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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
二章 魔術病院編
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十一話 次へ


『……』


私たち、月乃玲明と幼馴染、華道のあの二人は今、生徒会室にて珍妙な面持ちの一条先輩と向き合っていた。


仲良し大作戦の成功を収め、今日からは一条先輩も今まで通り普通に業務出来るかなーとのあと話しながら生徒会室に着いたのはいい。……いいはずだった。


部屋に入るなり先に来ていた一条先輩がこちらに目を向けた。ただ目を逸らしたり時折あーと唸ったり何やら様子が変なのだ。

なんなのだろうとのあと二人して二対一の睨めっこを続けること数分。

やっと謎の沈黙を破る声があった。


「……今度は何ですか」


この生徒会を取りまとめる生徒会長、風夜凛の声だった。


「別に」

「あー凛くん。これね、ただ焦ったりらしくないとこ見せてバツが悪いのと色々な感謝が入り混じって噛み砕けない顔」

「うるせぇ……」


心配しなくていいよーと峰先輩が言えばそうですか、とさほど気にも留めずに事務作業へと移っていった。


「……あの、まぁ、色々ありがとうと思ってよ……」


やっと開いた口から溢れでたのは感謝の意だった。


「全然!……というよりきっかけは僕らなのでお気になさらず」

「僕らというより主に私ですけどね……」


ちゃっかり自分も罪を被ろうとするのあにちょっとだけ不満を覚える。……と、同時にそういう存在が居てくれて救われていることには変わりない。

密かにのあはずるいと思ったり思わなかったり。

すると、はっと思い出したように一条先輩が口を開いた。


「あぁ、事の発端だった病院の件だけど


―― 父親……医院長に自ら会って頼んでくれるらしいぞ」

『えぇっ!?』


思ってもみなかった申し出に私ものあも、後ずさる。

父親との折り合いが悪いことがこの間の事件の中枢だったのでは……?と私ものあも首を傾げる。


「お前らが懸念してることならきっと大丈夫だ。今お前らに出来ることって言ったら今は白杜からの知らせを待つだけだ。これから学園祭準備でも忙しくなるし白杜の方は気にせず生徒会の方頑張っとけ」


そういう一条先輩の顔はやけに晴れ晴れとしている。まぁ、一条先輩が言うのであれば大丈夫なのだろう。


「じゃ、お互い頑張るとしようぜ」

『はい!』


強気に笑う一条先輩に、私たちもつられて力強く返事をした。




今日の生徒会業務も終わり、玲明ものあも凛もさった生徒会室に二人の人影があった。


「へぇ〜留紀くん会いに行くことにしたんだ」


そう呟くのは副会長、峰叶斗。


「今回のすれ違いがいいきっかけになったそうだ。話してみなきゃわからないって」


応える声は庶務、一条悠里。


「まぁ、そういう風にグイグイ行ってなんなら突っ込むくらいの方があいつらしい、し、そういう白杜の方が俺は好きだ」

「へぇ〜」


やけににまにましながら一条悠里を見る峰叶斗に一条悠里は不服そうな顔で言う。


「なんだよ」

「「好き」ねぇ〜」

「アンポンタンっ!!」


そう叫ぶ一条悠里は手で顔を隠すがちらりと見える顔が赤いのは峰叶斗もみてよくわかった。


「何も言わないでおいてあげるよ」

「このクソ野郎」


そう吐き捨てながら顔を仰ぐ一条悠里の顔は相変わらず赤いままだが峰叶斗は見なかったふりをしておいた。

今弄りきって使い切ってしまってはもったいないとほくそ笑むあたり峰叶斗の意地の悪さもなかなかである。


「で、何が聞きたかったんだよ」

「そうそう、玲明くんたちのために手を回す理由、私情って言ってたでしょ?一つは留紀くんのことだとして他はないのかなーって」

「……言わね」

「えーなんで〜」


生徒会室の扉の方へ歩きながら峰叶斗は抗議する。ただ一条悠里の頭の中は「言わない」で統一されてしまっていることなど等に知っているだろう。


(だって――ただ後輩のためになんかしてやれることをなんて俺らしくもない)


抗議する峰叶斗をよそに一条悠里は絶対に話すものかと固く決意しながら生徒会室の扉をくぐり抜けていった。


* * *


レティア国、中央都市ユールのとある屋敷にこつこつと響く足音がある。

長い長い廊下を歩き、最奥にある扉の前で音が止む。


一秒、二秒……一分、五分と間が空いた後覚悟を決めたように息を吐き扉の開く音がする。


「……留紀か」


目の前にいるのは私と同じ茶髪、茶色の目の五十路近い厳かな空気を漂わせる男性――私、白杜留紀の父だ。


「お前が私に会いにくるのは珍しいな」


父の言う通り、数年前から会っていない。それまでも会うとは言っても一、二年に一回のことだ。

私が私の意思で会おうと思ったのはこれが初めてだったかもしれない。ましてや頼み事をするなど少し前なら考えたこともなかった。


「本日はお父様にお願い事があります」

「……聞こう」


一瞬だけ目を伏せるとそう、すぐに返事をした。

茶色の双眸は部屋の明かりを閉じ込め鋭い光を灯している。

その光に怯まないよう、服の裾を握りしめて口を開いた。


「私の知人に記憶を喪失した人物がいます。普通の病院にも行きましたが原因は不明。魔術の関わりがあるのではないかと踏んでいます。

だだその人には魔術病院に見せるだけの資金がありません。た、ただ、将来必ず返せると断言してもいいくらい将来有望な人です。

…………出来れば診察料は将来まとめて返すようにして頂けないでしょうか。

必ず返すことは私が保証します。だから――」

「……その人物は留紀にとってどう言う人物なんだ?」


(……あ)


問いかける父の眼差しは、厳しいながらもこちらを慮る眼差しだ。

私が脅されて言っているのか私の意思なのか気遣ってくれているような……。

その父の眼差しにちゃんと応えよう。そう思い、また口を開く。


「――私にとって恩人です。……大切なことを気付かせてくれました」


一条との喧嘩期間は辛いと思ったことこそあれど大切な時間だったと思っている。

――話さなくてはわからない。

自己完結してしまいがちな私に、大切なことを教えてくれた。一条との時間の大切さも身に染みた。


色々なことをひっくるめて感謝してる。――月乃玲明と華道のあは恩人だ。


「そうか。――わかった。そう出来るように工面しよう。あぁ、もしくは研究生の実習として研究生に見てもらいながら私が監修すれば実質タダで診ることも出来るかもしれない。その辺りも順を追って連絡しよう」


父からの答えと更なる提案に私は目を見開くばかりだ。まさかそこまでしてくれるなんて考えもしなかった。


「……どうしてそこまで」

「不思議なことを聞くね。留紀がお世話になった恩人だというのなら私も恩に報いなくては。だって私は

――留紀の父なのだからね」


ぽろりと目から雫が落ちた。最初から、認めてくれていたのだ。認める、認めないの問題じゃなかった。当たり前のように息をするように娘だと……そう思ってくれていた。


見なかったのは私の方だ。目を逸らして、逸らして、相手の意思なんて確認せずに最悪の想定をして逃げつづけた愚かな人。


――でもそんな私も私だ。


受け入れて、変わるための第一歩。私は父に胸を張って大きく返事をした。


「ありがとう、ございますっ!」


強気な私らしくない涙と震え声のなか発した言葉だったけれど見守る父の眼差しはただ、暖かかった。






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