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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
二章 魔術病院編
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九話 仲直り大作戦プランファイナル


ふわっとした感覚と共にここが生徒会室であることを私、月乃玲明は思い出す。

今のはまるで二人が昔感じたことを含めて体験したような……。


「峰先輩、今のは……」

「ん?あぁ、僕の能力だよ」


のあも気になったようで私より先に問いを投げかけていた。


「僕の能力の一部分なんだけど僕の記憶にある出来事を実際に体験したように再現することができる。人から聞いた話でも詳しく知っていれば今みたいにはっきりと再現できる」

「そうなんですね」

「さてと――」


一度息を吸い込んで峰先輩は言う。


「君たちの知りたかったことは知れた?」

「……ありがとうございました」


全てわかった。白杜先輩の思いも、怒りの理由も。

自分の生き方を肯定して認めて価値を与えてくれたような人に「お前は白杜の娘なのだから交渉してこい」などと言われたとあってはあの怒りも失望ももっとだろう。……まぁ真相は違うのだが。


そう考えたところであれ、と疑問が頭をよぎる。


「あれ、一条先輩の言った言葉の意味って才能なんて関係なく父親に会いに行ってもいいだろって……」

「そう。そこが僕も不可解なところだ」


白杜先輩と父親のいざこざを知っていながら会いに行くことを進めるようないい方をしたのは何故……?

そこで新たな可能性が浮上する。


いい方や家云々を抜きにすれば不仲な父親に会いに行こうと勧めてるのは変わらない。


「ただ父親に会いに行くのを勧められたことに怒ったのだとしたら……」


話し合っても解決にはならないと、言外に滲ませたのを感じ取ったのあが凍りつく。

すると真剣な顔で唸っていた峰先輩が顔を上げた。


「……その問題も含めて本当に一か八かの賭けになる方法なら思いついた」

「それは……?」


峰先輩にしては珍しい自棄とも言えるような、逆にこれしかないと言えるような大胆不敵な笑みで言葉を放つ。


「原点回帰。――二人に話し合ってもらおう」


* * *


同じ生徒会メンバーの峰叶斗から呼び出しを受け俺、一条悠里は校舎裏にある時計塔の下へと向かっていた。


(っつたく変なとこに呼び出しやがって……)


この前も珍しく勉強しようと誘われたかと思えば白杜留紀(あいつ)がいたり、今回も何かしらある――まぁ恐らく例の件だろう。

けど、それでも律儀に呼び出しに答えてしまうあたり認めたくはないが叶斗には甘いのだろう。


(はぁぁぁ。またとあいつ引き合わせようとしてるようなら隙を見て帰るかなー……)


本当に重要な案件だったりするのならすっぽかしてはいけない、と思いつつまた足をすすめる。


第一に何に怒っているのかも、何もかもわからないのだ。

今会ったって何も話せない。話すことなどない。

お節介な後輩たちの気遣いは受け取るがありがた迷惑だ。


「いつか、ちゃんと分かったら話すから……」

「で、そのいつかっていつ来るの?」

「っ!?」


なんてことない呟きに返事が返ってきたことに驚き、声の主を見つめる。


「だいたいわかるために話し合いが必要なんじゃん」


こちらの考えていることなどわかる、というように肩をすくめるのは俺を呼び出した張本人、峰叶斗だ。


「……ほっとけよ」

「悠里くんが誰にも迷惑かけないならね」

「……迷惑?」


迷惑なんてかけただろうかと最近の行動を振り返る。……一通り思い出しても迷惑をかけた記憶などない。


「悠里くんと、留紀くんが喧嘩してると空気が悪いから。二人が仲良く話して笑ってないと僕に迷惑」


なんて暴論だ、と吹き出したくなる。

ただ、そんなこと言われてもはい、仲直りしに行きます。なんて言えやしない。


「……怖いんでしょ」

「……ぁ」


何を、というまでもなく自分に思い浮かぶ節があった。


怖い。あの居心地のいい空間を失うことが怖い。


だから慎重にもなってしまう。失わないように、慎重に丁寧に。……そんなことやっていても一歩進まないと何も変わらないことなどわかっているのに。


「悠里くんはなんやかんやで不器用なんだから。そういうときは頼ればいいのに。――ということで」


叶斗が手を鳴らすとパンと小気味いい音が秋の青空に響き渡った。


「二人だけでじっくり話しておいで」


そう言ってその場を立ち去るとさっきまで叶斗が立っていた場所の向こう側に見覚えのある人物が立っていた。

揺れる長い茶色の髪、同じ学年を表す緑色のローブをなびかせ、立つその人は――


「……白杜」


相手もこちらを見つめている。

ダメだ、今ここでなんて会えない。壊したくない、失いたくない。


やはり前にすると「今はやめておこう」という結論に至る。

叶斗は今回こそ話し合ってほしいようだったけれどやっぱり無理だ。


踵を返してあいつとは反対の方へ戻ろうと歩みを進めた――その時、声が響いた。


「逃がしませんよ――宙をも切り裂き遮断せよ。防御式結界起動!」


「は!?」

「え!?」


いつの間にか時計塔の上にいた二人の人影の内、一人が呪文を唱えた。

すると向こう側にいた白杜留紀を含め、自分達の周りを囲うように半球体の透明な緑の膜が出来上がった。

膜とはいえ、強度はそんな可愛らしいものではなく指で触れるとコツコツという硬い音がした。


防御式結界とはその名の通り防御に使う結界、厳密には物理的な物を通さない結界だ。

基本的には魔術戦において相手の攻撃を防ぐため目の前に平面的な物が張られ、一発防いだら使い捨てにするような。そんな結界。


――しかし、今目の前に貼られた緑の膜はそんな防御式結界を思わぬ形で使ったものだ。


どうにか結界を壊せないかと緑の膜に触り、魔力の流れから解析をかける――と、さらに驚くべき事実を二つ知る。


(この結果、強度がハンパじゃねぇっ!?)


薄い膜のように思われたがこの緑の膜は魔量の密度がありえないくらい高い。

そしてもう一つは――


(次元が、違う……?)


調べたところによるとこの結界はただ張られた結界ではなく張られた空間を切り取り、別空間としている。

先ほどまでいた場所と同じ場所の別次元にいる。そんな空間が、この空間となっている。

つまり何がいいたいかというと――


「この空間を単純に破壊したところで同じ場所には戻れないって訳か……」

「ご明察です」


またただの独り言に誰かの声が介入する。

誰か――お節介な後輩であり犯人の一人でもある、華道の声だった。


「この空間、ただ壊しても元の場所には帰れないので壊すのは諦めてください。先輩なら出来なくもないと思いますけど魔量の消費は洒落になりませんよ」

「で、実質お前しか解けない結界に閉じ込めて……何が望みかは聞くまでもないな」

「察してくれて助かります」

「察しはするけどよ――早く解けつったら?」

「――お断りします」


いつもよりワントーン落とした声で脅しはしてみたものの当の本人は素知らぬ顔で言う。


「じゃあ僕も結界を早く解けるよう早く話付けてくださいね……何げに結界の維持疲れるんですから」


ぷつ、と結界内に響いていた声が切れると結界の静けさを感じ、自分以外の生命が一つしかないことを思い知らされた。


先ほどとさほど変わらない位置で、相変わらずこちらを鋭く見つめる視線――白杜留紀に出来るだけ真っ直ぐ向き合った。




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