二十二話 無自覚天才系少女、またやらかす
にやりとするのあは相当悪どい顔をしていることに気づいているのだろうか。
「それで――月乃玲明さんお返事は?」
正直に言って私は自分から何かを望むことが苦手だ。
何をしたい。何をしてほしい。自分の望みを持つこと自体に恐れを抱き、だいたいは周りの言葉に流される。
それを、いつもはのあも許して見守ってくれているはずだった。
(私は……どうしたいんだろう)
行かなくたって、別に問題はない。ただただ帰って寝るだけだ。
でも折角のあが、誘ってくれたお祭り。
なんだか、このまま帰ってもお祭りに行ってたらどうだったかを考えて眠れない気がする。
行っていいのだろうかと、どこからともなく湧いてくる不安と色々な感情がせめぎ合い、出した答えは――
「お祭り、行き、ますっ」
辿々しい答えだったがのあはにっこりと微笑んで手を差し出してくれた。
* * *
そんなこんなでがさばらないようにランタンを近くの木にかけたりしっかりローブを羽織って街の方へ降りる。
「結構混んでますね」
「まぁ、大きいイベントだしね。これくらい賑やかな方が楽しいでしょ?」
人の波に呑まれながらも端によればなんとか二人で並ぶだけのスペースを確保した。
「それで、街を回るってどこに行くんですか?」
「その名の通りただ街を回って出店でお菓子買ったりするだけだよ」
「え、でもお金が……」
「今までの節約分と――バイト代!」
「バイト……?」
意味は知っているのだが思ってもない言葉が出てきたため思わず聞き返してしまった。
「そう。最近このために内職してたんだ〜。最近忙しかったのも半分はそれ」
「そうだったんですね」
のあの異常な忙しさはそこにあったようだ。そんなに楽しみにしていたならばこのお祭りをぜひ楽しんでほしいな、と思う。
「……そんなに楽しみにしているところに私が居ていいんですか?」
「何言ってんの。れいと楽しみたいから誘ったんだよ。逆にれいが居ないと困る。
多分その辺のもの買える程度にはお金貯えたから気になる物があったらなんでも言って?」
「なんかすごく申し訳ないです」
「いいって!節約分は二人でしたものだしこれくらいさせてよ」
そう言ってのあは無邪気に笑った。それにつられて、上手く笑えているかはわからなかったけれど、私も頬を緩めてみた。
本当ならのあの一歩はもっと大きいはずなのに、私に合わせてくれた歩幅も、人混みの熱も、ここにある全てが心地よかった。
「あ、れい!飴食べよ!!」
腕を引かれ、のあと一緒に飴の売っている店の方へ歩く。
飴は二種類から四種の色がぐるぐるねじられ一本になったものを渦巻き状に巻いたいわゆるロリポップと呼ばれる飴で、見ているだけでも楽しいものだ。
「おや、お二人さん恋人かい?いいねぇ〜」
「いや、そういう訳じゃ……」
「恋人なんかじゃないですよ。学校が同じ幼馴染です」
飴屋のお婆さんにそう声がかけられた。私は思わずわたわたしてしまったがのあが上手く返してくれた。
「そうかいそうかい。飴ちゃん一つおまけしておいてあげるから。今夜のお祭りを楽しみなねぇ」
弁明はしたものの、さらっと流してしまったお婆さんはやけににこにこしている。
「あぁ、ただ最近下町の子供なんかが居なくなってしまうこともあるようだし気をつけてねぇ」
お婆さんからの忠告を聞きながら、私はりんご風味のロリポップ、のあはいちご風味のロリポップをもらい、さらにおまけのオレンジ風味のロリポップを貰うと、のあと一緒にお婆さんに手を振って店を後にした。
「おいし〜!」
「美味しいですね」
大通りから少し外れた広場まで歩き、ベンチに座りながら私たちは飴を食べた。
りんご風味のロリポップは白色と黄色と橙色と赤色で見た目も艶があり、綺麗だったが味もさることながらかなり美味しい。
「れいは飴舐める派?噛み砕く派?」
「うーん……どっちもですかね……?初めのうちは舐めてますけど後になったら結構噛み砕いてます」
「へぇ〜。僕は結構最後まで舐めてる派」
そんな話をしながら私は大通りを眺める。人々の喧騒、街の灯り、活気に溢れる声……全てが私には目新しい。
「ハロウィン楽しい?」
「……すっごく」
自分でも不思議なほどだが心臓がばくばくして体が内側から熱くなってくるような、そんな「楽しい」の感情を、私は今感じれていた。
「楽しんでもらえたならよかった。……ちょっと悪いことするのも悪くはないでしょ?」
にやりと唇を吊り上げ、のあが言う。
そういえば今更だが寮の外出禁止時間を破ってしまったんだな、と思い返した。
……とは言っても帰るつもりもまだないのだが。
「悪いことって楽しいですね」
「あー、れいもこっち側に来てしまった」
「ふふ、不良になっちゃいました」
噛んだ飴が口の中でパリッと音を立てて割れた。このパリパリという音も小気味いい。
「そう言えばこのおまけの飴はどうする?」
「あ、そういえば貰いましたね」
二人に対して飴は一つしかない。
「……分けます?」
「いや、どうやって?」
「分けていいですか?」
「いいけど……?」
ロリポップに齧り付くとパリッと割った。私が食べたところが欠けて月のような形になっていた。
「……」
「のあ?、どうしましたか?」
のあは、私が差し出したロリポップを前に口を開いてわなわなと体を震わせている。
「寒いんですか?」
「…………ヤバいなんだろうこの感じ。無自覚天才系天然少女の行き着く先がこれだというのだろうか……?いやもうさ……」
と、何やらぶつぶつ呟き出すのあ。ただ数分してバッと顔を上げた。
「もういいや、諦めた。れいが全く気にしてないのに僕だけうだうだ言ってるのが馬鹿らしくなってきた。……飴もらう」
のあは、私の手から取ったロリポップをバリバリ噛み砕いて食べた。
のあは舐める派だと聞いたからそれが出来る様に最初に割って食べたのになぁ、と思いながらまぁたまにはそういう気分の時もあるか、と納得して夜空をぼぉっと見つめた。
祭りの雰囲気に私も高揚しているのか体の底から泉のようにこんこんと湧き出る感情はまだ収まらない。
「待っててくれてありがと。他のとこも回ろっか」
そう言って先にたったのあの手を借りて、私も立ち上がる。
のあから差し出された手の方に、私の手を重ねて立ち上がると私たちはまた歩き出した。
……のあのわくわくしているような、無邪気な笑顔の横顔に少しだけ目を奪われたのは内緒だ。




