一話 あの峰叶斗が呆れた!?(失礼)
秋の冷たい風は吹きながらもぽかぽかとした陽気を感じるある日の昼下がり。
私、月乃玲明と幼馴染、華道のあは生徒会室に向かう廊下を歩く――がその足取りは重い。
「……とりあえず病院の結果は先輩達に報告しないとね」
「そうですね。……とはいえなんて言ったらいいんでしょう」
病院に行くために色々協力していただいた生徒会の先輩達に報告をしないわけにもいかない……が人為的に封じられたようです。とは流石に言いにくい。
「なんて言おうかね……」
「オブラートに包んで魔術の痕跡がありましたとか……」
とかなんとか二人で上手い言葉を探しながら歩くうちに生徒会室の前までたどり着く。
なんだかいつもより重い気がする扉を押した先に広がる光景は――
「だーかーら!反対だっていってるだろ!!」
「でも最近健康にいいってデータも――」
「忙しさが倍になります」
中央の椅子に座り、書類作業をしながらキビキビと答える風夜先輩。
机に座り峰先輩の方にガンを飛ばす一条先輩。
わたわたしながら抗議する峰先輩。
いつもの倍くらいの熱量で、白熱した喧嘩――に近い議論を交わす姿に二人は先程から考えていた報告も忘れ、議論の仲裁に入ったのだった。
* * *
「で、今回はまたなんでそんなに……」
「これだよ」
のあの疑問に対し、ケッと喉を鳴らし不服そうな顔をした一条先輩から一枚の紙が渡される。
「体育の部……?」
そこに書かれた文にはこう書かれていた。
『学園祭に体育の部の設立を希望します。
他国には体育という体を動かす授業があり、その集大成として他国の学校の学園祭では体育祭や体育の部と言った運動を行う催し物があります。
この国の貴族階級の方々に体を動かす習慣はありませんが他国では貴族階級の子女も幼い頃から体を動かす習慣があります。
体を動かすことは健康を保つにも良い行動というデータも最近は出ています。また、体育の部は二から四くらいの組に分け、それぞれの種目で得点を競い合うため学園の団結力も高まるとされております。
以上の点を踏まえて、体育の部の設立を推奨いたします。是非ご検討よろしくお願いします』
さらさらと流れるように書かれた意見文は根拠もしっかりしており説得力もおおいにあった。
――ただ一つの問題を除けば。
「……今話し合うのなかなか遅くないですか?」
今は十月上旬。学園祭は十一月中旬ともう一か月後に差し迫っている。そんな中で新しい催し物を企画するのはなかなか厳しいのではないか。
「……それがな?実は数年前から議論になっていてこれまでも生徒会でも話し合われてはいた。それに加え去年までいた人が一人で非の打ちどころのない完璧な企画書まで作っていったからできなくもねぇんだよ……」
一人で完璧な企画書を作っていったその人は何者だろう。にしても企画書まで作って実現するところを見られなかったことは可哀想と思ったり思わなかったり。
「体育の部について、他国の感じも調べてみたがそこまで必要なものもない。作ったり、組み立てたり、って作業もとくにねぇから発注するとしてもまだ余裕がある。で、議論になったわけだが……」
「……どうしたんですか?」
腕を組んだままそっぽ向き、言葉を濁した一条先輩に問いかける。今聞いた感じだといいことずくめだし開催するべきではないだろうか。
「……俺は反対派だ」
「えぇ?」
思わず、と言ったようにのあも呟く。
今の話を聞いた感じだといいことの方が多いのではないか。
「まず第一にうちの国は貴族が体を動かす文化がない。そんなところに急に体育の部なんてぶち込んでみろ。大批判くらうぞ」
一条先輩の言い分も充分わかるものだ。
学園祭は招待状を取ればどんな人でも来られる。生徒の親をはじめとした国内有数の貴族も来賓としてくるのだ。
運動の文化を受け入れられない貴族からみたら批判されるだろう。
「私も反対派です」
続けて風夜先輩も声を上げた。
「一条先輩と同じ理由もありますが新しい部門の設立ということで準備にはそれなりに人手を割くことでしょう。
企画書に人員の話も書かれてましたが変化があったのでその部分は当てにできない。別の部門の人員をこちらに回しすぎてもあちらの人手が少なくなりますし……」
風夜先輩や一条先輩の言う通り考え出せば考え出すほど現実的に厳しい点が出てくる。と、そこで峰先輩が口を開いた。
「うーん……僕は賛成派。ただ悠里くんたちの言い分も理解できるから試験的って名目で本来より規模縮小して反応を伺ってみたらと思うんだけど」
「確かに、小規模で行えば人員の問題もある程度対処できますし試験的にって話ならちょっと試してみようって思ってくれる人もいたり批判もそこまででもなくなるかもしれないですね……」
峰先輩の提案に少し希望が見え始めた……と思いきや相変わらず一条先輩や風夜先輩の顔は暗い。
「悠里くん、さては運動が面倒くさいとか言いださないよね」
「…………」
あからさまに目を逸らし出す一条先輩。
「凛くんも……とか言い出さないよね?」
「えぇ、断じてそんなことありません。ただこの国にない文化なので体に馴染むかとか体に負担がかかるのではとかそう言った懸念は無きにしも非ずですけど」
一見すると真面目そうなことを言っている……が用は疲れたくないと。
「二人ともそんなんでどうするの……」
あの峰先輩が呆れ出す始末だ。とは言え峰先輩が賛成派というのは少し意外でもある。
案の定のあもそう思ったようで疑問を口に出していた。
「峰先輩が賛成派なのがちょっと意外です」
「そうだった?うちは親が緩くてねー幼い頃は兄妹と一緒にその辺を駆け回ってたから久々にやってみたいなって」
「なんかほほえましい感じのエピソード話されたがはい、そうですかやりましょうなんて言ってやらねーよ」
相変わらず苦々しいようなむっとしたような顔で一条先輩は呟く。一条先輩は白杜先輩のときと同じく頑なだ……だがもう一人、反対勢力に頑なな人物が現れた。
「僕は賛成派です」
何を隠そう声を上げたのはのあだ。
「僕は平民なので小さい頃からその辺の野山を駆け回ったり花畑に行ったり鬼ごっこしたり。体を動かすのが楽しかった思い出があるので……開催できたら楽しいだろうと」
のあは、思い出に浸りながら、意見を述べた。
「興味はあるので私も賛成派で」
「おい会長。保護者が月乃まで巻き込んでつれてったぞ。やべぇこっちが劣勢だ」
「多数決という訳でもないのに何を騒いでいるのですか一条庶務」
しかもちょっと楽しそうなのはなんなんですかと呆れ半分に風夜先輩は呟く。
人数で言うのならこちらの方が多いがあちらには生徒会最高権力の風夜先輩がいる、と一条先輩に毒され考え始める私もすこし楽しみながらやっていることに気づき少しだけ頬が緩まる。
「ちょっと楽しそうだね?」
またやんややんや話し始めた先輩達を横目にひそっとのあが呟いた。
「えぇ、自分でも意外ですが割と楽しいみたいです」
思い出がない私にとって、お祭りのような一層記憶に残るものは惹かれるのか騒がしくも明るい生徒会が楽しいのか、自分でも細かい心のうちはわからぬままだが少しだけ早くなる鼓動を感じながら。
今、学園祭への幕が上がるのを感じた。




