二十三話 【迷子のお知らせです】月乃玲明ちゃん。月乃玲明ちゃん。保護者の華道のあくんが探しています
飴を食べ終わった私、月乃玲明と幼馴染の華道のあはまた街中をぶらりと歩く。
人の波に揉まれながらもゆっくり、ゆったりとこの時間を噛み締めるように歩く。
「次はどこ行こっか?」
「他はどんなお店があるんですか?」
うーん、と口に手を当て少し考えてからのあは指を指す。
「ハロウィン特有のお面屋とか――」
のあが指を指したお面屋は鮮やかな彩りで、子供が見ても大人が見ても楽しめるようなものをたくさん取り揃えていた。
「後はアクセサリーなんかも売ってるね」
また、別の方向を指したのあの指につられ、私も視線を向ける。
なんとなく、ふと見た時に目に入った青薔薇の形をした飾りに惹きつけられて出店の前で立ち止まる。
「興味ある?」
「……そういうわけじゃ。なんとなく目を奪われただけですから」
青薔薇の飾りは水や星や氷、とそういった触れることができそうでできない、遠くにあるもので作られたような透明感や特別感があって、そこらの灯りも映し出しきらきらと煌めくその様は、一等目を惹かれてしまった。
「お嬢ちゃん、お目が高いねぇ!それは隣にあるネクタイピンの青薔薇飾りとその髪飾りの青薔薇、セットで「逆転の青薔薇」って言う名前のついた飾りなんだよ。それぞれ別物として売ってはいるがね」
ふと青薔薇の髪飾りの隣を見るとネクタイピン型の青薔薇飾りが置いてあった。
ネクタイピンの青薔薇飾りも、他のアクセサリーより一等輝きを放っている。
「そのガラス細工、とっても細かいだろう?それはずっと昔にいた高名な職人が作ったらしいんだけれど、その当時はそんな細かいガラス細工なんて不可能だと言われていた」
「そんな中、生涯ガラス細工に挑戦した職人はついにこの二つのガラス細工を作ったんだ。
しかも、職人が作ったガラス細工は青薔薇。青薔薇の花言葉は「不可能」っていうじゃないか。いやぁ!浪漫があると思わんかい?」
私は自然とそのガラス細工から目が離せなかった。「ここならお安く買えるよ」という店主の言葉に反応してふっと値段の方を見てみたが、今の私には買えないような金額だった。
とは言え数ヶ月バイトでもすれば買える値段なため、宝飾品の中では安い方なのだろうか。
「……」
今まで全く言葉を発しなかったのあが気になり、横を向くとのあの視線の先はネクタイピンの青薔薇飾りがあった。
のあの目のような鮮やかな青薔薇の飾りをのあが着けている想像をして――
(似合うだろうな)
何故かそれからはそのネクタイピンの方が気になってしまった。
「……この露店っていつまで開いていますか?」
「そうだなぁ……あと一、二ヶ月くらい開いているかな。その後はまた俺も商品を仕入れに水門町の本店の方まで戻っちまうからねぇ……」
私が青薔薇飾りに惹かれていることを察したおじさんは「またここで、店開いてるからね」と人の良さそうな笑みで言ってくれた。
* * *
また歩き出した私たちは、特に行き先も決めずただただぶらりと歩く。
ただ私も、のあも先程の飾りのことを考えていたのか口数は少なかった。
「あっ……」
ぼぉっとしていたからか、私は人の波に押されてのあと距離ができてしまった。
「あ、れいっ!」
のあもこちらに気づいたのか手を伸ばしてくれるがその手は宙をかすめるだけで私には届かなかった。
のあの方へ進みもうとするが人に押され、一向に進むことはできず、そればかりかどんどん反対方向へと引き離されてついにのあの姿は見えなくなってしまった。
(どうしよう……)
とりあえず人が少ない方まで歩きに歩いて、身動きはとれるようになったが全く知らないところまで来てしまった。
その辺りを見回っている衛兵に道を尋ねてもいいがなかなか見つからない。
「はぁーい!ご機嫌よう、そこ行くお嬢様」
ふと、誰かが声を上げる。どこから声がかかっているのだろうと俯いていた顔を上げると、その声は目の前から掛かっていた。
「え、あ、私ですか……?」
「おぉーっと、これは失敬!驚かせてしまいましたぁ?」
目の前の声を発する人物――少女は、夜空のような濃紺色の髪を片側にまとめ、軽いお団子を作り、残った髪は綺麗に巻いてロールになっている。
綺麗な髪だなぁという印象より、剽軽さが際立つ。
「私の名前はライ、以後お見知り置きを?」
ライと名乗った少女は、芝居がかった大袈裟な仕草でお辞儀をして、手を差し出す。
瞬きをして、次にその少女を見たとき、その手には紅い薔薇が握られていた。
「どうぞ。お嬢様には薔薇が似合うと思いまして。……まぁ、現実に存在するのだとするのなら赤薔薇よりも青薔薇の方がお似合いな気はしますが」
「……ありがとうございます」
その手から薔薇を受け取り、自分の髪の結い目に挿すとにこっと唇が吊り上がった。
腰を屈めた綺麗な礼や、笑った表情もにこやかなものだったがその、金色のような茶色のような不思議な瞳は終始こちらを見据えておりその瞳と表情が重なると何かにわくわくするような、楽しんでいるような不思議な空気を感じさせた。
「……えぇっとライ、さんでいいでしょうか?」
「私はしがない道化ですので、敬称は付けずライとお呼びくださいなぁ」
「ライ……でいいのでしょうか……?」
「よくできました〜」
幼子にするように褒められるのはなんだかむず痒い。
ライの「道化」という発言で全身をみると、確かにボリュームのあるスカートにピエロカラー、片お団子の上にはちょこんと乗ったミニシルクハットなど道化とも呼べる格好であったことに気づく。
「ところでお嬢様、お困りのようですが如何なされましたぁ?」
「あ……一緒に来ていた人とはぐれてしまって」
「人が多いですもんねぇ。この私めもその人探し、お手伝い致しましょう!」
私はライからの思ってもない申し出に戸惑った。
「だ、大丈夫です!申し訳ないので……」
「いいんですって〜人を笑顔にするのが道化の役目なのですから私に貴方を笑顔にするお手伝いをさせていただけませんか?」
おちゃらけた調子でライはそう言ってくれた。気取った様子はあるけれど、いい人なんだなぁと私は密かに思う。
「いいのでしょうか……」
「もっちろん!どのような特徴の人ですかぁ?」
「茶色の髪に、青色の目で、ローブを被った人物であとは小柄です」
「ふむふむ……!わかりましたよぉ、このライが貴方の探し人を見つけてしんぜましょう!」
何やら頭に手を当てて、ひとしきりうんうん唸った後、ライはバッと顔を上げた。
「わかりましたよぉ!ライちゃんレーダーによると貴方の探し人はあっちです!」
「えっ、ちょ、ひゃぁぁぁぁっ!?」
なんだかコロコロ一人称が変わるなぁ……と考えた次の瞬間ライに物凄い力で引っ張られ……というより引きずられ、人混みの中へ突進していった。
甲高い悲鳴は、騒がしい夜でも一層よく響いた。




