十一話 風夜教
「月乃くん、早速だけど必要備品メモしてって!」
「わかりました!」
「一条先輩、生徒会室前に置く机はどこから持ってきますか?」
「隣の資料室のを使え!」
「了解しました!」
「準備が少なそうなクラスは……」
放課後になり、生徒会の時間になるとそれはそれは大忙しだった。
備品発注グループは必要備品のリストアップのため校舎内を回ったり確認をしたり。
参加者グループは参加希望箱設置につき紙を持ってきたり、机の確認をしたり。
人手確保の風夜先輩は人手がもらえそうなクラスを探し、あたってみたり。
とりあえず大忙しという他なかった。
「月乃くんのクラスは何やることになったの?」
私、月乃玲明は倉庫に出向きリストアップ作業をしている最中、峰先輩からそう話しかけられた。
「劇をやることになりました。峰先輩の方は?」
「バザールだよ。僕は当日店に立って売る役になった。他のみんなは菓子作りとかするみたいだけどね」
先輩の顔はこちらからは見えなかったが声は無機質だった。
「先輩も、菓子作り……したかったですか?」
この国や他の西の国も料理は身分の低い女性がするものとされる。
まだ学生となれば下位貴族の男子生徒や、女子生徒の菓子作りは許容範囲だろうが高位の貴族の子息であり、男性である峰先輩ともなれば周りに止められるのが普通だろう。
「そう言うわけでもないさ」
明るい声で言った峰先輩の顔はやはりこちらからでは見えない。
「……月乃くんは菓子作りやりたかったって言ったらなんて言ったんだい?」
「別になんとも」
ふはっと吹き出した峰先輩はようやくこちらを向いた。気のせいかもしれないくらいほのかにだがどこか寂しげな気がした。
「男性らしくないからやるなとは言わないんだね」
「えぇ。美味しいものはみんな美味しいですし自分の手でそれを作り出せるなんて凄いじゃないですか」
私には男性らしく、女性らしくがわからなかった。
のあと食べたパンケーキのように美味しいものは美味しい。記憶があろうがなかろうがきっとあのパンケーキは美味しいままだ。
美味しいものを好いて、作り出せる手は素晴らしいと言う他ないではないか。それこそ味覚なんて男性にも女性にもあるのだから。
「……世の中みんな月乃くんみたいな人だったら世界は平和なんだろうね」
「世界の普通と私がずれていることは自覚してますよ」
そうだろうね、と言う峰先輩の琥珀色の双眸がすうっと細まるのが分かった。
その目が見つめるのはどこなのだろうか。
「世界がみんな月乃くんみたいなんて馬鹿らしい夢だ……でも――
きっと幸せで楽しい馬鹿な夢だろうね」
何を思い、何を見つめながら言ったのかわからなかった。
その言葉には何も返せないまま私たちは黙々と作業を続けた。
* * *
「一条先輩ー!机設置するので手を貸してください!」
「わかった、今行く」
僕、華道のあは生徒会の仕事で一条先輩とともに作業をしていた。
「持ち上げるぞ、せーの!」
長方形の長机の脚をそれぞれ二本ずつ持ち、上に上げる。そこそこ思いつく絵で、男手二つでやっと持ち上げられた。
資料室は生徒会のすぐ隣にあるためさっと運んですぐさま僕らの役割は終わった。
「……とりあえず運べたし今できることはこれくらいだな」
「どっちのチームに合流しますか?」
「会長の方は一人しかいねぇしそっち手伝うか」
行動方針を定め、風夜先輩が向かうと言っていた教室へ廊下を歩む。
「華道、お前んとこのクラスは何やんだ?」
「劇です」
「何の劇だ?」
「メルトリックハーモニーをやることになりました」
「メルトリックハーモニーか」
一条先輩は少し意外だという顔をした。
「あれ、学園祭の演劇でやるとなるとかなり難しそうだな」
「でも有名で、何より素敵じゃないですか」
「確かにな」
あの一条先輩と劇なんてお上品なものの話をするのはなんだか違和感を感じる気がしてしまうが思い返すと一条先輩は六家の出。
観劇などお上品な娯楽も経験があるのだろう。
「一条先輩のところは?」
「わたあめ屋」
「わたあめ屋……?」
聞いたことのない単語に首を傾げる。わたあめとはどういうものなのだろうか。
「うちの管轄の里の祭りなんかで出る屋台なんだが砂糖を溶かしてそれを高速で回しながら冷やしてくと繊細な糸みたいになんだよ。
それを箸とか棒に巻き付けてくと不思議な食感の菓子ができる」
「へぇ〜」
こういうところにこの国の文化の違いを感じさせられる。
このレティア国は元はいくつか別の文化を持ち、暮らしていた里の集合体らしく西の国という体裁故に首都ユールは西洋風で統一されているがレティア国内には和風と呼ばれる文化を持つ里もあるのだとか。
なんでも名字、名前というありふれたものは東の国で使われる和名だし、箸も東洋文化らしいが普通に浸透している。
自分達はそうも感じないが側から見ると東洋の面も西洋の面ももったなんとも不思議な大国というのがレティア国の立ち位置である。
全くの余談だが国名がレティア国という西洋風の名前なのは他の西からの圧力があったからとか。
とは言ってもレティア国も大国なので首都と国名だけ変えて人名については黙らせたらしい。
「一条家管轄の里ってどんな感じなんですか?」
「んー、着物って呼ばれる動きにくい服がある」
「???」
「こっちには海がないからできないけど同じような東の文化でやってる三文は魚捌いて生で食ったりする」
「???」
思ったより文化の違いが大きくてよくわからないところが多かった。
ありきたりながら世界って広いんだなとか、僕らにとって全ての世界であるユールなんて一角にすぎないんだな、と思い知らされた。
いつか一条家の治める里も見に行ってみたいと思った。
「にしてもわたあめって菓子なんですよね?よく作るの止められませんでしたね」
「もちろん止められた」
「止められたんですか!?」
いや、この国の常識を考えたら一条先輩のような立場は余計言われるだろうとは思った。
「どうやって呑ませたんですか……?」
「……拳で?」
脅しに行く姿が浮かんできた時点でもうダメだ。
無駄に顔も頭も家柄もいい不良に脅された人には黙祷を捧げておく。
「さて――そろそろ着くか」
目的の教室付近までくると放課後というのにやたらとざわざわした空気であることに気づく。
その声はなんとなく同じ名を発していることに気がつく。
「凛様!」
「風夜お姉様!」
「風夜様〜!!」
教室前から見えた光景は、教室の中心に立つ風夜先輩とその周りを囲み、風夜先輩を崇める女子生徒や遠巻きに頰を紅潮させながら見ている男子生徒が多数――というなんとも異様な空間だった。
その光景に思わず発する言葉は――
「宗教?」
その一言だけだった。
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