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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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十九話 燭台の心


私、月乃玲明は幼馴染の華道のあともうすっかり暗くなった道を歩く。

今まではよくあった、ありふれた光景だったが忙しく、別行動を取ることが多い最近では珍しいことだった。


「今日はどうだった?」

「風夜先輩とお茶して、一条先輩とご飯食べて、風夜教教祖の方に布教されました」

「一日の情報量どうなってるの?」


それはこちらが聞きたい。と、思いつつ心の中に留めておく。


「のあの方はどうでしたか?」

「うーん。打ち合わせ、打ち合わせ、打ち合わせの打ち合わせ三昧」

「お疲れ様です」


あっちはあっちで、なんだか大変そうだ。二人で顔を見合い、苦笑する。なんやかんや私ものあも、二人とも濃い一日だったようだ。


「特に風夜先輩過激派の方に布教されたのが印象的なのですが息継ぎしないでずっと喋ってるんですよ……どこの次元の方だって思いましたね。

あと一条先輩に扇子突きつけて黙らせてました」

「え、その過激派の方何者?」


のあの疑問はごもっともである。

あの一条先輩を黙らせるなんてそう誰にも出来ることじゃない。


「そういや風夜先輩とお茶したとか一条先輩とご飯食べたって言ってたけどどんな話したの?」

「あぁ、それは……」


ふと、のあから疑問を投げかけられる。主な話は『愛について』私が聞いていたしそれを話して、折角の機会だからのあにも聞こうと――


口は、開かなかった。


「…………」

「れい……?」


何故、口を閉じたか詳しいことは私も自分自身がわかってない。

ただ一つだけ、愛についてを聞いて、ボロが出て私が愛をわからない歪な人だということが怖いという感情だけがそこにはあった。


他の人にはそんなこと考えなかったのに何故か……隠したいと思ってしまった。


「……ただ息抜きとか、学園祭とかなんてことない世間話ですよ」


胸中に湧き出た黒いもやをかき消し、私はちょっとだけ歪に笑って口を開いた。


* * *


「なんでしょう?これ……」


翌日は休日であり、起きたのも日が昇り切る様な昼近い時間のことだった。


少し遅い朝食を取り、扉に備え付けられているポストの中を確認する。確認だけはするものの、大抵何も入っていない。――が、今日は一通の手紙があったのだ。


銀色の封筒、裏には私宛であることの証に『月乃玲明』と名が書かれていた。しかし、封を開けてみても中は白紙。


「質の悪い悪戯でしょうか……?」


裏返してみても何もない。ただ紙の凹凸とはまた違う、変にザラザラした感触が指に残るのが引っかかった。


結局、手紙の謎は解けないまま夜を迎える。


今日の夕食は平常時の私ならば珍しく、最近の私にしては日常になりつつある調理をした。

私の食事サイクルだが、買ってきた食材をのあに渡しておけば寮の管理人さんを通して夕食と翌日分の朝食を作って届けてくれるため料理をすることはほぼない。


しかし、のあが多忙なここ一日二日はその料理を作る時間も取れないとのことで朝は保存食、昼は食堂か、休日は抜き、夕食は調理をして食い繋いでいる。


……余談だが調理はあまり得意ではない。複雑な料理に挑戦しようとするとニ回に一回は食べられるかあやしい異物(ダークマター)が出来上がる。

炙る、焼く、炒めるの違いがいまいちわからない底辺調理師(コック)なので、まずそこからどうにかしないと料理本を見ても解決はしないだろう。


そんな訳で、のあにまで「お願いだから必要以上に火を使わないで」と言わしめた私は簡単なサラダとパンとで、今夜の夕食とすることを決めた。


温度を低く保つよう魔術がかけられた棚から幾つか野菜を出す。

青々としたレタスや赤く熟れたトマトを切り、皿に並べて塩胡椒で味付けすれば立派なサラダである。


サラダとパンをテーブルに並べ、ついでに暗くなってきたため燭台の蝋燭に火をつけ夕食にした。


ゆらゆらと揺らめく赤い火をぼぉっと見ながら摂る夕食はなんだか心地よく、周りに誰もいない環境は私を思考の世界に引っ張り込むには最適な環境だった。


(愛とは何か、自分なりにまとめて結論を出そう)


ある人は愛を、大切だと思う気持ちから生まれると言った。

ある人は愛を、共に在るのが心地よくて、でも目が離せない危うさのある関係だと言った。

ある人は愛を、知ればいいわけではない、毒にも薬にもなる不確定なものだと言った。

ある人は愛を、己の欲だと言った。


きっと正解なんてなくて、でもどれも正解で不正解なのだと思う。


その中で、私が()()()()()()()()()()を取るならミアと峰先輩の言った二つだ。

人を大切だと思う気持ちと一緒に在りたい、でも目を離すと何処か行ってしまいそうで目が離せない。

そのくらいの危うさが演じるには綺麗でみんなが見たいと思う演劇だ。


ただ私が()()()()()()()()()()()()()は全てが正解だ。

演技をする上で取った二つの正解は愛の表面、逆に風夜先輩と一条先輩の二つは裏面だ。

劇をするならば裏面がない表面だけ取り繕ったものでも形にはなる。


だけど、本当にいい劇にしたいなら劇の中で生きる全ての正解を取る方がいい。


(私は……)


わざわざ難しい方を選んで、やる覚悟があるのか。自分に問いかけ、しばし考え込んだ。


劇にそんなに熱中して、何になる。


それがきっと大衆の意見であり、私も片隅で思っている本音だ。

やっぱりよくわからなくなって、泥沼に沈んでいきそうになったその時――


『人生なんて無駄を楽しむものよ。たまには何故とか、なんで、とか置いておいて目先のことだけに集中してみるのもいいんじゃないかしら?』


友人の言葉がふと頭をよぎった。


(目先のことだけ――)


――私は、演劇を成功させたい。


『それでいいじゃない』


きっと、この場にミアがいたならそう言ってくれる気がする。

そう、私は演劇を成功させたい。


(やろう。きっと何か、自分にも得られるものがあるはずだから)


決意を固め、目を開けた先にはまだ、燭台の上で、蝋燭が赤々と燃えていた。

その様子は今の私の心のように、確かな芯を持った、強い光だった。

なんやかんや連続投稿期間は昨日で終了だったんですよね……(今更)

絶対に毎日投稿とは言えませんが出来るだけ毎日投稿できるように頑張りますのでちょいちょい覗いていただけると嬉しいです。

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