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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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十三話 にゃーん


私、月乃玲明は生徒会の仕事を終え、寮へと帰ったら疲れ故かそのまま寝てしまい、すぐに翌日へとなった。

なんだか最近は一日が短いような長いような。


支度をして寮を出るといつも大体のあが玄関横に居るのだが珍しく今日はいない。


『にゃー』

「……にゃー?」


ふと聞き慣れない鳴き声があることに気づき、音の出どころを探すとそれは足下にいる猫だった。

灰色の毛並みは艶があり、光を浴びると銀色にも見える、綺麗な毛並みだった。


「貴方の鳴き声でしたか」


スカートの裾がつかないように気をつけながらしゃがんで猫を撫でる。

くるくると喉を鳴らす様はとても嬉しそうだ。


「ごめんれい!遅くなっ……猫ちゃんだー!!」

「あ、のあ。おはようございます」


遅れてやってきたのあも猫に気づき目を輝かせる。

なんとなくそんなイメージは元からあったがのあは動物好きらしい。


「可愛い〜」


のあが猫をひょいと持ち上げる。

それに驚いた様子もない猫は大人しくのあに抱かれている。


「のあ、よく持ち上げられますね」

「小さい頃、ちょっと猫の世話をさせてもらったりしてたからね」


のあも少しばかり猫を撫で、地面に下ろす。するりと抜けた猫は大人しく座った。


「そういえば、この猫ちゃんどこから入ってきたんだろう。あんまり動物が迷い込むことなんてないんだけど……」

「寮はペット禁止ですしね……」


二人で不思議な顔をしているうちに猫はゆらりゆらりたおやかにしっぽをゆらし何処かへ歩いて行ってしまった。


「まぁ多分そのうち何処かから抜け出すよね」

「そうですね。学校、いきましょうか」


私とのあは制服についた毛を一度払い、手を洗ってからまた学校へ向かい出した。


* * *


「……エセル。寮の外にでてはダメでしょう?」

「……にゃー」


ごめんなさいと言わんばかりに猫は鳴いた。その頭を声の主は優しくなでる。


「わかればよろしくてよ。わたくしも心配してしまいますもの」


そう呟くその人は腰掛けている椅子の隣にある大窓から、金色に染まる双眸を細め先ほどまで二人の生徒がいた場所を見つめる。


「たしか月乃玲明と華道のあ……だったかしら?今度直接お会いしてみたいところですわね」


ふっと頰を緩め、「わたくしも支度をしないと」と言って立ち上がる。

さらりと肩から落ちる髪は夜空の紺色を秘めている。単体でも十分に見とれる髪だがその人の鋭利な美貌と金色の瞳の前にはその髪も引き立て役である。

あたりを鋭く照らす一等星のような存在のその人はゆったりと微笑み、猫を撫でた。


* * *


『何故、わたくしはあの方を愛してしまったのでしょうか』

「ストーップ!!」


私、月乃玲明は今、学級活動の時間を使い他のキャストと共にセリフを読んでいく読み合わせの稽古をしていた。が、監督役ののあからダメ出しをくらう。


「もっと恋焦がれるように!苦しそうに読んで」


恋焦がれるように?苦しそうに?と疑問符を浮かべ、はっと思い付いた私はすうっと息を吸い込んで数秒止めてから話し出す。


「っ、あぁ何故わたくしはあの方を愛してしまったのでしょうかっ!」

「荒技だね!?」


実際に息を止めれば苦しそうな演技は出来るだろうと踏んだ。のあ監督には荒技だと言われたが一応及第点ではあるらしい。


「えーっとじゃあ次は……」


ナレーション役の生徒が台詞を読むと、のあ監督は言葉と言葉の間や読む速さについて指摘をした。


生徒のみんなは平民に指摘されるのが気に食わない様子だがのあはそういう役割だし生徒会役員。でもって言ってることは正しいのでみんな渋々聞いている様子だ。


『出来ることなら、もう一度あの方に会いたい……』

「急に演技力上がったけどどしたの!?」


監督役ではありながらもやっぱりツッコまずにはいられないらしい。


「あの猫さん可愛かったな……と」

「お、お〜……」


それだけであんなに演技力上がる?とのあは一人呟く。またたまに見るあの目線でじぃっと見られた。

だから私が何をした。


『そんな姫のもとに――』


私にの後に続くセリフをみんなが読んでいく。

その後もセリフを読み指摘をし、また読むというのを繰り返すこと数回、のあから新たな指示がかかる。


「セリフ読んでく練習はここまでにしよう。一人一人回って改善点とか良かった点とか言っていくからそれまで各自確認の時間に当てて――」


のあが解散の声をかけるとそれぞれ散らばってセリフを読んだり台本を読み込んだり、といった個別行動に移る。


「浮かない顔してどうしたの?」


同じくキャストとして同じ稽古をしていたミアがこちらへ寄ってきた。


「……なんだかあんまり登場人物の心情になりきれなくて」

「まぁ、胸を焦がすほど恋焦がれるなんて大恋愛、現実にはなかなかないし完全に成り切ろうとすると難しいのかもね。

……それなら、さっきの猫ちゃんの話みたいに共感できる感情を探してみたら?」

「共感できる感情……?」

「うん。劇の中での対象はルト王子、玲明が向けたのは猫ちゃんに対してだけど「会いたい」って感情は変わらないでしょう?そんな感じでやってみたらどうかしら」


のあ監督からの指導の番が回ってきてしまったらしく、ミアは去っていったが私はミアの言葉を一人反芻する。


(……共感できる感情)


ミアからアドバイスされた方法を早速使ってみようとメモ帳と筆記用具を片手に最近感じたことを書き出し始めた。



何故、ペットを飼ってはいけない寮の中に猫がいるんでしょうねぇ???


意味深なこといいましたが新キャラです。どうぞよろしくお願いします。

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