六話 自覚しながら言ってくるこの不良だれかどうにかしてください(泣)
僕、峰叶斗は男子寮の廊下を歩きながら、隣を歩く一条悠里に話しかけられていた。
「で、思惑は?」
「悠里くん、かなり失礼なこと自覚してる?」
多分自覚はしてる。していながら言ってくるのだからタチが悪いったらありゃしない。
……というか前にこのやりとり悠里くんと華道くんでやってたような。
「思惑なんてないよ」
「信じると思うか?」
「共犯者やってたんだから。一回くらい助けてあげてもいいかと思って」
「共犯者、ねぇ……」
悠里くんがそう呟きながら目を細めて思い浮かべるのはつい最近あった留紀くんとの喧嘩事件だろう。
「僕にだって仲間意識くらいあるよ」
「仲間意識なんてお前が一番嫌いな言葉じゃねぇか?」
全く、悠里くんはいつも変なところで僕のことをよく理解してる。
返せる言葉もなく無言が続いた先に目当ての部屋の扉があった。
扉をたたき、声をかける。
「華道くん。いるかい?」
「はぃ……」
弱々しい声と共に扉が開く。
本来、寮は二人一部屋が基本だが学園に沢山の寄付をした上位の家や成績優秀なものには一人一部屋与えられる。
華道くんは、国から推薦を受けて入るだけあって後者に該当するほどなかなか成績優秀なようだ。
「……おぅ、なんともひでぇ格好だな」
悠里くんが呟いたとおり出てきた華道くんの姿はなんともひどいものだった。
ひょっこりと覗いた顔はどこかぼんやりしていて目は虚ろ。着れればなんでもいいと言わんばかりにシャツと簡単なズボンの上に学校配布の普段使い用ローブを引っ掛けている。
何よりちらりと覗く手や顔が火照っており遠目から見ても熱を感じさせた。
「なんのようですかぁ……?」
立ってるのも辛いと言わんばかりの華道くんにとりあえず中に上げてもらった。華道くんはとりあえずお茶をだそうとしていたが悠里くんに容赦なく寝台に叩き込まれた。
今回は悠里くんが正しい。
「魔力欠乏症で熱ってあまり聞かねぇが会長から魔力欠乏症になると属性の見境なく魔力を取り込み熱が出る事例があるって聞いたもんでなもしかするとそれじゃねぇかと思って」
「解決法は……」
聞いていいかどうか悩みながら華道くんは声を発した。多分これはこちらの思惑を探ってる気がする。
信頼ないなぁとつくづく思う。
「そのために僕が来たんだよ。華道くんの魔力状態に限定して僕の能力、「再生」すれば万全な状態にできるはず」
やっぱり、なんでまた……と探るような視線を向ける。華道くん、月乃くんの前ではあんなに普通に振る舞って隠そうとするのに月乃くんがいなくなると途端に繕わなくなる。
「共犯者のよしみだと思ってよ。僕らも華道くんが復活してくれないと仕事が増えて困る」
「……今回ほんとにしんどいので素直にお願いさせてもらいます」
あの華道くんが簡単に折れるあたり相当しんどいんだろうなと思う。
そう言っていいかはわからないがとりあえず後輩が頼ってくれたのだ、期待に応えよう。
寝台に横たわる華道くんの真上に手をかざす。
「往古来今、時構わず返り咲け――狂い咲きの宴」
かざした手からポトリと光の雫が生み出され、華道くんの胸元に落ちると花が咲くかのように光が舞う。
パッと花開いたような光は次第に薄まりながら収束し、消えてなくなった。
「すごく、体が軽いです。上級魔術……すごいですね」
魔術には分類がある。結界術は例外なため除くとすると分類は四つ。
一つ目は下級魔術。
詠唱も二文字や多くて四文字、慣れたものならば無詠唱でも行使できる魔術。
下級魔術の特徴は能力に関わらず属性が合えば皆が使用できる魔術だ。
二つ目は中級魔術。
これも詠唱は長くて八文字と大して長くない。
下級魔術と基本は同じだが威力はこちらの方が上だ。
三つ目は準上級魔術。
ここから難易度は難易度は跳ね上がる。
血族や似た系統の能力を持つものだけが使えるような魔術。詠唱は十文字を超えることが多い。
四つ目は上級魔術。
これはその能力を持つものにしか使えない、いわば個人個人の必殺技ともいえる。
詠唱も自分で編み出さなくてはならず手間も、それに比例する威力も他の追随を許さない。
「編み出すのはちょっと苦労したねー」
上級魔術の場合、仕組みから詠唱まで自分で組み立てなくてはいけないためかなりの労力と計算が必要になる。
自分で編み上げるというと月乃くんは毎回毎回仕組みを考えて魔術を組み立てているが言葉にすると、毎度上級魔術を編み上げてることになる。……あれはさすがにちょっとおかしいので例外としておこう。
自分で魔術を組み立てる中でも詠唱は大事な役目を担う。魔術を編む際は能力によってできる効果を考え、それをイメージすることが大切なのだ。
詠唱にはそのイメージを確かにする役割がある。
上位の魔術になればなるほど効果が複雑でイメージがしにくくなる。そのため上位の魔術の詠唱は長い。
文の内容が分かりにくくはなるが古語を使ったり熟語を入れた方が威力が高まったりするとも言われる。詠唱はなんとも奥が深い分野だ。
「さっきまでもやもやしてたようなつかえが取れました。峰先輩、一条先輩、ありがとうございました」
華道くんは寝台の上ではあるが体を起こし、律儀にこちらに向き直って礼をした。
「良くなったようで何よりだよ。……君の幼馴染くんの焦りよう、目も当てられなかったからね。良くなったと聞いたらきっと喜ぶ」
「あー……れいには心配かけちゃったかもしれませんね」
「病人の部屋に長居するのも申し訳ないし、そろそろ行くぞ」
壁によりかかり、腕を組んで様子を見ていた悠里くんがそう言った。
良くはなったようだがまださっきまで体調不良だったのだ。寝てなくてはいけない。
「じゃあ、僕らは行くから。お大事に」
「ありがとうございます」
扉を開け、外に出る。ぱたんと扉によって部屋とこの空間が区切られたのを感じるとまた悠里くんが話しかけてくる。
「上級魔術まで使ってやるなんて本当お前らしくない」
「まぁ、僕でも珍しいと思ってるよ」
でもなんだろう。やっぱり後輩というものに少しは愛着があるのかもしれない、と二人の後輩を思い浮かべながら悠里くんと廊下を歩いた。




