二十七話 白黒の謎
「えーっと……待って、ごめん、なんか提案しようと思ったんだけど何も打開策がない」
徐々に自信がなくなるのあの声を聞きながら私、月乃玲明は一人勝手に共感していた。
「……私もこれといって思い浮かばないのですがとりあえず、まだ中には入らない方がいいと思います」
「……?なんで?」
「この問題がもし、この小物の配置に関わるものだとしたら動かした時点で詰んでしまう可能性があるからです」
そう、呟ききったところで私は思案する。
のあは「なるほどー」と言って納得しているがこの理論は不自然な点が残る。注意書きも何もないのに、動かしたら詰むなんてことあるのだろうか。
(そんなことがあるとしたらそれはまるで――)
「――れい。ちょっと考えたんだけど詰む可能性があるとするならこの部屋の小物の配置は謎に関係ないんじゃない?」
私の中で結論が出そうだったその時、のあの声に遮られ、自分では思い浮かばなかった可能性が提示される。
「たしかに、失念してました。……じゃあ本当の謎は別のところに?」
「そうじゃないかな、って」
そうだ、そもそもの謎が違うところにある可能性もある。……一階では自分が言っていたことではないか。
「……ここ以外に他に見てない部屋ってありましたっけ」
「――いや、探さなくても、もう見つけたよ」
「え?」
そう言ってのあが見たのは少し奥に置いてある鏡だ。
そこに映るのは私たち二人と、奥に開ききった扉と壁。特に何の変哲もないように見えるが――
「開いた扉の裏側、本来は普通の壁であるはずのところ、妙に隙間があると思わない?」
「よくよく見ると普通の壁というには違和感がありますね」
無数の小物に気を取られて、下手に入れないことを逆手に取ったトリックだろう。しかも暗闇ともなるとなおさらわかりにくい。
「れい、小物が邪魔だと思うけど踏まないように気をつけながら一回中に入ってみて。れいが中に入ったら扉を閉めるから今まで扉があったところの奥に本当に空間があるかを確認してほしい」
「わかりました」
くるりと扉が回るにつれ、今まで扉の奥に隠されていたさらに深い暗闇――もう一つの部屋が露わになる。
「のあ!やっぱり部屋がありました!!」
「了解!一旦扉を開けて僕も中に入るからちょっと避けてて」
ひっそりと、私に当たらないように気を使いながら最小限の隙間で部屋に入ってきたのあと、合流する。
「早速入ろっか」
「そうですね」
散らばる小物の山を器用に避けながらのあは先に部屋に入っていった。
「……」
先ほど出そうとした結論がまだ胸の中で燻って違和感を残したままだったが気のせいだ、と無理矢理振り払いながら私はのあに続いた。
* * *
彼は、愉しんでいる。
終わるはずもない迷宮に希望を持ち、抜け出してやろうと奔走する愚かな人間を見ながら悦に浸るのが愉しくて愉しくて仕方がない。
彼にとって、それは当たり前であり己が魔物であるからして正当な行いでアイデンティティだ。
あるものからしたら極上のスパイスとも呼べるそれはあるものからしたらただの毒である。
彼は、まだ知らない。それを脅かそうとする存在がいることを。
彼はただ、新たにやってきた二人の行動を楽しみに見て、来たる食事の時を待つだけだ。
* * *
私たち、二人が入った部屋の中は殺風景であるのは机とその上に鉢植えが置かれ、四種花が植えられているだけだ。
「もう一回問題文を読んどくよ『白黒では見えないもの。それが2-4 4-1を示した時、磁器を表す。1-1 2-1薔薇の見えざるものを見ろ』」
「白黒の部分は解決したとして、2-4 4-1が磁器を表す……が次の謎ですね」
二人で黙ってそれぞれ思考を固める。
2-4 4-1 が、磁気を表すとするのなら2-4が「じ」、4-1が「き」を表すと考えられる。
ただその2-4が何を表して答えが『じ』になるのかが問題だ。
「……これもしかして花言葉とか言い出さないよね?」
「流石に前提知識が必要になるものは問題として使わないでしょうから、もし花言葉を使うようなら何処かにヒントがあるはずです」
私はのあにそう返しながらも、私は纏まらない思考をどうにかしようと頭の中は一人忙しない。
(あ、薔薇)
ふと、ライにもらい髪に挿してあった濃紅の薔薇が目に入る。なんとなくその薔薇の色が引っかかった私は今までちゃんと確認してしなかった目の前の花の「色」を見ることにした。
左から順に、赤、オレンジ、白、黄の花は何の変哲もないただの花であまり花に詳しくない私に種類を見分けることはできない。
(うん?あか、オレンジ、しろ、き)
他のところに目を取られていたが始めに挙げた、花の色の中に「磁器」の文字が含まれていることに気づき――
「のあ!」
「どしたの?」
「答え、多分わかりました」
私の言葉に大きく目を見開いたのあは、じっと私の説明を待っている。
「ヒントは色だったんです」
「……白黒の話?」
「そうです。私たちは色付きのものが謎に関わるものだとしか認識してなかったけれど、そもそも初めから言われていたんですよ。――色が謎だって」
なぜ見落としてしまったのかな、と思う。花という謎の対象物を見つけた時点で白黒の謎は解けた、もう終わったと外してしまっていたのだ。
「この花の色は?」
「赤、オレンジ、白、黄。……ん?」
のあも違和感に気づいたようだ。私はこくりと頷いて説明を続ける。
「今ので少し引っかかりを覚えたかと思うのですが、お察しの通り「色の名前」の中に「磁気」という文字が入るんです。2-4が「じ」の文字を表すと仮定して規則性を考えると――」
「――「じ」の文字は二つ目の花、「オレンジ」の四文字目」
のあがはっと、顔を上げて言う。
「それが2-4ってことになる!」
「この規則性に則って謎を解くと1-1は?」
「あか、だから一文字目の「あ」だね」
「2-1はオレンジの一文字目「お」になって、後ろの文字と繋げると答えは――」
『青薔薇?』
二人とも同時に声を上げながら首を傾げた。




