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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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四十七話 大空


「れい、こっち!!」


木々をかき分けて進んでいた私、月乃玲明はのあの指示に従って少し逸れた方へと進む。


方向を少しだけ変えた、その道を駆けると――奥に、朱の色を纏う炎が見えた。


それも、ぽっと一つだけあるのではなく、壁かと見紛うほどに大きな範囲で燃えている。


「のあ……もしかして」

「……この、さらに奥だよ」


どうするべきか。


迷っていられる時間はそう多くないため選択肢をパッと浮かべては切り捨てていく。


迂回するか。

いや、ここら一体の枯れ木が燃えてしまっているため、他から回れる可能性も少ない。


戻って何か火を消せる道具を持ってくるか。

しかし、そんな時間もない。


東西南北、何処を見渡しても通れそうな道はない。下を向いても、地面を掘れる訳でもないし、空だけがただ広々と空間を開けている。

しかし、私達は鳥でもある、まい……し――いや。


「――のあ、今張っている結界から周りの空間の把握ってどれくらい出来ますか?」

「詳しい地形は把握できないけど、魔素くらいなら感じ取れるよ」

「十分です。この先の炎の広がり具合と、私たちが立てるくらいの空き場はあるか、見てください」


あることを考えた私は、すぐさまのあに指示を出す。


「この先だけど、真っ直ぐ進んだところが管理塔のあったところ。で、その周りは、まだ術が残っているのか火を妨げてる」


のあは、目を閉じて、周りの魔素の状態を感じ取りながら私に説明をしてくれた。


「つまり炎の形としては塔の周りをドーナツ型に囲んでるといったらわかりやすいかな。

西園寺さんであろう反応はそこにある」

「……了解です」


恐らく瓦礫やら破片が落ちていたりして足場は悪いだろうが()()()()()ことはないだろう。


「最後に――」

「うん?」

「――のあは、空中での体勢維持に、どれくらいの自信がありますか?」


* * *


「行きますよ――」


「前にもあとにも戻れない。従わざるもの天へ舞い、地獄へ堕ちろ。前進後退禁止の令」


私は、のあと手を繋ぎながら、何時ぞや授業で作った初めての術を詠唱する。


「のあ、せーので一歩後ろに下がりますよ。

タイミングずれたら大変なことになりますから……」

「わかってよ、気をつける!!」


のあは、珍しく若干緊張したような面持ちで、荒々しく返事をした。


……今からのあにやってもらうことの重大さから緊張するのも無理はない。


「よし。それじゃあ……せーのっ!!」


出来るだけピンと立った状態を維持できるよう気を遣いながら一歩下がり、かかとで軽く地面を蹴ると。


「……っ!!」


物凄い力で押し上げられる様にして私たち二人は――


――空に放り出された。


時計塔と同じか、少し高いくらいの高さ。

びゅぅっと吹き抜ける風は、少し前まで火の近くにいて暑さを感じていた私の体を冷ましてくれた。


「次がっくり下に落ちますからそのタイミングで」

「了解――舌噛まないように気をつけて」


今度、のあに指示を出すと、もう先程までの焦りは見えず、冷静な声音の返事が返ってきた。

しかし、まだ緊張はしているのだろう。繋いだ手には、力が加わっている。


(のあなら大丈夫)


そう、思いを込めて私からも手を強く握る――と、同時に今度は叩きつけられるような力で、私とのあが下に向かって急降下し出す。


このままいけば地面に叩きつけられる速度であったが、怖くはない。


急降下しながらも硬く繋がって離れることのない手を辿ってのあの顔に目をやる。


「……………」


射抜くような青い瞳は地面を捉え、その口からは――


「…………飛翔」


詠唱が、なされた。


その次の瞬間、私達の下側からぶわっと風が吹き、今まで地面に向かって落ちるだけだった私達の体が、下から吹く風に支えられ、宙に留まる。


このままだと、下からの風が止んだらまた急降下する気もしたのだが……数秒すると、下から吹いていた風は、粒子の様にはらはらと散って、私たちの後ろに、淡い緑の光を放つ、翼の形をとって収まった。


「成功……ですか?」

「まだ」


先ほどの射る様な眼差しを解かないまま、のあは、地面を鋭く見据えた。


「まだって……」


数秒目を瞑っていたのは、術が安定したことを確認するためだろう。そして、ちゃんと確認が取れると、のあはくるりと指先を回し、ある一点を捉える。


「時間ロスしたくないから――行くよ!」


指先の向いた方向――結界の反応があるここから少し、東寄りの地面に向けて、私たちは飛んだ。

それも、かなりのスピードで。


「えっ、え、え!?」


空まで打ち上げられた後、のあの魔術で下に降りるのは知っていた。だって、私が考えた作戦なのだから。


しかし、こんなにスピードが出るとは聞いてない。


「の、のあっ!!」

「舌噛むよ!」


少しだけでもスピードを下げてくれないかな……と思って言ってみたが、遮られ、尚且つ「舌を噛む」と忠告された。


さっすが、のあ。容赦ない。


しかし、このままでは、本当に落ちる気がする。

私が体制崩して落ちたら元も子もないため、私もここは引けないのだ。


「で、でもこのままじゃ落ちる――」

「風」


今度は、一言!?


しかも、風って何なの!?と、一人焦ってのあを見た。

だが、のあの瞳は思ったより真剣で抗議しようとした口を閉ざす。


「風を感じてみて。多分……幾らか安心するはずだから」


そんなことやったところで何になるんだろうか、と疑問にはなりながら口を閉ざして風に身を任せる――と、のあの言っていた意味が分かった。


(風が、優しい)


下に向かって凄いスピードで降りているのは先ほどと変わらないが、叩きつけられる様にただただ落ちるのとは違う、風が私たちの味方になって、背中を押してくれているようなそんな感覚。


思ったよりも、怖くないかもしれない。


「……ちょっとは大丈夫そうになったね」

「はい」


少し、別のことを知るだけでこんなに変わるものなのだと、私は感心する。


けれど、感心するのも、怖がるのもまた後でしっかり受け止めよう。


今は……西園寺さんの安全を確保しなくては。


「そろそろ、降り立つよ――」


今度こそ、しっかり覚悟が決まった私は、猛スピードの風にも身を任せて、すとんと瓦礫だらけの、地に降り立った。


しかも遅れておきながらまだ西園寺さんに辿り着かないという……。

ちゃんと次回は出てきます。


色々悲惨なことにはなっているかもですが。(ぼそっ)

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