四話 仲直り大作戦プランA
「――と言うわけで下調べの結果一条先輩も白杜先輩も食堂でご飯食べてるみたいだしプランAは食堂ばったり大作戦で行ってみようと思う」
のあ曰く、向かい合わせの二つの席だけをあけ、他を全て埋めてしまえば二人で座るしかない。結果話あう機会になり問題解決!とのことらしい。
「とりあえずミアやらミアと昼食とるために来てくれた友人たちもいるんだしこの二つの席さえ死守して先輩たちがきた時に譲ればよし!」
そんなにうまくいくかなぁと思いつつも徐々に埋まっていく席を眺める。とりあえず全席埋めることはできなくもない気がし始めた。
「元々食堂利用者も多いしちょっと人数増やせば簡単に埋まるんだよねー」
「今回の作戦には役立ちますけど普通に席があかず昼食が取れない生徒が出てくるのは問題では……」
「……生徒会で提案してみよっか」
とかなんやかんや話しているうちに一条先輩が見えた――と同時に白杜先輩も見えた。
(僕が一条先輩の方に行くかられいは白杜先輩の方にっ!!)
のあと目線で会話をし、それぞれの対象へと近づく。
「あの……白杜先輩」
「あなた一条の……ごめんなさい。いろいろ言いたいこともあると思うのだけれどこの後知人との約束もあって……」
声だけかけることは出来たものの、目的を果たすことなく会話は切れてしまった。
それじゃあ、とこの場を去ろうとする白杜先輩をどうにか引き止められないかと私は手を伸ばす。
「あ、待ってくださ――」
そこで問題は起きた。
大きな物音とともに一人の少年が倒れた。……いや、視界の端で捉えた様子では足を引っかけて転ばせた、と言った方が正しいだろうか。
制服を見た感じ赤いローブであることから一年生だろう。倒れる少年の前に仁王立ちする少年とその取り巻きであろう数名の少年たちも赤色のローブだ。
「ん?、あぁ悪りぃ悪りぃ。お前いたのか。気づかなかったよ」
典型的な意地いじめの場面に遭遇してしまった。ケラケラと笑う少年とその取り巻きたち。この少年たちの事情は何も分からない。私は知りえない、が何もなかったことにはできないほど胸のあたりがざわざわして思わず口を開いた。
「貴方がた――」
「あ?」
初めは悪態をついた少年たちだったが青色のローブを見て少しだけ怯む。
「他人を尊重することができなくて、それでも貴族ですか。私の知る他の貴族方とは全く違うようで――あぁ、お礼を言わなくては。私の見聞を広めることに貢献していただきありがとうございます」
ととびきりの笑顔でいってやった。相対する青年たちの額に青筋が浮かんだのが見えた。
しかし、顔を赤くしてわなわなと震えるだけである。
(まぁ、それもそうだろう)
この一ヶ月ほど学園生活を送り、高貴な身分の人たちの生態系が見えてきた。
とても高貴な、生徒会の先輩方までの地位となると家のために動くと言うのが最優先になり同時に何が益になり何が損になるのか考える力があるため身分をひけらかすなんてことはなくなる。
だがしかし中途半端な地位にいるものほど自分の身分を自慢したくなるのだ。結果平民や高貴な身分でも才能のないものを虐げるようになる。
――ただ、所詮は中級程度。
自分より上の存在がいることは当人たちも痛感していることだろう。そんな存在に対し、一目で下と思われてしまえばまた話は変わってくるが、上か下か判断されないうちはまだ私の発言も一蹴されることはないだろう。
皆と同じ制服をまとっている今、わざわざ自分から平民だということさえ明かさなければ私は目の前の生徒たちの先輩にあたる二年生であり一応生徒会役員でもあるのだから。
だが、思っていたよりもこの生徒たちはしぶとかった。
「急に入ってきてなんなんだよ。部外者だろうが」
先輩に対してもその態度で行くのか、とある意味関心すらしてしまった。
どうやらこの生徒たちにはいろんな可能性を考える脳がないらしい。
「えぇ、私は部外者です。ですが、食事の場で騒々しく喚きだす方を諫めるのは当然のことでしょう?だいたい本当に賢い人は虐げる時間の無用さをよくご存知です。貴方も自分のために時間をお割きになっては?」
「あぁぁぁっ!!もううるっさいな!!」
「大きな声で騒ぐのは皆様の気分を害す行いだということを自覚なさった方がいいですよ」
もしこのまま私と語らいたいのであれば別室という名の監獄(生徒会室)を用意しようか……と真剣に悩みだした私のもとにぼそっとした暗く、苛立ちのこもった呟きが聞こえた。
「……うるさいなぁ」
その呟きに触発され、顔を上げると目の前には影。
正確には一人の男子生徒が手を振り上げた、その影が私に落ちていた。
(……っ!)
あ、マズイと私は瞬間的に感じ取る。
仮にも貴族であるからして、口での喧嘩にしかなり得ないであろうとたかを括っていた私の判断ミスだ。
だがそんなことを考えても今更止まらない。
振り上げた拳は宙に軌跡を描き、そして私の元へ――
そう、思った拳は思ったよりも軽くぽすっという音を立て、ふいに第三者の手によって止められた。
「貴族のご子息でしたら、言葉という人間にのみ許された高度な意思伝達方法を捨て、暴力に走るべきではないと思いますよ」
私と男子生徒たちの間に入ったのあは、そう言うとにっこり笑い、しかしその目は冷ややかなまま男子生徒の耳元でぼそりと呟く。
「ここには、あなたより上位の家の方々もごまんといらっしゃいます。そういった方々から「あの家は品がない」など、白い目で見られることはあなたも避けたいでしょう?」
「…………っ」
「この場をこれ以上大きくさせないためにもお帰りになることをおすすめいたしますよ」
悔しさからか、唇を噛んだ少年はしかし、取り巻きを連れてゾロゾロと食堂から出ていく。そして、転んでいた男子生徒も立ち上がると一言お礼を言い、どこかへ去っていった。
「れいっ!大丈夫!?」
少年たちが去ったのと入れ違いのように飛びつく若干青ざめた顔いろの、のあに無事を伝える。
「別に殴られそうになったのも未遂でしたので大丈夫です。……それよりのあを巻き込んでしまいました。すみません」
「いい、別にいいから。面倒ごとになるかもしれなくても、あそこで声をあげられるのがれいっていう人物なのは百も承知だから。それに、僕はそんなれいでいいと思ってるし」
ほっとしたようなのあはそういったが、それであっても若干の申し訳なさを感じつつ、また共に言葉に表せない不満を私は募らせていた。
「言葉だけに留めておいてくれたなら、のあの手も煩わせずに、私があの方々と殴り合いするだけで済んでいたというのに。手まで出そうとするくらいに知能レベルが低かったことを見抜けなかったこともそうですし、そんな愚鈍で常識も品もない方々と会話を試みようとしてしまったのが何より悔しいですね」
「……殴り合ったというよりれいが一方的に言葉でタコ殴りしていたのは気のせいかな……?というよりその敵とみなしたものに口が悪くなるの変わらないなぁ……」
「あ!そういえば留紀先輩と一条先輩に……」
作戦を思い出し咄嗟に声をかけようとしたものの、一条先輩はすでに立ち去り白杜先輩は友人に声をかけられてこちらが話しかける隙などどこにもなくなっていた。
ふと思い出し、突き飛ばされて転んだ生徒を医務室まで送り届けようと出口に向かった時、月乃玲明は見た。
白杜先輩の何かが煮詰まった苦しそうな顔を。




