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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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二十四話 紅の館


「ふんふふふーん」

「ちょ、とま、とっとと、止まってくだひゃいぃっ!?」


ライに引っ張られる私、月乃玲明は「止まって下さい」と喋ろうとして盛大に舌を噛む。


「あ、今度はこっちですよぉ〜」

「だから、止まってくださいぃぃぃぃっ!!!」


聞いているのか聞いていないのか聞いていながら無視をしているのか、ライは人混みをものともしない凄い勢いで駆ける。

人混みの間だというのに風のようにかけられるライは色々とおかしいと思う。


「おっと、そこのお方ー!危ないですよぉ」 


そんなこんなでだいぶ歩き(引きずられ)人が薄い通りまで歩いたところで一人立ちすくむ影を見つける。よくみるとその影は――


「えぇっ、れい!?嘘でしょ!?」

「のあ、避けてくださいぃっ!!」


目の前にいたのはのあだった。それはそれとしてこのままでは私の前を行くライとのあがぶつかる――と急いで声を上げた。がライは私の手を離しのあの目の前でくるりと宙をまってのあを飛び越えた。


『えぇぇっ!?』


二人で声を上げて驚いたのも束の間。


『ドゴッ』


明らか痛い音が響く。痛い音というより実際痛い。

今までのライに引っ張られた勢いが残っていた私は見事にのあに突進し、のあを下敷きに転んだ。


「……怪我はない?」

「お陰様で。……のあの方は?」

「大丈夫」


二人で埃を払いつつ立ち上がると、この騒動の張本人であるライが口を開いた。


「すみません〜そちらの方も、お嬢様もお怪我はありませんかぁ?」

「……大丈夫です」

「ライ。もう引っ張るのはやめていただけると……」


探すのを手伝ってくれたのはありがたいが文句だけは言わせておいていただこう。

まぁ、悪い人ではないのだろうけれど……。


「ところでお嬢様そちらの方、言っていた特徴と一致しますがもしかしてもしかして!?」

「あ、そうです。探してた人です」

「ふふん!そうでしょう、そうでしょう!ライちゃんセンサーにかかれば人探しなんてちょちょいのちょいです!」


自慢げなライを肯定していいものかどうか悩んだがライが見つけてくれたのは紛れもない真実なので「ライのおかげです」と肯定はしておく。

自己紹介の時に取り出した薔薇みたく、何処から取り出したのか花吹雪を舞わせている。


「すみません、わざわざありがとうございました」


のあも保護者と言わんばかりの態度でお礼をいう。


「いえいえ〜!さてと、私もお仕事に戻るとしますぅ」

「……あ」


そう言って立ち去ろうとするライを前に私は何も恩返しが出来ていないことを思い出す。


(どうしよう)


何か恩返しがしたい。けれどお仕事があるならあまり引き止めすぎても、と一瞬だけ考え、ふと思いついた。


「あの、ライ」

「どうしましたぁ?」

「その……迷惑じゃなければライのお仕事場に客として行ってもいいでしょうか?」


ライをかなり長く足止めしてしまったが、私が客になれば少しはライの利益になるだろうか。

それが私が考えて、考えたなりにだした結論だった。


「本当ですかぁ?なんだかかえって申し訳ないですが……私は嬉しいですし大歓迎ですよぉ」


ライからは色よい返答が返ってきたが、今更ながら勝手に決めてしまったと思い、ちらりとのあの方を見る。


「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。れいが何かをしたいって自分からいうことなんて滅多にないからねー。僕はかえって嬉しい」


