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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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二十話 コーヒーの代わりに麺つゆ入れるか迷ったけど流石にやめてやった


休日も過ぎ去っていった週明け。私、月乃玲明は演劇の練習で大ホールへと来ていた。


「それじゃあ、練習始めるよ!」


のあの掛け声によって初めての立ち稽古が開始された。

本当に劇の世界の中に入り込み、生きるというなら行動も大事だ。


『何故……何故日記が貴方の手にっ』

『メリア、これは本当なのか……?』


この時、姫は何を思ったのだろう。

想像でしかないけれど、余命が知られたら王子との婚約が破棄されてもう会えなくなると思ったのだろうか。

会いたいというのは自分の欲であり相手への心配は大切という気持ちでもある。


一つ一つの裏表を考えながらセリフと仕草を紡いでいく。


『帰って……帰ってください!!』

『メリア!!』


王子を追い出し、部屋に閉じ籠る。

知られてしまったことに動転する気持ちと、絶望と、色々がない混ぜになった感情。

色んなことを考えながら、物語に沿った適切な演技をしていく。


前よりだいぶ成長しているはず。

セリフの読み方も良くなった。立ち回りも良くはなってる。人物の気持ちも考えた。


しかし、まだ()()()()()だけに過ぎない。

どこか不完全で、メリア姫にはなりきれていない。


まぁ、やっぱり決意を新たにしたところで、一日二日で劇的に上手くなるというわけには行かないだろう。


帰ったらまた練習しなくては、と意気込みながら次の台詞を紡いだ。


* * *


「そんな顔してどうしたの?」


隣から声がかけられる。立ち稽古を観客席から眺めるのは僕、華道のあ。隣に座るのはまだ出番ではないため観客席の方まで降りてきている雷山ミアだ。


「別に。何かがある訳じゃないよ」

「そう?」


そう言い、前の座席にもたれかかるミアの視線の先は僕と同じ。漆のような艶やかな黒髪に特徴的な赤い眼を持った少女、月乃玲明だ。


「……演技、上達したわよね」

「本当に。あそこまで上達するなんて、れいは凄いなぁ」


それは心の底から思った本音だった。ただそれよりも――何様だって自分でも思うけれど僕の指導についてきてくれたのが嬉しかった。一緒に頑張ろうって、肩を並べてそう言えるのが何よりも嬉しい。


「にしては、変な顔してるわよ」

「え?」


顔を触ってもわかるわけなどないのに咄嗟に顔へと手が伸びた。ミアからはくすりと笑われる。


「気づいてなかったの?」

「……そんなに変な顔してた?」

「すっごく」


そんなに言われるなんて心外だなぁと僕も苦笑を溢す。その苦笑はミアに対してというより、僕自身に向けた意味合いが大きかった。


(僕も馬鹿だなぁ。何を悶々としているんだか)


「……嫉妬?」

「そういうんでもないさ。多分、保護者心?」


今まで僕の方を向いていたミアはまた、舞台で稽古をしているれいの方――ずっと遠くを見ながら言った。


「……のあは自分の心を誤魔化すのが上手なのね」


何を、と言い返そうとしたが何も言葉は出てこなかった。ただ、ちょっとしたもやもやが胸の中でつかえただけだった。


* * *


劇の練習を終え一通りの授業も終えた私、月乃玲明は生徒会室へと来ていた。


今日は参加希望の受付者も驚くほど少なく、そちらに時間を割かれることもなさそうなので私と峰先輩のペアは業者への発注手続きを行おうと事前に話し合ってある。


「あ、月乃くん来たね。じゃあ早速始めよー……と言いたいところだけど今日は何の日だ?」

「え、えぇ……?」


今日は何かあっただろうか……?と頭の上に疑問符をたくさん浮かべながら思考を巡らせる。


「もしかしてだけど……」

「はい。わかりません」

「流石に覚えてないとは思わなかったなぁ……今日はハロウィンだよ」

「ハロウィン……」


名前は知っている。死後の世界との扉が繋がり、祖霊が還ってくるとされているが、一緒に悪魔や悪霊も還ってきてしまうため惑わされないように仮装をするのだ。あとは――


「トリック・オア・トリート……でしたっけ」

「まぁ、それが聞けたからよしとしようか」


そう言って峰先輩は茶色の小箱を取り出す。


「はい。いつもお世話にになってるからね。ちょっとしたお菓子だけど渡そうと思って」

「あ、ありがとうございます……すみません。何も持ってなくて……」

「いいよいいよ。僕が渡したかったから渡しただけ。僕も書類無くしたり迷惑かけてるしね……」


最後の方はなんとなく遠い目をして言っていた。妙に実感がこもっている。


「今日は何かお菓子持ち歩いていた方がいいよ。トリック・オア・トリートってなんとなく口にしてるけどお菓子くれないと悪戯するよって意味だからねー。お菓子あげないと悪戯されるかもよ……?」

「え。悪戯……」


ハロウィン恐ろしい。……と言っても学校内でできる悪戯などそんなにないだろう。


「あ、ほら悠里くんとかえげつなさそう」


開いたままの生徒会室の扉の向こう側ではのあがカップを片手に悶えている。


「なーにやってんの」

「あ?お前か。こいつ菓子持ってなかったから悪戯しただけ」

「……何を?」

「コーヒー渡した。……バリ甘いやつ」


私と峰先輩で遠い目をする。本当にえげつなかった。恐ろしや、恐ろしや。


「のあ、ご愁傷様です……」


甘党ののあでも悶えるほど甘いってどれくらい甘いのだろう……と、密かに気になりながら私はのあに向かって心の中で手を合わせた。合掌。

一応この世界にも和風文化はあるので麺つゆもあります。ユールでもちょいちょいお蕎麦とかあったりする。

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