五十一話 よ、お前ら
久々に不良が出てきました。
「よ、お前ら」
いつもと変わらぬ態度で現れた一条先輩に私、月乃玲明は目を遣る。
一条先輩は、スタスタとこちらまで歩き、私たちの前で止まる――かと思いきや、西園寺さんの前まで来てしゃがむと、今までの表情からは一転した、痛そうな顔を浮かべた。
「……この応急処置は?」
「のあが知っていたそうなので、対応してくれました」
「そうか」
一条先輩らしくないその静かな声に表情を見るが、もう痛そうな顔も消し去られて、真剣な顔で、西園寺さんの前に手をかざしていた。
「一条先輩、それは?」
私が尋ねる間に、西園寺さんにかざされた一条先輩の手からはぽわぽわと青色の粒子が浮かび上がり、西園寺さんを優しく包みこむ水の寝台になっている。
「水だけど、濡れはしない特殊な水。感染症とかを防げる優れものだ。
……ちゃんとした処置をするまで、不安は消えないがないよりはあった方がいい」
魔術の展開を終え、立ち上がった一条先輩は今度こそ私たちの前で立ち止まる。
「まずは、月乃も華道も――お疲れさん」
珍しい一条先輩からの労いの声に、胸がじんわりと暖かくなった。
来てくれてありがとうございます、という感謝の言葉。
何がどうなっているのか、という疑問の言葉。
言いたいことが色々ありすぎて、どんな言葉を紡ごうか考えているうちに、一条先輩から話が切り出された。
「色々話したいこともあるだろうし、説明することも絶えないが……まず一つ、朗報だ」
その言葉に、先ほどまでのしんみりムードはかき消され、私とのあはぱっと目を輝かせた。
『どんな朗報ですかっ!?』
私たち二人の反応を見て、一条先輩はいつものような、ニヤリという笑みを浮かべると、言葉を紡いだ――
「――今、この場所は閉ざされている」
この場所は閉ざされている。
閉ざされている。
…………閉ざされている!?
「閉ざされている」という言葉がひとしきり頭の中に木霊して、数秒経ってやっとその意味を受け取ると猛抗議し出す。
「ちょっと、一条先輩!!閉ざされて、って朗報じゃなくないですか!?」
私と一緒にポカンとしていたのあも、私が抗議しだすとようやっと我に帰ったらしく、私の抗議に加勢した。
「そうですよ、そうなったら西園寺さんを外に運べないじゃないですか!!」
「あー、うるせぇうるせぇ!最後まで聞けよお前ら!
あんま時間もねぇんだから」
『最後まで?』
私たちの抗議を、まだ言うことがあるという話で一蹴すると一条先輩は、続きを語り出した。
「さっき行ったとおり、この場所は――魔術回路管理塔の緊急時にはられる保護結界で閉ざされてる」
「保護結界?」
聞き馴染みのないその結界の名前に、新しいタイプの結界だろうか、と一条先輩に尋ねる。
「まぁ、装置的にはそう言う名前をつけてはいるが、普通の結界と何ら変わりない。保護と言うより何かあったのを外部に隠すための結界だ」
「そうなんですね。あ、でもその結界が今も張られているのって……」
今までの説明から聞くに、その保護結界が塔の装置の一部だとするのなら、塔が破壊された今もその結界の効力が続いているのは何故なのだろうか。
その疑問を、最後まで言葉には表さなかったが一条先輩にはしっかり受け取ってもらえたようだ。
「あぁ、そこが疑問だったか。この保護結界の作動装置は光魔力で構成されるから、反応を感知してからの作動速度が何より早い」
「へぇ、光魔力ですか……」
高いと聞いていたのにこんなところに使われているとは、と少し驚く。
「そんでもってこの結界は展開中、魔力の供給を続けなくてはいけない「供給型」じゃない。
一度に使う魔力を全部術式が持っていって、その魔力が続く限り展開する「自立型」だ」
今まで全く知らなかったここの保護結界の仕組みについてを、ある程度教えてもらったことで、私は何となくだが予想ができた。
「光魔力の素早さで、異変を感知した瞬間から自立型の結界を展開してる。
つまり、実際は塔が壊される前に、塔の装置を離れて結界は構築されているから、塔が壊されても展開は続いている。……ということであっていますか?」
「察しがいいな」
どうしても、気になってしまったため尋ねたはいいが、特に発展もない、意味のない問答に時間を使ってしまった……と、反省していたら、何やら考え込んでいたのあが顔を上げた。
「塔が崩壊される前に、結界が構築されたのなら爆発音や、瓦礫が落ちるのは生徒や保護者、その他いろんな人には知られていない……?」
「あぁ。――まだ、この騒動は表にはバレていない」
『……!』
朗報とはこういうことだったのか、と私は目を見開くいた。まだ、表立っては知られていないというのなら、混乱にもなっていないだろうしそちらの混乱によって人手が割かれることもない。
そう、一つ目の朗報に喜んでいた私は――
「さらに、この「保護結界」が普通の結界と唯一違う点は、中から出るのにも特別な条件がいること」
――にっ、と唇の端をあげながら二つ目の朗報を語り出した一条先輩に驚く。
「つまり、この結界は外からも中からも出入りには制限がかかる訳で――犯人やら、物的証拠やら、どこにも隠すことはできない」




