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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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三話 ほのぼのした日(?)


学級会議を終え、魔術練習場に向かうための準備をする。次の授業は実戦魔術学であり今日は結界の実戦をするらしかった。


「えー、ではまず結界のおさらいから。結界とは主に外界と内界を作る魔力の壁であり能力の内容に関わらず能力を持つものなら練習で大体の人は貼ることができるようになります」


先生が目の前に手をかざし、「普通結界、構築」と唱えると手をかざしていたところから波紋のように魔力が広がりわずかに水色を帯びた半透明の半球体は先生を覆い、先生は見えなくなった。

半透明で奥の景色は見えるというのに中にいる先生は見えないというのがこれまた不思議だ。


「これがまず基本の結界。外界と内界に分ける結界です。外界から内界にはある特定の条件を満たすか、特定の行動を起こすと入れるように設定されています。この出入りの条件はちゃんとつけなくては外界内界の区別がなく、ただ半透明のすり抜けられる壁じゃない壁ができるので気をつけてください」


そう言って結界を解除し、先生は出てきた。

一通り説明が済んだところで開始の合図が告げられ、各々散らばった生徒たちも、普通結界の練習を始める。

私は結界をいじったことがないためさっきまで少し不安だったがふと気づいた。私の隣には大先生がいるではないか。


「のあ先生のあ先生」

「急にどしたの?」

「のあ先生は結界術どれくらい得意ですか?」

「魔術の中でかなり得意な部類だけど……」

「教えてくれないでしょうか」


のあが丸い目をさらにまんまるくして驚く。

そんなに変なこといっただろうか。


「れいに教えるって変な感じがするなぁー。だってれいってばなんでも出来ちゃうんだもん。……でもそっか、たまにはそういうのも楽しそう」


くるりとローブを翻し、人の少ない空いた場所へと向かうのあを追いかけながら進む。


「のあ先生の簡単授業そのニ、結界術について〜」


上機嫌に歌うように告げたのあはなんだか楽しそうだ。


「普通結界についての説明はさっきされたから詳しくはしないよ。結界術は比較的簡単な魔術だからそこまで失敗もしないはず。

さっき見たからイメージしやすいと思うんだけど頭の中でさっきの光景を思い浮かべながら「普通結界、構築」って詠唱してみて」


のあ先生に言われた通り、頭の中にさっきの光景を思い浮かべる。


「――普通結界、構築」


先生と同じように目の前に手をかざし、脳内で外界と内界を区切る条件を設定する。

条件が固まり、次は何をすれば――と迷い始めたその時、手をかざしていた場所からとくとくと赤色の波紋が広がり、結界らしきものが構築された。

が意識は全く別の方へ向かっていた。

――赤色?


「のあ、さっき先生は水色だったのに私のは赤色なのですが大丈夫でしょうか……?」

「あぁ!ごめん説明してなかったね」


結界の色に違和感を覚えた私はとりあえず結界内から出てのあのところまで戻った。


「この世界の魔力には六種類の属性があることはだいぶ前の授業で言ってたと思うけど覚えてる?」

「覚えてます。たしか水、火、風、地、光、闇……でしたよね」

「そうそう」


のあが肯定の意を示しながら適当な木の棒で地面につらつら「水、火、風、地、光、闇」と書いた。


「それぞれの魔力には僅かに色があってね……」


そう言うとのあは手を広げ、目を瞑る。

すると数秒経った頃、広げた手から薄く緑がかったもやが出る。

キラキラしていて、触れるようで触れない不思議なもやだ。


「これが魔力。僕の場合は風の属性だから薄い緑だね」


そう言って風のところに緑と記した。

続けて手を動かしながらまたのあは口を開く。


「水は青、火は赤、風は緑、地は黄土色、光は黄色、闇は紫」

「さっきの結界は赤色……ってことは火属性……?」


前にのあから知らされた属性は風ではなかっただろうかと、疑問に思いつつ問いかけてみる。


「れいは風の方が使いやすいって言ってたから風の方を教えたけどれいは火属性と風属性、どちらも使えるんだよ」

「そうなんですね」


一つの属性しか使えないという固定概念があったが二つ使えることもあるという新事実には驚いた。

そもそも魔力と人体の仕組みってどうなっているのだろうか……?


