三話 トリックアートみたいなすれ違い
「え、別にいいじゃねぇか」
その一条先輩の言葉に白杜先輩の瞳が大きく見開かれた。
「え、本当に言ってるの?……無理だって言ってるじゃない」
「やってもねぇのに言うなって。こいつらのことを話すついでに――」
「――……も、……てない……の?」
「は?」
「あなたも家しか見てなかったのっ?」
今までで一番悲しそうな、傷ついたような表情をして白杜先輩は言った。
「はぁ!?なんでそういう話になってんだよ!?」
一条先輩が引き留めるまでもなく白杜先輩は教室を駆け足で出て行ってしまった。対して一条先輩は「訳わかんねぇ」と一人言ちて呆然としたまま教室を後にした。
残された私たちは考えていた最悪のパターンになった――と焦りどうにかしないと。と策を考え始めたが結局は焦ったまま考えてもどうにもならないという結論に至りとりあえずは生徒会室に戻り、仕事を終わらせ、話し合う時間を設けようということになった。
* * *
「何が合ったんですか?」
生徒会室に戻るなり風夜先輩によって一番に投げかけられた言葉がこれだった。事情説明からしなくてはいけないと思っていた私たちは問題が起こったことを知っていた風夜先輩に驚き――納得した。
先に戻っていた一条先輩はいつもの場所に座ってこそいるものの呆然としたままで仕事はしているもののときどき手が止まってしまっている。今こちらで話していることにも気づいていないようだった。
「実は――」
自分達も裏にあある事情等はよくわかっていないため簡単な概要と分かっているところだけを説明した。
「あぁ、留紀くん関連なら悠里くんがこうなるのも納得かな」
「白杜先輩との間に何かあるんですか?」
のあが不思議そうにつぶやく。一条先輩からは友人と聞いていただけで特に何かのつながりは聞いていなかった。
「うーん、僕もそこまで二人の間を知ってるわけじゃないからなぁ……。とはいえ悠里くんが友人ってはっきり明言している時点で大切な人って分類なのは確かだよねぇ」
なんでもないことのように呟いた峰先輩だが確かにそうだ。あの一条先輩が「友人」と言うなんてことなかなかないだろう。
峰先輩からの話を聴き、余計関係修復を早めなくては――と密かに決意した。
* * *
とりあえず生徒会の仕事を終わらせた後、自由に使うことが許可されている空中庭園までやってきた。
空中庭園にはテーブルやベンチも設置してあり話をしたり、茶会を開いたりできるようになってはいるが大体生徒たちの茶会の場と言ったら三階のティーサロンか中庭を使うためあまり人気はなく、人に聞かれたくない話をするときにうってつけの場所となっていた。
「とりあえずわからないことが多いけど今わかってることだけまとめよう」
そういいのあはポケットから取り出したメモ帳にすらすら文字を書き連ねていく。
・一条先輩の発言の何かが白杜先輩の琴線に触れた
・白杜先輩の琴線はお家関連?
・一条先輩にとって白杜先輩は大切な存在?
「今確定していることはこれくらい?」
「多分。一条先輩にとって白杜先輩が大切な存在なのは見ててわかりました。……だからこそなんであんな発言したのか真意がわかりかねます」
そう言ったところでのあの声が消えていたことに気づく。メモに書かれた文字から顔をあげ、のあの方を見てるとポカンとしているのあがいた。
「えーっと、ごめん。見落としというか何かに齟齬があると思うんだけど僕にはれいの言う「あんな発言」がよく分かってなくて……」
「親と不仲な白杜先輩に対してそんなの別に良くないか?医院長の娘なんだから交渉しろ。って言ってたことについてですが……」
「そんなこと言ってた?」
いよいよ話の収集がつかなくなってきた。ただこの食い違いが今回の問題の根幹な気がしてのあにひとつ問いかける。
「私が話していたのは一条先輩の「別にいいじゃねぇか」という発言についてですがのあはそれをそう受け取りましたか?」
僕は……一条先輩の前に白杜先輩が「私に才能がないからお父様は見向きもしてくれない。そんな私は交渉できない」って言ってたのに対して別に才能がなくとも見てくれるだろ。会っても大丈夫だって。って言ってると思ってた」
のあとの会話で違和感の正体を掴めた。
『え、私に……お父様の説得を……。一条、あなたなら知っているでしょう。私とお父様の関係。私に才能がないからお父様なんて見向きもしてくれない。そんな私に交渉なんてできると思ったの?』
『え、別にいいじゃねぇか』
この会話で私や白杜先輩は才能やらなんやら関係ない。とりあえず会えるように交渉しろ。と「別にいいじゃねぇか」を深く受け取った。
一条先輩やのあは交渉うんぬんを抜きにして、才能やらなんやら関係なく見てくれるだろ、会いに行ってもいいだろ。と伝えたかった。
まだ確認をした訳でもないけれどおそらくこれが正解だ。
「確かに……そうとれちゃうのかぁ。と、いうかそう言われたらそっちにしか聞こえないっ!!」
うぅとえずきだしたのあはとりあえず置いておくことにした。何かの思惑うんぬんでなく同じものが見えていたのに違うものが見えていたなんてなんだか不思議だな、と思った。
「まるでトリックアートだね」
「トリックアート?」
「同じものを見ているのに人によって見えているものが違ったりする絵のことだよ。今度見てみよっか」
のあはそういいペンを握りなおすと再びメモ帳にペンをはしらせた。
「さて、大事なのはここから。悠里先輩と白杜先輩に必要なのは場を用意して話あってもらうことだと思うんだよね。――と言うわけで場を作るために作戦を立てよう。題して「仲直り大作戦」!!!」
かくして、のあと私によって「仲直り大作戦」なるものが立てられることとなった。
余談ではあるがのあは作戦の響きに魅入られてことあるごとに「仲直り大作戦」「仲直り大作戦」と連呼していた。
微妙なネーミングセンス――と思ってしまったことは胸のうちにしまっておくこととする。




