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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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十八話 君の名は……?


「わたくしは、風夜お姉様の友人などではありませんわ!!わたくしはただ崇拝しているだけでしてよ!なんと畏れ多く不敬なことをっ!!貴方それでも生徒会役員の端くれですこと!?」

「はっ、はぁ……申し訳ありません……?」


私、月乃玲明は今生徒会室前にて説教されていた。


遡ること数十分前――



「受付はこちらです」

「おい、そこ列乱すなっ!!」


列を整備する一条先輩怖い、めちゃくちゃ怖い。と思いながらも人手が足りないため一条先輩達のグループに加わり列整備を手伝っていた。


風夜先輩は来週、運営手伝いの皆さんに対する説明会があるとかで整備の手伝いはできない。のあも劇の打ち合わせが長引いてまだ来ていない。

峰先輩もクラス関連で少し遅れるとのこと。


消去法で残ったのが私と一条先輩しかいなかったのである。一条先輩が元々担当なため一条先輩に任せてしまえばいいと言えばそれまでだが流石にこの人数を一人で整備しろというのはなかなかに無謀。

……という訳で一条先輩から応援の要請を受け、整備の手伝いをしている。


「だからそこっ!!列乱すなってんだろ!?」


治安が悪い。

お上品な学校なのにここだけ治安が急降下していってる。犯人は言うまでも無いであろうあの方。


とりあえずこれ以上治安が下がる前に私も整備の方をどうにかしようと逆走する人に注意に行ったり、帰るのを渋る人を押し出したり。

そんなこんなしている間にうろうろしながら何かを探す様子の令嬢を見つける。


(探しもの?)


そう思い、うろうろしている令嬢のもとへ歩み寄った。


「あの……」

「はい?」

「どうされたんですか?」

「風夜お姉様を探していただけですわ」


大体風夜先輩を信奉する人たちはなんとなく後ろめたさがあるのかはっきり探したりはしない。

会えたらいいなー程度に生徒会室前を彷徨かれたりはするが。となるとこの方はご友人だろうか。


「風夜先輩のご友人ですね。今風夜先輩は――っ!?」


気づいたとき、令嬢は目の前の生物の息の根を止めようと考える肉食獣の目をしていた。



……そして冒頭に戻る。


「全く……ほんっとうにありえませんわ!!」


私からの「友人」の言葉が何かの逆鱗に触れたらしく怒りがおさまらない様子のご令嬢。

さっきチラリと聞こえた「崇拝」のワードにこの方も生徒会信仰の方かっ!と、もう諦めというか何かの悟りを開き始めた気がした。


「おい月乃!列の整備を……」

『あ』


整備から抜けていた私を呼び戻しにきた一条先輩と令嬢が何やら対面し、お互い声を上げた。


「隣のクラスの一条さんじゃありませんこと?風夜お姉様はどこに?」

「あぁ?今日はあいつ来ねえよ狂信者」


予想外の言葉の応酬にはて……と、私は首を傾げる。一条先輩を見たら飛びついていくと思ったのになんだか様子がおかしい。


(一条、さん……?)


「さん」呼びに妙な引っ掛かりを覚え、口を開く。


「崇拝してるのでは?」

「えぇ、崇拝していますとも。()()()()()を」


あぁと、私は引っ掛かりが溶けてなくなる気分だった。


この人は生粋の風夜凛信奉者なのだ。


私の勘違いはそこにあった。

だいたい生徒会を信奉するものは女子が風夜先輩に憧れ、憧れながらも一条先輩、峰先輩の婚約者の座を射止めようとしている。

生徒会の誰々を信奉していると、口にはするが用は上流階級の人と繋がりを持てれば良いというのが大半の生徒の考え方だ。


だが目の前の人は風夜先輩一人を信奉する生粋の信奉者であった。


「まさか他の生徒会をまとめて崇拝しています!などと抜かす不届き者と一緒になんてしていないわよね?」


なんだろう、直感的だけどこの人他の生徒会信仰者の数段上をいくヤバさがある気がする。


「というかあいつにそんな崇拝するようなとこあるわけ――」


次の瞬間一条先輩がたじろぎながら口を閉じる。

一条先輩の喉元には令嬢がそれ以上喋ったら殺すと言わんばかりの鋭い眼光で扇子を突き付けていた。

あの一条先輩を黙らすとか風夜先輩の過激派どうなってるんだ。

もうやだ、怖い。過激派怖い。


「風夜お姉様の素晴らしさをご存じない……?」


首がひしゃげた人形のようにコテリと首を傾げると恍惚とした表情で宙を見た。


「風夜お姉様の素晴らしさと言ったらまずはその聡明さですわっ!!毎年のテストでは小等部からずっと成績上位に名を連ねる才女!生徒会長を見事に務めるテストでは測り切れない柔軟性のある思考をお持ちで人望も厚くあられるのです!!

世界の全てを見透かしたと言わんばかりの深緑の相貌に空に浮かぶ銀の星が落ちてきたか見紛うほどの高貴な銀のお御髪に余計なものは全て削ぎ落としたかのような高貴さを兼ね備える鋭利なお顔立ち!!まるで神がその手で丹精を込めて作った完璧な美術品の様でありませんこと!?

さらには鋭さもありながら弱きものも見捨てない慈愛に満ちた御心も持ち合わせ――」


一条先輩が喉元に扇子を突きつけられたままこちらを見る。

おい、こいつヤバいぞとでもいいたげな表情だ。

大丈夫です、もう知ってますと目線で返しておく。


「まだまだ一割どころか一分にも満たないご紹介で申し訳ありませんね。でも一分に満たないこのご紹介でも風夜お姉様の凄さがわかっていただけたでしょう?」


嫌でも頷きたく無いのか意地を張る一条先輩。変な意地はらずに諦めましょうって!

列整備戻らないとまた数日前のゾンビパニック状態(風夜先輩から聞いた)状態になりますよーと、一条先輩を見る目線に込めながら令嬢の問いには代わりにコクコク頷いておく。


「わかったならよろしくてよ。……さて、わたくしも風夜お姉様の生をこの目に焼き付けて偉大さを語るという重大か役目があり、暇ではありませんの。今日はこの辺りでお暇いたしますわ。ご機嫌よう」


いや、こちらは全然ご機嫌ではありませんがね?と内心思いつつ令嬢の背を見送り、大急ぎで整備へ戻った。


まるで嵐のような人だった……と考えたとき、ふと疑問が頭をよぎった。


あの人、名前なんというのだろう。


あの令嬢、名前名乗らなかったなと今更ながらに気づき、名称がないのも不便なため密かに風夜教教祖と名前をつけた。

本日は皆既月食と惑星食が重なるらしいですよ〜ということで後ほどその番外編も落とします。

どうぞ覗いてやってください。

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