七話 メルトリックハーモニー
「お騒がせしましたーっ!!」
一条先輩と峰先輩がお見舞いに行ってくれた翌日、いつものように女子寮を出ていくと出会って早々幼馴染、華道のあに頭を下げられた。
「良くなりましたか?」
「見ての通りぴんぴんだよ!というか本当に昨日はお騒がせしました……」
「大丈夫ですよ。良くなったならなによりです」
そう話しながら校舎へと向かう道のりの中、のあの存在感をひしひしと感じた。
ちょっとのあが高いくらいの同じ目線、並んで歩くこの距離が私は心地よかった。
「今日も学級会議あるってね」
「そうなんですか。……今日は何を話し合うのでしょう?」
「うーん。演目とか?」
「演目ですか。毎年どんな内容をやるのか想像がつかないので興味があります」
演劇という名前や内容は知っていれど演目は多岐にわたる。
ホラーなのかアクションなのかなんなのか。この学園ではどんな演劇が行われるのか興味深いところである。
「去年を知らないからなんとも言えないけどどんなのやるんだろうね?」
「そうですね。ちょっと楽しみです」
そう言いながら今日もまた、のあと共に教室の扉をくぐり抜けていった。
* * *
「では今日は演目について話し合いたいと思います。まずはどのようなジャンルがいいと思いますか?」
朝の挨拶の時間も終え、皆が席に着いたところで学級役員からの呼びかけがあった。
「予想あたったね」
「そうですね」
そうこうしているうちに学級会議が始まり出す。
「恋愛の劇がいいと思いますわ」
「賛成ですわ!」
学級会議が始まってそうそう恋愛がいいと「ですわ」口調のお嬢様方が主張し出す。
ですわ口調を聞いてやっぱり貴族のお嬢様方が集う学園なんだなと再認識すると共に貴族のお嬢様は恋愛が好きなんだなーと思う。
「えー、他に案は?」
学級役員は問いかけたが他の皆は令嬢たちの気迫に押されたか、それでいいと思ってるらしくすんなり恋愛に決まった。
「演目は……すぐに案を出せる人がいらっしゃれは挙手を」
しーんと静まり返ったように思えたが一言、ポツリと呟かれる声があった。
「……メルトリックハーモニー」
本人も思わず口に出してしまったらしくあっ、と声を上げた。
――その声は、隣に座るのあからだった。
「……僕、演劇はあまり見ないですけどメルトリックハーモニーだけ見たことがあって。凄く素敵だったんです」
私はどんな内容なのだろう?と気になりながらも注目の渦中にいるのあには聞くことができずにきょろきょろあたりに視線を向けた。
皆の顔は疑問ではなくあぁ……という納得のような理解した表情だ。
「メルトリックハーモニーについて、言わずと知れた有名な劇ですので知ってる方も多いと思いますが改めて確認しましょう」
『とある国に十六になる上位貴族の姫、メリア姫がいた。
姫には幼い頃からの許嫁でもうじき結婚も決まっている隣国の王子、ルト王子もいた。
王子と姫は愛し合い、お互いのことを大切に思っていた。
――だが、姫には秘密があった。
姫はもうずっと前から不治の病に侵され半年後には死ぬことが決まっていた。
姫も、両親も半年後には死に、王子との結婚が叶わないことを知りながら表面を取り繕って婚約を続けた。
いざとなったら王子から婚約を破棄してもらい、姫が泥を被り、死ぬことを覚悟しながら。
姫は隠して、隠して、隠したがある日、王子はひょんなことから姫の日記を見て余命のことを知ってしまう。
王子に隠し事を知られてしまった姫は王子と会うことを拒み部屋に篭る。
姫の余命を人伝に聞いた王子の両親、王と王妃は早速、婚約破棄をして新しい婚約者候補を見繕い出す。
姫と王子の会えない日は長く続き、とうとう姫の余命は一ヶ月となった。
姫の体は思うように動かなくなり寝台に寝たきりの日も多くなった。
病気で死ぬくらいなら王子と来世に期待して身を投げたいと願う姫を王子がさらった。最後の逃避行として街を巡り、攫われた姫と王子は永遠の愛を誓って街のはずれの崖から海へ身を投げた。
泡となった二人は引き裂くことのできない愛で今も結ばれている』
「……わたくしはメルトリックハーモニー、いいと思いますわ」
「……メルトリックハーモニー、いいよな。人物の心情描写が繊細で」
「賛成」
メルトリックハーモニーはかなり人気のある劇のようで次々と賛成の声が上がる。
私も反対する理由はないし賛成だ。
「では演目はメルトリックハーモニーで決定します」
ひと通り意見を聞き、反対の声がなかったことを確認した学級役員はそう言って学級会議を締めくくり、二回目の学級会議はすんなりと終わった。
* * *
「のあが提案するなんて意外でした」
学級会議を終え、次の授業の準備をしながらのあにそう話しかけた。
「僕も言うつもりなかったんだけどねー。なんかいつのまにか呟いてたみたいで」
「メルトリックハーモニーってどこで見たんですか?」
これは純粋な疑問だった。
観劇というのは基本的には貴族が好むものであって今までの生い立ちを聞く限り観劇する機会があるようには思わなかったのだ。
「……ずーっと昔、流行りの劇を試しに見てみようっていって見に行ったことがあったんだ。そこで見たのがメルトリックハーモニー。まぁ、ひょんなことから二回見たことがあるんだけどね」
蒼天の双眸を細め、どこか遠くを見たようなのは昔を懐かしんでいるのだろうか。
「どんな感じだったんですか?」
「綺麗だったよ。病気を隠している罪悪感とか、悲しさとか、苦しさとか心情が痛いほど伝わってきたんだ。
……うん、今思い返してもやっぱりすごかったなって思う」
ぼんやりと思い出しながら当時の心情を語るのあは、表面なら、楽しそうにも見える。……ただ、どこか寂しそうで悲しそうにも見えたのはメルトリックハーモニーの劇の内容によるものもあるのだろうか。
しかし、どんな感情であれ、のあにとって大切な思い出になっている劇なことに変わりはない。
(折角の劇。絶対に成功させよう)
思い出にない、新たな出来事に向けて、私は気合いを入れ直した。




