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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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五十話 多分、大丈夫


「……死ぬ、の、かな」


その言葉に私、月乃玲明は、はっと西園寺さんの顔を見た。


「……西園寺さん」

「あ、ぁ。ごめ……なさい」


西園寺さんは、私が気を悪くしたのか勘違いしたようで、すぐさま謝罪の言葉をかけてくれた。


「大丈夫です。何も、気を使わなくていいので、思ったこと、吐き出してください」


体の芯からぶるぶる震えたくなるような、西園寺の怪我に対する動揺を押し留めて、私は西園寺さんにそう声をかけた。


どう、すれば西園寺さんが楽かなんてわからないけど、思ったことは認めて、吐き出してあげるのは多少なりともいい影響を与えるものじゃないかな、と今の私は思った。


……それも、きっと自分を大切にすることだから。


私のその言葉を受けてか、一度閉じた口をまた開いて、西園寺さんは自分の中にあるがままの感情を語り出した。


「……怖、い。足……痛、く……て、あた、ま、クラ、てして……苦し、い」

「……そう、ですね。痛い……ですね」


私には、それを肯定するだけしか出来ない。

完全に共感することも、その苦しみを代わることも。


「こん、なに、血。出……てる、の、見たこと、ない。声……も、あんま……出せな、て」


西園寺さんの瞳にあるのは不安と、恐怖と、虚。

全てがない混ぜになったその瞳の色は見ているこっちまで痛い。


「……死ぬの、かなぁ」

「西園寺さんは、ちゃんと生きられますよ」


瞳の色に痛みを覚えたところで、私にはこんなありきたりな言葉とか、変な言葉しか、紡げない。


「今は凄く、不安で怖いと思います。

でも、不安とか、怖いって感情は自分を大切に思えてるってことだとも、思うんです」


西園寺さんは、ただただ静かに宙を見ている。


こんなしっちゃかめっちゃかな言葉だと、通じるものも、通じないだろう。

でも、伝わってほしいと、願うから、私はそのまま曖昧なですぐに揺れてしまう、私の言葉を紡ぐ。


「そういう人は、きっと体が生かそうとしてくれますし、その分、未来は楽しいと思うし……ええっと!!」


「――多分、大丈夫!!……です」

『……………………』


……みんな、無言になってしまった。


のあは、元々無言なのだが、西園寺さんまで、何も言わなくなってしまった。


こんな大怪我を負っている時に、そんな楽観的なこと言われたら、嫌だっただろうか……と、今更ながらになって後悔し出した――時。


「あ、ふっ、ふふふっ、は」


西園寺さんが、苦しそう……だけれど、緩まった明るい雰囲気の声で、笑い声を漏らした。


「大、丈夫……って、なんの、根拠もないのに」

「そう、ですよね!すみません」 


もう、呆れてものも言えなくて笑ったのだろうか、とその笑いの真意が掴めないまま、謝罪の言葉をかけた私に、西園寺さんは否定した。


「い……や。ありが……う」

「えぇっ?」


なぜ、感謝されたのだろうか。

私は、何も出来ていないのに。


「多、ぶん、大……丈夫、だね」

「そうです!多分、大丈夫です」


何故かわからないけど、西園寺さんは少し元気になったようだった。

私の、変な言葉でも、何か伝わって、少しでも元気になってくれたのなら、意味があったと思える。


痛みはすごいだろうし、まだ不安も残るだろうが、少し持ち直してよかったと思った――と同時に。


「……ね、ぇ」

「はい?」


西園寺さんから、話を切り出された。


「月、のさん……の、いう、通……り、ちゃ、んと、今後も、生き……れるなら、やり、たいこと……が、ある」

『……!』


西園寺さんからの、その話題に、応急処置を続けるのあも顔を上げた。


「何が、やりたいんですか」


そう、尋ねはしたが、私ものあも、その真剣な面持ちからどういう系統の頼みかは、想像がついていただろう。


「こ、んな……こと、し、た犯人。一発……ぶ、んなぐ、り……たい」

「……そうですね」

 

私は、のあに目をやる。


のあもちょうど一通りの応急処置を終えたらしく、すっと立ちながらこちらを見た。


二人とも、考えることはきっと同じだ。


「……絶対、犯人を西園寺さんの前に突き出します」

「はい。だから……西園寺さんは安心して、待っていてください」

「あり……がと、う」


伝えたいことを、西園寺さんは伝え切ったのだろう。


淡い金髪の奥に透ける、西園寺さんの翠の目がふっと糸が切れたかのように閉じた……かと思えば、最後にぽつりと呟きを残す。


「劇、の、みんな……に、ごめ、ん……て」

「………わかりました」


西園寺さんの意識は、私が返事をする前に落ちた。


私たちが、その伝言を受け取るかどうかなどわかりやしないというのにその返事を待たずして、眠りに落ちたこと。


それは、少なからず私たちなら大丈夫だと、この二年一組に対する伝言もそうだが、その他の色んな事柄を信頼して託してくれたようにも思えた。


「……のあ」

「うん。絶対に見つけよう」


私ものあも、決意は同じだ。


「まずは、西園寺さんを校舎の方とか、安全なところに送り届けて次に…………………………」


今からの行動についてを考えだしたのあが、ぴたっと固まった。


「のあ?」

「…………れい」


やたらと深刻そうな顔でのあはこちらを向く。


「――西園寺さん、どうやって運ぶ?」

「え、普通にそっちから………………あ」


周りを見渡せば、暑苦しいほど埋め尽くされた火。

私が使えるのは風と火だし、のあも風。


いつかの爆発を鎮火した時のように結界で潰そうにも私はまだ、瓦礫の結界を維持中だし、のあは魔力が、からっきしだし、範囲が広い。


元来た道は空だしこれは――


「……詰んだ?」


のあが、そう呟いた……が。


「詰んでねーよ、馬鹿野郎」


それに反論する、大層口の悪い返答と、じゅっと音を立てて消える炎の壁。


その声は――


『一条先輩!?』


消えた炎の壁の向こうから、ひらりと手を振りながら歩いてくるのは――生徒会庶務、一条悠里先輩だった。


「よ、お前ら」


にやり、とこんな状況でも変わらない不敵な笑みを浮かべた一条先輩は、私たちに向かって余裕綽々の態度で、そう声をかけた。


やっと話が大きく進む……はずです。

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