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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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十六話 な ん で そ う な っ た 【再来】


翌日の朝も、のあは忙しいらしく元から一緒には行けないと言われていたため私、月乃玲明は一人で学校に向かっていた。


学校と寮の距離はものの数百メートル程度であるためいつもはのあと話しながら学校へ行けばあっという間に着く。

だが昨日、今日とのあがいない登校の道は周りの花々を見ながら歩くくらいしかやることがないためなんだか非常に長い道のりに感じてしまう。


(あれ……?)


いつも歩くレンガの道の端にのびる小さな道を見つけた。なんだかずっと奥まで続いている。いつもならば気づかなかったであろう道。

私は好奇心に負けて小道へと足を踏み出した。


(なんだか不思議と荒れた感じはしない……)


側に生えている花は秋だというのにしっかりと咲き誇り枯れることなく花をつけている。

こんな季節なのに花が咲いているのは誰かがしっかり手入れでもしたのだろう。


いくらか歩いたところで建造物を見つけた


(あれは……ガゼボ?)


庭園などによく造られ、お茶会や小休憩に利用されるガゼボがそこにはあった。しかも中には誰か人がいる。

邪魔しないように帰ろうと後ろを向き、一歩踏み出したところで――


『パキッ』


木の枝を踏み、それは無慈悲に音を立て割れた。


「誰ですか?…………月乃会計?」


その声は聞き覚えのあるものだった。


「風夜……先輩?」


なんの運命か、神の悪戯か。不思議な不思議な邂逅だった。


* * *


「月乃会計、おかわりはいかがですか?」

「あ、え、はい。いただきます」


今、私は風夜先輩に勧められるがままお茶のおかわりをもらっていた。「な ん で そ う な っ た」再来である。


目の前に座る風夜先輩は優雅な所作でお茶を淹れてくれる。そもそも何故使用人もつけずにお茶などしていたのだろうか。


「何故、という顔をしていますね」

「は、はい……。まぁそれは気になります」


お茶を入れ終わった風夜先輩はどうぞ、とカップをこちらに差し出す。差し出されたカップの中の紅茶は近くに咲く見事な赤い秋薔薇に負けずとも劣らない綺麗な真紅だ。


「いただきます」


十月下旬とはいえ、もう気温は真冬のようなものだ。そんな朝に飲む温かい紅茶は心も体も暖かく包んでくれる。


「私がここにいる理由なんて深いものはないんですけれどね……ただの息抜きですよ」

「息抜き」


風夜先輩からそんな言葉が出てきたことに私は密かに驚く。風夜先輩の息抜きなんて想像したこともなかったが風夜先輩も人間だ。休憩、息抜きといったものは必要だろう。


「風夜先輩が一人で息抜きしていたのに水を差してしまってすみません……このお茶だけ飲んだらお暇します」

「いえ、大丈夫ですよ。どうせなら話し相手になってくれませんか?」

「あ、はい!ぜひ……」


風夜先輩にしては珍しいような物言いに本当に今は息抜き中なんだな……と思う。

側からみたらいつもと変わらない風夜先輩に見えてしまうくらいささやかな息抜きだがこれて息抜きができているのだろうか?と、疑問が出てきたが頭から振り払う。


「ここは、私の気に入ってる場所なんです。……秋薔薇が綺麗でしょう?」

「見事な秋薔薇ですね」


ガセボの周りを取り囲む花々は多様な種類があるが中でも秋薔薇が一層見事に咲き誇っている。


「そこに咲く濃紅色の薔薇は私の一番のお気に入りなんです。濃紅の薔薇の花言葉は「内気」。……私を表したような薔薇」


一瞬だけ自嘲に染まった風夜先輩の顔は、もう一度見るといつもと変わらない風夜先輩の顔だった。


「……私ばかりが話してしまいましたね。すみません。月乃会計も何かあればどうぞ」

「あ、一つだけ、聞いてみたいことがあるんです」

「なんでしょうか?」


普段よりもいくらか人間味のある風夜先輩はこてりと首を傾げた。


「先輩は愛ってどんなものだと思いますか?」

「愛ですか。……難しいですね」


また一口紅茶を啜ると風夜先輩は目を伏せる。

長く、形のよいまつ毛に縁取られた深緑色の目は人を惹きつけて離さない魅力があり、ついついじっと魅入ってしまう。


「結論から言うならば私も愛なんてもの、よくわかりません。……ただ、そうですね。愛を知れば幸せというわけでもないと思います」


その言葉に、私は驚く他なかった。愛はどこでも素晴らしいものと語られているのに風夜先輩は違うと言う。


「愛が常にある環境ならば愛を知った方がいいのでしょう。でも、愛を常に感じることができない環境ならば……それは毒になりえると私は考えます」

「毒……」

「そう、毒です。愛を一度知ってしまったらもう求めずにはいられないでしょう?

愛は運と同じく不確定な要素なのですよ」


風夜先輩は立ち上がり、お気に入りだと言った秋薔薇の元へ歩き、花を手で囲う。


「知らなければいいことなどこの世にごまんとあります。……知らない方が、幸せでいられる」


風夜先輩はその言葉を紡いで、話を締めくくった。

花の元からふわりと手を外す。


「……そろそろ学校の時間ですね。茶器は使用人に片づけさせますから月乃会計も学校へ」

「はい。……風夜先輩、素敵なお時間をありがとうございました」

「気になさらず。…………また生徒会でお待ちしています」


微に、だが確かにそう呟くと風夜先輩は立ち去っていった。


(知らない方が幸せでいられる)


『何故、わたくしはあの方を愛してしまったのでしょうか』

そのセリフにこもった感情は知らない方が良かったと嘆く後悔の感情か。後悔の感情ならば愛よりもいくらか理解できるような。


そうこう考えて風夜先輩の背中を見送った後、私も学校に行こう、と入ってきた時の小道から元来た大通りへと足をすすめた。


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