保護者からもGoサインをもらった私は改めてライに向き直る。


「決まりましたかぁ?」

「あっ!はい、待ってていただきありがとうございました。……ライのお仕事場、案内していただけますか?」

「是非是非〜!早速行きますよぅ!!」


さっきの文句を一応受け取ってくれたのか今度は爆速で引っ張るようなことはせず、普通に案内してくれた。


「……」


ぼぉっとしたり、たまにのあと話したりしながら歩く私から先頭のライの表情は見えず、その双眸が冷酷に細まっていたことなど私ものあも、知る由はなかった。


* * *


「あの……だいぶ人気がないところまできちゃいましたけど……」

「大丈夫ですよぅ!こっちであってます」


目の前を行くライは跳ねるような足取りで歩く。それに合わせ、巻かれた髪もぴょこぴょこ跳ね、さながら兎のような小動物味を感じさせた。


「いやぁ、誰かが来てくれるって嬉しいものですねぇ!人はあんまり来てくれないんですけど絶対楽しいのでそこはご安心をぉ〜」

「……?すみません、また変なことを聞きますがライってサーカスの方……」

「じゃ、ないですよぉ」


私からの疑問にライから否定の言葉が入る。

ライの服装や、奇術から早とちりしてしまっていたようだ。


「すみません、この服装なんかじゃぁ勘違いしちゃいますねぇ。私のお仕事は――脱出ゲームの案内、および集客なんですよぉ」

『脱出ゲーム?』


今まで聞き役に徹していたのあと、私の声が重なる。聞きなれない単語に私ものあも、持った疑問は同じようだ。


「お二人にはとある建物の中に入り、そこにある謎を解いて脱出を目指していただきます」

「謎……ですか……?」

「なかなか難しいですが解けると面白いですよぅ〜あ!実はちゃんと脱出できた人には景品もあるんです」

「え、景品?」

「――お菓子一年分です」

「……!」


とたんにのあの眼の色が変わる。……のあの目は蒼のはずなのに焔が宿っているような熱さを感じさせた。

まぁ、それもそうだろう。普段お菓子を我慢して我慢しきっている私たちにとってお菓子一年分は大きい。


「れい、なんとしてでも脱出するよ」

「は、はい。頑張りましょう」


熱い。とにかく熱い。ただのあがそこまで燃えるのもわからなくはないため出来る限り協力してあげたいな、と思う。


「さて、そろそろ着きますよぉ〜」


先導するライが大きな扉の前でピタリと足を止めた。くるりとこちらに向き直るとその顔は美術品のような冷たさを感じる顔に微笑を貼り付けたような顔で彼女が「ライ」ではなく「案内人」なのだと感じさせた。


「――ようこそ、脱出ゲーム「(あか)の館」へ。お客人の二人を歓迎いたしますわ」


後ろに聳え立つ赤い煉瓦で作られた立派な館と案内人(ライ)の風貌が、何故だが恐ろしく冷たいものに感じる。


「――さてぇ!最初にルール説明をしましょう」


なんだか怖いなと感じたのも束の間、ライはいつもの調子に戻った。


「……さっきのはなんなんだったんですか?」

「いやぁ、たまにはキビキビお仕事してみようかなぁと思ったんですけど、慣れないのでやめました」


てへっ⭐︎と舌を出すライはさっきの面影を感じないほど完璧にライだった。

先ほどの態度の理由もライならあり得なくもない気がしてきてしまうのが不思議だ。


「ルール説明始めますねぇ〜。ゲームの内容はお伝えしたとおり単純明快!この紅の館から「ただ」脱出してください」

「謎をといて脱出……ではなくて?」

「そうですぅ。物を破壊せず脱出出来る方法かあるのならその方法での脱出は大丈夫ですよぉ」


「その方法があるのなら」ということはやはり想定された脱出には謎を解くことが必須なのだろう。


「あと、どうしても脱出できないというのならリタイアをしてください」

「あの……すみません質問なんですけど」

「はぁい?どうぞ」

「挑戦するためのお金って……」

「必要ないですよぉ」

『……!?』


私たちの驚いた様子などものともせず、ライは言葉を続けた。


「私も短期就労(アルバイト)ですので主催者がらどういうつもりなのかはわかりませんがぁ……お貴族様の道楽ってやつじゃないですかねぇ?」

「そうですかね……?」

「お貴族様の考えることなんてわからないものですからぁ」


そうは言われてもやっぱり不可解なものだ。……でもライの言う通り、お偉いさんの貴族の気持ちなんてわからないし、そういうものなのかなぁ、と無理矢理納得しておくことにした。


「他に質問はありますかぁ?」

『大丈夫です』


のあも私と同じような考えにいたり、とりあえず納得したのか、迷いはありつつもはっきりとした口調で返事を重ねた。


「了解です。それじゃあ――」


「紅の館、どうぞ楽しんで来てください」


ライがぎぃ、っと重い扉を開く。

重い扉の先にあった光景は一面、海のような深い深い暗闇で、私は呑み込まれてしまうのではないかという恐怖を押し殺しながらのあと中へ進んだ。

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