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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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四十八話 大切なものは


瓦礫の積もり、周りにはぐるりと火が囲む、塔の近くの大地にのあと共に降り立った私、月乃玲明はあたりを見回わして、すっと背筋に冷たいものが、伝わるのを感じた。


「の……のあ。この場所、瓦礫だけしかありません」

「……結界の反応は、まだちゃんとある」


のあから返ってきた返答はそれ……だっだが、のあも完全に信頼しきれないのは、無理もない。


――西園寺さんの、姿が見えないのだ。


しかしらただ単に見つからないという訳ではなく、ここに結界があるからして……この瓦礫で、姿が覆いつくされていると考えた方がいいだろうか。


「結界の細かい反応は」

「北東方向に三歩進んで……下っ!!」


その言葉を聞いた私はすぐさま、のあと瓦礫の隙間を歩くようにして三歩進み――


――瓦礫に付着した、血痕に気がついた。


赤黒くて、ドロドロした液体。それも、何故今まで気がつかなかったのだろうという量の。


「のあ」


予想以上の悪い事態に戸惑った私は、咄嗟にのあの名を呼んだ。


結界の反応は下、そしてまだ付いてからそう時間が経っていない様子の血痕から、この瓦礫の下に、西園寺さんはいると考えられる。


(どうしよう……)


そう、また途方もない「どうしよう」が、頭の中を駆け巡りそうになって――ちゃんと、思い直せた。


「のあ、策はありますか。なかったら私が出します」


今こそ本当に、一分一秒を争う時だ。

パニックになる時間すらも惜しい。


「――ある。一瞬、瓦礫を術で持ち上げるから、れいの時と同じように……あぁ、今度は魔力節約する必要もないから全力強度の結界で留めて」

「了解です」


私たちは、簡単に打ち合わせをするとそれぞれが、掛け声もなく魔術を展開し出す。


この作戦だと息を合わせなくては失敗するであろう術。いつもならば、掛け声のないこんな状況なら失敗しかねない……が、今はバラバラなことをしていても自然と揃う自信があった。


風遊(ふうゆう)

「――防御式結界、構築」


辺り一体に、私とのあの魔力の粒子が舞い、キンッとガラス壁に触れる、瓦礫の音がする。


――直感通りの、成功だ。


「れい!」

「はいっ!!」


瓦礫が、私たちの頭と同じくらいで留まっているのを確認して、私とのあはその下にいる、柔らかな金髪の人。探し人であった西園寺さんに声をかけた。


『西園寺さん!!』

「……つ、のさん、とか、ど……さん……?」


まだ、辛うじて意識は残っていたらしく、うまく話せないようではあったが「月乃さん」「華道さん」と、私たちを呼んだ。


まだ、ちゃんと命が繋がっていたことに、安堵したのも束の間――


「のあ、これ」

「膝から下の大量出血、骨も見えていることから、恐らく複雑骨折だろう。――応急処置しないと後遺症が残ったり、感染症、または失血死の可能性もある」


先ほど瓦礫に付着していた血痕、その大元であったのだろう、西園寺さんの膝下は赤黒い鮮血に塗れていて、所々、肉が見え、骨が見えている。


そして、のあからの言葉に、私は何度目になるかわからないが、さぁっと青ざめた。


「のあ、その応急処置の方法って……」

「――今から僕がやる」


凄く、真剣でいつものふわっとした空気を消し去ったのあは、力強くそう言い放つ。


その瞳に宿る色は、あまりにも真っ直ぐで、「そんなこと出来るのか」とか「なんでそんなことができるのか」とか、私のくだらない疑問も消し去った。


「私は……何をすればいいですか」


応急処置に関しては何もわからない私に、出来ることはなんだろう、とのあに尋ねてみる。


「れいはその辺に落ちてる木でも、最悪枝をへし折ってもいいから、膝の長さくらいの枝を持ってきて」

「わかりました」

「西園寺さんはまだ、ここから動かせそうにないし、結界は繋いだままになるから、無理しない範囲で、気をつけてね」


何処からか、包帯やら清潔なガーゼやら、色々なものを取り出しつつ、のあは私に指示をしてくれた。


……良かった。まだ、どうにかなる。


* * *


「か……うさん。応急、処置よ……く、知って、るね」


僕、華道のあの元で、応急処置を施されている西園寺さんは、そう話しかけてきた。


上手く呂律は回っていないし、痛みに顔を歪めているが、こんな状況でも雑談をしようとするのは今まで一人きりだったのが、心細かったからだろう。


僕も、そんな心を尊重するくらいの気遣いは持ち合わせている。


「……支障が無い範囲でなら雑談も付き合いますけど、まずそうだったらすぐに言ってください。ダメだと判断したら僕から止めます」

「わか、た」


ちゃんと忠告をした上で、西園寺さんの疑問に、僕は答え出した。


「自分で学んだんです」

「なん、で、学ぼ……と思、たの?」


その返答に、僕は少し目を細める。


「そういう術を身につけないと、大切なものを失いますから」


……結局、身につけても失うものは、失うのだが。

あるだけマシだろう、と必死になって身につけた時代があったのだ。


「その、たいせ……つ、な、もの……て」


嫌な、ところを突かれてしまった。

答えるか、答えないか、本当なら答えなくてもいい。


しかし、今のこんな状況の西園寺さんが気になっている、と言えば答えてもいいか、とも思ってしまう。


迷って、迷って、迷った挙句――


「――――ですよ」


僕は、かつて殺したその人の名を口にした。


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