろバレるけど、強い吸血鬼の眷属なら吸血鬼になったとバレることなく灰になり、死ぬことが多い。

……多用しすぎなければ人間は「失踪・行方不明」として扱う、でしょ?」


今までの話を全てまとめ、なおかつ「謎」の話と繋げると、結論はこうなる。


「「主人」は強い吸血鬼。「娘」は餌として連れてこられた人間……?」

今日で連載開始から一ヶ月です。


いつも読んでくださっている皆様、ブックマークをつけてくださった皆様、評価してくださった皆様も、関わってくださった皆様に重ねてお礼申し上げます。



ーー真面目ターンここまでーー


……とまぁなんだかかっこいいこと(当社比)言ったのはいいのですが、ちょっとした懺悔?反省?を一つ。


三章のびのびしすぎましたぁぁぁぁ!!


ちょっと前半パートほのぼのしすぎたな、と反省しております。話数が一章八話、二章十二話、に対して三章三十話越えはやりすぎたな、と反省している所存でございます。


多くても四十話代では(少なかったら三十話代で)終わるので……!!温かい目で見守っていただけると幸いです。


どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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