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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
三章 学園祭準備編
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二話 なんなんだこの光景


「さてさて、どう説得しようかなー」


なんとも楽しそうに朝の廊下を歩くのは私、月乃玲明の幼馴染、華道のあだ。


「どうしたら説得できるんでしょうね……?」

「にしても鍵問題やら喧嘩騒動やらハラハラした状態で切羽詰まって悩むこと多かったから、こうやってなんでもないことに悩めるのが幸せ……」


そう呟くのあの声音はしみじみとしている。

私たちが今、頭を悩ますのは昨日の生徒会にて話題に上がった体育の部のことについてだ。


「団結力を高めるってこの前問題になったあの惨状をどうにかするのにもちょっといいんじゃないかなと思うんだ」


何を、と聞くまでもなくのあが指すのはこの前見た虐めの惨状。

出来ることならば生徒会として虐めはいけませんと大々的に動きたいが社会の風潮的にそれは難しい。それならばせめても――というちょっとした希望もあっての賛成なのだろう。


ただ少しだけ。ふとした時に思うのだ。


「私……異質ですよね」


思わず口から溢れてしまったことに気づき私はぴたりと足を止めた。軽やかな足取りで先をいっていたのあも、それに気づくと足を止め、振り返る。


「れい……?」

「周りの人がみんなそうして従っている風潮なのだから私もそう付き従うのが「正解」で「普通」なんでしょう。私は記憶やらなんやら自分の問題もありますがこの問題もどうにかしたいと思ってしまう欲張りさんなんです」


いつもどういう表情したらいいのか迷って上手く表情を作ることができない自分だが、こんな情けない言葉を吐いている間だけはせめて不安にさせないようにちょっとだけ口の端を上げて不恰好に笑ってみる。


「欲張りさんでもいいよ。きっと。それに救われる人がいるから。……それだけは覚えておいて」


誰かに言う――というより噛み締めるような、自分に言い聞かせるような言葉は聞こえたか、聞こえないか定かではないまま宙に溶けていった。


* * *


「――と、言う訳で今年の学園祭でやりたいことをどんどん上げていってください」


教室につき、毎朝恒例朝の挨拶の時間を終え、授業開始時刻と同時に始まったのは学級会議の時間だった。

学級に一名配置される学級長を、中心に学園祭に向けた催し物の内容を相談するようだった。


学級の催しものの開催場所は基本的に各教室があてがわれるようだが申請すれば大ホールなども借り、演劇も可能とのことで演劇も一定数人気があるらしい。

各教室でやる場合の人気は品物を作り売り買いするバザールや市街のカフェなど商店を真似たものが人気らしかった。

基本的に茶や菓子は使用人に用意させるものだが一般教養として貴族は大体茶の用意の仕方も嗜むためカフェの模擬店などで、発揮できるところがあると楽しいのだとか。

普段は使用人に任せ、手を汚すことのないお貴族様達は自分で何かをすることが非常に目新しく、学園祭は人気の行事らしかった。


そしてその人気にならい、このクラスでもいくつか定番らしい案が出た。

第一に前述したようなカフェ。

ルトリア学園の制服はそれなりにいい生地を使い、見栄えがするようデザインされているのでエプロンを組み合わせるだけでカフェの制服らしくでき、予算が浮くことが大きな利点だった。

第二に演劇。

舞台監督やキャスト、衣装の用意など手間は多いものの見栄えや貴族らしさ、壮大さはなかなかなのでやはり人気がある。

第三に美術館。

一人一作絵を書いたり共作をしたり作品を作るもの。芸術というのはなかなかに体裁がいいらしく来賓や生徒の保護者達からは一定の高評価がある。


生徒たちからすると一、二番目の二つのどちらかが楽しくていいが役員達は体裁を気にして三番に持っていこうとする様子があった。

生徒側と役員側でやんややんや議論しているうちに私は一人ぐるぐる色々なことについて思考を巡らせる。


一条先輩と風夜先輩を説得する方法、学園祭は何がやりたいかなどなど……と、考え出したとき生徒側の代表と役員側の代表がいい合っているのを眺めるのにも飽きたのか隣ののあがひそひそと話しかけてきた。


「ねぇ、れい。れいは何がやりたい?」

「うーん。これといった希望もありませんが強いて言えば演劇、でしょうか」

「演劇……。ちょっと意外かも」


そう呟くのあは会話こそ聞いているもののまだ言い合う生徒たちをぼんやり見たまま呟く。


「演劇だったらどんな役割やりたい?」

「小道具作りかもしれません」

「またまた意外」

「その……自分の能力を組み立てる細々した作業、結構楽しかったので」


ルトリア学園など、魔術師の養成機関に通い調べる機会がなければ魔術師の多くは能力を知らずに感覚で魔法を使う。

その点ルトリア学園では能力が現象を起こす、など仕組みは教わるもののやはり倫理的に考え魔術を使うものは少ない。それは考える必要がないから、とも言える。


だがしかし私、月乃玲明の能力は「法」だ。

何をしてはいけない。何をしたら何が起こる。

私の能力はそれら緻密な計算を行い、組み立ててこそ複雑な事象を起こすことが出来る。

ただ本来の人であれば面倒くさいと思うようなその計算も私は割と苦ではなかった。


人の感情にも疎く、自分の感情にも鈍い自覚はある私だがきっとあの感覚は楽しいというものだろうと思う。


「もし演劇になったら小道具作り、できたら嬉しいです」

「そうだね。もし多数決になったら僕も演劇に投票することにする」


とか言っているうちに生徒側代表と役員側代表の話にも決着がついたらしく二人は硬く握手を交わし、周りは目頭を押さえていた。


なんなんだこの光景。


本来余談にすべきではない余談だが激しい言い争いの末に決まったのは満場一致で演劇らしい。

ほっと一息つくような心地……だったのだがやはり目の前の異様な光景に吹き飛ばされた。


本当なんなんだこの光景。





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