「ちょっとした疑問なのですが二種類の属性が使えるとか、属性と人体や物の構築ってどういう関わりになってるんですか?」

「ちょっとした疑問ではないねってツッコミは置いておくとして……難しい話だから全てわかるってわけじゃないけどちょっとなら答えられるかも。けどれいの考察先に聞いていい?」


今まで習ったことなどを軽く交えながら少し思案する。


「そう……ですね。私たちの体や物もすべて魔力でできているけれど形、色、性質などなど違うということはいろんな属性の魔力が混ざったり並んでできているのでしょうか?」


少し置いてにこりとしたのあは言う。


「さすが!ほぼ正解。補足だけするね」

「それぞれの物質は六属性の魔力の並びや量によって決まっててそれを魔素配列って言ったりする。

その中の人体はちょっと特別で皮膚や臓器など魔素配列が決まっていて人類のみんなが同じところもあるけれど人体を形作る以上の余分な魔力の取り込みは魔力の属性を選んで取り込むんだって!」


だんだん饒舌になり出したのあはつづけて言う。


「僕の場合は風属性を選んで取り込んでるっぽくてれいは火と風属性を取り込んでるっぽいんだよね

ただ疑問になってくるのが六属性全て取り込める人で……なかなかいないんだけどこの国の歴代王族の方々は六属性使えることも多くて、体の中に六属性全ての魔力があるわけだけど何かの拍子にくっついて体内で何かの物質になってしまうことがないのか疑問で疑問で仕方なくって!

でも今までそんな事例見たことないし何かが働いてそうなってるんだとしたらすっごく興味深い――」


突然固まったのあはこちらを向いたまま固まる。


「……ごめん。我に返った」


手で顔を覆いつくすのあの顔は耳まで真っ赤になっている。


「全然大丈夫ですよ。興味深い内容でした。……のあはその分野が好きなんですか?」


ちょっとだけ目をキラキラさせて年相応の夢見る少年の顔でのあはつぶやく。


「うん……好き、かな。人体と魔力の関係の分野が好き。これは何か理由でもあるわけじゃなくて、本当に単なる僕の興味を惹かれるからって理由だけど」


そう、ほぅっと呟く幼馴染はいつも前を歩いて引っ張って行ってくれる、明るくはっちゃけていながらもどこか大人びた空気のある幼馴染じゃなくてただただ夢に恋焦がれる少年の顔。そしてのあは、そんな調子のまま言葉を続けていた。


「出来ることならば僕も将来…………」


しかし、その言葉は、不意に途切れる。


「……のあ?」

「あぁ、いや。なんでもないんだ。ごめんね」


さっきの顔は夢だったのかと思うほど、残滓を微塵も残さず、のあは表情を切り替えていた。



「さて、時間潰しちゃったけどそろそろ結界の練習に戻らないとね」


明らかに話題を逸らしてはぐらかそうとしているのが、私にもわかるような雑な切り替え方だった。それほどまでに、のあの心が平常でなくなる何かがあったのだろう。


今なら上手く突き崩せば、のあが何を思ったのか聞き出せた気がする、けれど。


「のあ、私は……」


私は、曖昧なまま、自分がそれを聞きたいのか、聞いてもいいのか、よくわからなくなってしまう。それでも、今、何かを話したいような気がして私は口を開く――が、それと同時に。


「ーーーー」


弾けるようなくぐもった音と共に奥の方から灰色の煙が出てくる。


『……』

「……ごめん、そういえば言ってなかったけど火属性の魔力は変に刺激を加えたりするとすぐ発火するんだった。……くれぐれも気をつけて」


あたりに飛び火し始めた様子を見てのあも鎮火に協力しに駆け出していく。


呆然としすぎて固まっていた私は、我に返ると自分が作った結界から無言で十歩離れ、風属性をマスターしてから火属性を使おうと密かに決意した。


そして、そんな決意と引き換えに、先程紡がれようとしていた言葉は、私の頭から消し去られてしまった。



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