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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
二章 魔術病院編
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七話 共犯者


「千」


どおりで気にしなくても済むわけだ、と密かに心の中で納得する。一般人の十倍もあるのなら気にせずともどんどん使っても問題ない。


「やっぱり驚くより納得するあたりれいだねー。千レベルの凄さをわかってないっ!」

「同感ね」


再び言わせていただこう。

 ――私が何をしたというのだ。

ただもう反論は無駄だと理解した。これ以上話が滞らないように続きを促す。


「あぁー、魔力量の説明に時間とられすぎたね。白杜先輩と一条先輩の情報が目的だったのに」

「そうね。時間取りすぎたからここからは簡単に話していくわ。白杜魔術病院医院長の一人娘、白杜留紀様については適応属性地の魔力量二五〇。能力――なし」


能力がない、というところだけミアはやけに重く呟いた。魔力量はニ五〇で中級魔術師レベルもあるし能力がないというのはさほど大きなことでも、問題でもないはず……と頭の中の知識を掘り返す。


「……白杜の家は代々能力を支えに病院を開いてきたわ。そんな中跡取りである一人娘に能力がなかったら――」

「あっ」


ふと思い至ったのは白杜先輩に会いに行ったときに話していた「見向きもされない」という言葉について。白杜先輩が断り出した理由がなんとなく見え始める。


「まぁお察しの通りね。大体能力が発現すると言われる十二才を超えた頃から父親との溝は深まったわ」

「……続けてください」

「さらに、って話をするならその医院長である白杜響和様も王宮官ではなく平民。能力も持たず魔力量もそこまで多くない平民がいたら――」


思い出すのはこれまでの作戦の失敗原因である諍い。あの光景が表す通りこの学校には自分より下とみなした者を虐げるものが多いのだろう。


「一時期白杜のご令嬢も周りから疎まれていたようだけれどあるときからぱったり止むようになるのよねー」

「それはいつですか……?」

「一昨年、一条様と白杜様が高等部に上がって同じクラスになった年よ」

「一昨年……」

「あ、そう言えば」


ミアはハッと思い出したように告げる――その情報が私たちにとって次の道標になるべく大切な情報とも知らぬ様子で。

 


「一昨年といえば、生徒会の峰叶斗様も御二方と同じクラスだった年ね」



「……峰先輩って一年のときお二人と同じクラスだったんですね」

「そうよ。なんなら白杜様とは今年も同じクラスじよ?」

「もう一つ聞きたいのだけれど峰先輩と一条先輩の交友って――」

「多分小等部からね」

 

峰先輩なら私たちの計画を知り、白杜先輩と一条先輩と知り合いという条件をクリアする。


……と言っても、峰先輩が本当に失敗に関わっているのか、それが意図したものなのかは現段階ではわからない。


ちらりとのあを一瞥すると、のあも厳しい目でこちらを見ていたので考えていることは一緒だったのだろう。


「ミア、ありがとうございました。とても助かりました」

「そう?それなら良かった!……何のためかは聞かないけど頑張ってね」


そう言って妙に物分かりのいいミアは、特に追求することもなく先に教室へと戻っていった。


ミアの姿が見えなくなると同時に二人でふっと肩の力を抜いて椅子にもたれかかる。


「……峰先輩かぁぁぁぁ」

「峰先輩なら一番話しやすそうですしなんとかなるような気もしませんか?」


普段の態度が柔らかいだけに、もし峰先輩が失敗に直結する犯人だったとして、その理由も真意も掴めないし、ギャップを感じるという怖いところがあるが。


そんなことを思う私とは裏腹にのあは、酷く顔を顰めて、首を振り、私の言葉を否定した。

 

「――いや、あの生徒会の中で一番手強いのが峰先輩だよ」

「え?」


あの温厚でいつもニコニコしているイメージしかない峰先輩が……?と首を傾げる。

手強いというなら他二人の方が厳しいのではないだろうか。


「生徒会の先輩たちに質問をしたとする。他二人、一条先輩はなんやかんや言って聞いたことにはしっかり答える。答えられない場合は答えられないっていうしね。風夜先輩は逆に切り込んでくるところもあるけれど答えてはくれる。

