十二話 なんでもない
「ご覧くらさいまし!一条様も!」
そう言って一条先輩の周りにも女子生徒が群がる。
押し寄せる人の波に呑み込まれないよう少し外れたところから僕、華道のあはそんな二人の姿を見守る。
「あぁ……そうでしたね。すっかり忘れてましたけど生徒会って生徒たちの憧れの的でしたね」
ルトリア学園の顔、生徒会ともなれば相当な家柄、容姿、才能を持つものが選ばれる。
風夜先輩、峰先輩、一条先輩といった生徒会を代表する三年生の面々は申し分ないステータスの持ち主だ。
そんな生徒会メンバー達は大体どこにいても注目される。とは言ってもここまで仰がれるのは久々ではないだろうか。
「先輩方も大変ですねぇ……」
「そう思ってんならこの状況どうにかしろ!!」
先輩には珍しく心から同情するが僕にこの状況を打破できる手札はない、ということを免罪符に傍観を決め込んだ。
頰を紅潮させて、一条先輩に迫る女子生徒や遠目から風夜先輩を見る男子生徒たちにはきっと憧れ以上の感情もあるのだろうと思う。
たいして話したこともない雲の上の偶像に恋心を抱くなんてやっぱり恋愛とはよくわからない。
「皆さん」
風夜先輩が声をかけるとざわめきは一斉に止んだ。
「今度新しく体育の部というものを設立するのですが、その運営を手伝っていただきたいのです。この中からやってくださる方はいますか?」
一斉に手が上がる。
『やらせていただきます!』
ここまでくるともう軍隊のような気がしなくもなくもない。
「私が!」
「いや俺が!」
「いいえ、わたくしがっ!」
どうしても生徒会の面々とお近づきになりたい方々によって乱闘騒ぎになりそうなところを風夜先輩がうまく嗜める。
「皆さんが協力してくれるとあっては心強いですね。協力してくれる方は来週のはじめに講堂にてやっていただきたいことを説明するので放課後講堂までよろしくお願いします。
また運営だけでなく体育の部の参加者も集めていますのでそちらも是非」
一呼吸置いて、思い出したような仕草をする。
他の人の目には自然に映るのだろうが僕から見た様子では芝居がかっているようにしか感じない。
「あぁ、こちらのお手伝いも出来ればやっていただきたいですが皆さんのクラスの方も疎かにならないよう気をつけてください。とても期待してます」
あんなに無表情でありながらも人の使い方は心得ているのが風夜先輩だ。
ちゃっかりクラスの出し物も手を抜くなよ、と釘を刺しながら士気を上げている。
「あの風夜様が期待してくださった!」
「絶対に成功させるぞ!!」
「期待しています」の一言でここまで舞い上がれるこの人たちはなんだか人生が幸せそうだなと思ったり。
「華道書記、帰りますよ」
ふと目の前から声がかけられる。
風夜先輩の一声に舞い上がった信奉者の方々はそのままぼぉっと宙を見てそれぞれが妄想の世界に旅立っているようだった。
改めて思うけれどこの空間怖すぎる。
そんなこんなで人の波を抜けられた風夜先輩に声をかけられ、教室を去った。
* * *
「おい華道この野郎」
背後に気配を感じると同時に死を覚悟する。殺気立つ一条先輩から耳を掴もうと伸ばされた手を間一髪で避けた。
風夜先輩に止めてくれと頼もうとしてその姿はかなり前方に見えることに気づく。
「どうにかする手立てなんてないんだからしょうがないじゃないですか」
「どうにかしろよ」
暴論である。
まぁ半分は、というか八割はやりたくないから免罪符につかった言葉だが手立てがないものをどうにかしろとは本当に生徒会の先輩だろうかと思う。
「……本当に生徒会の人なんでしょうか」
「馬鹿、そんなこと俺が一番聞きてぇ」
「あぁ、たしか学園長からの生徒会の打診を一条先輩には伝えずに家の方が勝手に了承してたんでしたっけ」
この件についても心底可哀想に……と思う。
ただ自分の意思ではない生徒会入りだったがそれでも仕事を律儀にこなしているところはやっぱり心根の真面目さが垣間見える。
「僕らは学校入ったときに意思の確認も何もなく当たり前のように生徒会に入ることが決まってましたから……」
「まぁ実際生徒会は学園長のお気に入り箱だからな」
いい言葉ではないが一条先輩の言葉が実際正しいため否定はできない。
そう、れいと僕が生徒会に入ることになったのもその辺りの思惑が絡んでいる。
国の推薦によって入った僕らは言ってしまえば国が目をかけている将来有望な魔術師。
そんな僕らを特別だよ〜、学校も目をかけてますよ〜と主張したいがための生徒会入り。
もともと生徒会なんて柄じゃないのに、入ることが確定していたれいの心情は複雑だっただろうなと思う。
「だからといって急に生徒会に入れたら他の生徒がどう反応するかなんて目に見えてるだろうに」
「あー。まぁみんなの反応はよくなかったですね」
それも仕方ないとは思う。
なんにせよ急に編入してきた平民が憧れの席である生徒会役員の席についたのだ。
明らかに妬むもの、遠巻きに好奇の眼差しを向けるもの、関わらんと避けるものなど反応は多様ではあったものの好意的な反応は少なかった。
実際今でも壁はある。
「まぁでもお前らもよく続けてるよな。やろうと思えば何処かのタイミングで抜けられたんじゃね?」
「それはただ単純に仕事を投げ出していいものかっていう責任感と――」
『――目の前にあることをとりあえず、頑張ってみたいんです』
幼馴染の声と、記憶が重なる。
「責任感と……?」
「――すみません。やっぱりなんでもないです」
にへら、と不恰好に笑ってそう言った。なんだよと、訝しげにいう一条先輩をあしらいながら、また僕は一歩生徒会室へ歩みを進める。
自分の心に疎い幼馴染のささやかな願いくらい大切にしたいと、保護者 兼 幼馴染は思うのだ。
学園長は本当なら一番家柄のいい一条悠里を会長にしたかったけれど流石にアレを会長にするまでの勇気はなかった。
会長にしたら多分色々まずい。