 ――一番難しいのが峰先輩だよ。聞いた質問も意味はなくとものらりくらりとかわし、いつのまにかこっちの情報やら企みを持ってかれてる」


末恐ろしい人だよ。なんてのあは言う。だがしかし、そうは言われても想像なんてつかない。


「まー……まずは確証を得るための裏付けをとりに行かないとなぁ」


ぼそりとのあは呟いた。


* * *


ミアからの情報収集も「裏付け」もとった、その日の放課後のことだった。


「失礼します」


強張る手で、生徒会室の扉を開けるとそこには一人の人がいた。


「月乃くんも華道くんも、今日は早いんだね」


柔和な笑みを浮かべる峰先輩だ。いつも通りののほほんとした雰囲気のまま書類整理をしている。


何も変わらないいつもの空気のはずなのに、何だか怖さすら感じてしまって上手く言葉を紡げない私を制するようにのあが一歩前に出ると口を開いた。


「先輩とお話したいことがありまして」

「僕に?生徒会の何か?」

「いーえ、この間ご協力いただいた件についてです」


その台詞をのあが発すると峰先輩はゆるゆると眉を下げた。


「ごめんね、頑張ってみたつもりではあるんだけど、君たちの思い描いた台本通りにはうまく進めてあげられなかった。僕ももっと上手くできたらよかったんだけどねぇー……」


その峰先輩の言葉に、のあがずっと目を細め、視線を鋭くした。蒼い双眸が峰先輩を貫く。そして――


「進めてあげられなかった、ですか。……進めなかった、の間違いではなくて?」


のあは試すように昏く笑って首を傾げては、釣り上げた唇から歌うように言葉を紡いだ。


「不思議な話を聞いたんですよ。なんでも昨日の放課後、図書館にいた一条先輩は「峰先輩」に呼ばれて図書館を去ることになったのだとか……」





『一条せんぱーい!』


ミアから情報をもらってすぐ、のあは一条先輩を探した。


『あぁ、華道?俺になんか用だったか?』

『そうですよ!昨日用があって一条先輩を探していたのに、教室にいるだの図書館にいるだの振り回されまくって……!』


本当は、ずっと図書館に留まっていたのだが、棚の影から完全に見えないように潜んでいた私たちは、幸い一条先輩には認識されていない。

図書館で起こった一幕の騒ぎもあるが、いろんなところを練り歩き、結果的に図書館も経由したと言うことにすれば齟齬も生まれない。


流れるように辻褄を合わせ、嘘とも言えぬ巧みな嘘を吐くのあは、いっそ恐ろしいまであった。


『悪いな、俺もあやふやな情報に惑わされて色々移動してたもんだから、気づかなかった。というかアレ、華道が呼び出してたのが周り回ってあんな伝言になってたのか……?』


何やら思案し出した一条先輩に、のあが不思議そうな目を向ければ、置き去りにして考えごとに耽っていたのを悪いと思ったのか、胡乱そうな目をした一条先輩が訳を話してくれた。


『なんかなぁ、俺とアイツが図書館で勉強してたらクラスメイトが「一条様をお呼びの方が〜」とか言って呼びに来たんだが、それを辿って三回くらい同じくだりを繰り返した先で行き着いたのが「峰様がお呼びで」って。俺と一緒にいたのが峰だっていうのによ』


一条先輩からしたら全く、謎な話だっただろう。たらい回しにされた挙句、呼んでいるという人は隣にいたのだから。




「話を聞いたとき、確信しましたよ。あぁ、絶対峰先輩だ。……峰先輩だった、って。回りくどくて結局確証を掴ませない手法を完璧に使いこなすのも、そのスキルを以ってこの件に介入するような人物も、峰先輩くらいしかいない」


のあが、そう言い切ると笑みを貼り付けたままの峰先輩と、のあ、そして私の三者の間には沈黙が落ちた。


「……あぁ、もう。やだなぁ…」


その沈黙を破ったのは、普段の柔らかさや明るさとは対極に位置するような全てを取っ払った無機質な声だった。


「完全に見誤った。大き過ぎる誤算だよ……君が、こんな賭けに出てくるなんて」


掌で顔を覆った峰先輩の行動、言動から、のあの言葉を否定する気がないのが見てとれた。どころか認めている。

のあも、峰先輩がそんな様子だからかもう先程のような鋭い様子はなく悪い顔ながらふっと笑った得意げな笑みがあるだけだ。


「だって別にこれは大衆むけでもなければ、第三者に納得させるための確かな根拠が必要な話し合いでもない。ただ峰先輩一人を折れさせればいいだけの条件なんですから。ある程度の材料さえ集めてしまったらあとはハッタリ上等、憶測、想像、色々織り交ぜて相手に詰めかけていけばいいだけです」


「状況に応じて詰め方を変えれるとか嫌な人材だなぁ、華道くん。僕も、貴族の証拠掴んで糾弾!みたいな流れに慣れすぎて君みたいな別方向からのアプローチに想像が及んでなかったのが悔やまれる」


お手上げ、とでも言わんばかりに峰先輩はひらひらと軽く手を振った。

それは一見潔く負けを認めたかのような仕草だが、その瞳に籠る熱や、眼光の鋭さは、まだ弱まっていないかった。


「そこまで認めるということは訳も話すつもりがあると考えても?」


話を本筋に戻し、のあが一歩踏み込んで聞いた。

峰先輩は肯定も否定もしなかったが、ただ薄く笑っていった。


「まー、最初はふざけてるのかと思ったよね。あの杜撰な計画」


口調だけは柔らかだが、こちらを射抜くように見つめる視線は氷のような温度だし、峰先輩が選ぶ言葉は散々なものだった。あまりに酷過ぎるいいように、こっちだってのあが色々考えてくれていたことがあったというのに、と思わず反論したくなった。


しかし、続く言葉に何も言えなくなった。


「杜撰な計画に、二人の仲直りなんて任せられない。だからといって、中途半端な気持ちのまま真面目な計画を立てようとして、成り行きであの二人の心根に踏み込むのは許せなかった」


(この人は……)


「…………お二人のこと、とても大切なんですね」


ここに来て、のあに会話を任せきりにしていた私が口を開いたことにか、それともその言葉にか。峰先輩はゆるゆると目を見開いた。

それはまるで、氷を溶かされていくようでもあった。


そんな峰先輩を傍目に、私は心の中で反省し、静かに謝った。


私たち側には「必要以上に二人の過去や事情を掻き回さないほうがいい」という軸があった。だが、それは私たち二人の間での話だ。

峰先輩からみたら、大切な人たちの喧嘩の原因でありながら真面目に対処しようとしない不誠実でどうしようもない様子として目に映ったのだろう。


私たちの行動が完全に間違えているだなんて思いはしない。だが、峰先輩に感じさせてしまったいい加減さは、峰先輩が大切に思う二人を踏み躙るようなものにも見えただろう。


だがそんな風に真剣に考えていた私をよそに峰先輩はいたって真面目に、不思議そうな声で言った。


「大切、か。大切なのかな?悠里くんと、留紀くんのこと」


え、えぇ……と、のあも私もその頓珍漢な言葉に若干引きながら、しかし声は出さずに峰先輩を見た。だが、峰先輩はそんな私たちの様子を意に介することもなく、ただただ呟いていた。

元より私の言葉に対する返答というより、自問としての意味合いの方が大きかったのかもしれない。


「悠里くんなんかアンポンタン、アンポンタンうるさいし、すーぐなんか悪い顔し始めるし、留紀くんだって細々した規律とか何かと五月蝿いし……でもまぁ居てくれないと困る、かな」


そうして自分の頭の中の言葉を峰先輩が反芻していくうちに、困惑気味だった声は、笑いに変わり、そして晴れやかな顔になった。何かが固まったような顔だった。


「君ら、これからまた作戦を立て直すつもり?」

「そのつもりです」


のあと私が揃ってこくりと頷くと峰先輩は満足気に笑った。それ以上何も言ってこない峰先輩と、私たちとの間でまたもや張り詰めた静かな間が生まれた。恐らく双方、考えていることは一緒だというのに。


痺れを切らした私が提案をしようかと口を開き、のあに止められるという一幕を経て、ついに峰先輩がため息をこぼした。


「……こういうのは申し出る方が下手だ。ついつい言おうとした月乃くんを止めた華道くんは悔しいけど正しいね。……今回は僕が負けたわけだししょうがない。僕から言葉にしよう」


峰先輩は居住まいを正すとまっすぐ私とのあの二人に向き直り、手を差し出す。


「邪魔しといた上で、虫のいい話だけれど、君らの計画に今度は僕も噛ませてくれないかい?」

「勿論」

「よろしくお願いします」


私ものあも、峰先輩の手を迷いなく取り、笑う。

作戦の前準備は、成功だ。


この協力関係によって、今までの経過とは決定的に違う何かが動く。そんな気がした。


そんなことを思う傍ら、峰先輩は峰先輩で、悪戯っぽさもある悪い顔をして笑った。


「君たちのことを、協力者だなんて呼ばないよ。共犯者として、どうぞよろしく」


生徒会の一部メンバーで悪だくみをする協力関係改め、共犯関係が締結した瞬間だった。

 


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