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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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四十五話 綺麗


『対象――地魔力の多い物体。範囲、頭上……』


『――防御式結界、構築!!』


そう僕、華道のあが叫んだ瞬間体からすっと魔力が抜ける感覚と共に自分の真上にガラス壁が出来る。


ここにいる人々の、正確な座標の位置はわからずとも、人を識別する単純な方法――


それは、一定の範囲にあり得ないくらい留まる地魔力の塊を探せばいい。


人体は、多くの部分が、地魔力によって出来ている。

校舎やら、そっちの方に行ってしまうと設備やら他の地魔力の塊があるかもしれないがここは森。


地面やら、ここにある管理棟の壁なんかは地魔力だろうが、人間ほどの密度には及ばない。


そんな識別方法を、軽く設定してあげれば、人間の頭上にのみ張れる、防御式結界の完成だ。


(――うっ)


なんとか、結界がうまく作動したことに安堵した矢先、ごっそりと魔力が抜ける感覚がした。


(魔力の消費量、半端じゃないっ……!!)


れいのところの結界だけでも、上から落ちてくる瓦礫を完全に耐えるためには結界を分散しすぎて強度が足りない。


それもあって、瓦礫に耐えれる強度にするべく、自動的に魔力が引き出されているのだろう。


しかし、このままでは、魔力が尽きるのも時間の問題。


魔力が尽きれば体調不良に襲われるし、折角張った結界も解除されて、れいの頭上にある瓦礫や、今は頭上の防御式結界に阻まれているであろう破片の数々も、全てが理通りに、降り注ぐ。


どうにか、次の手立てを講じなくては、と結界に意識を集中して――


(……あれ?)


違和感に引っかかった。


自分から、魔力が引き出される感覚を辿れば、正確な位置はわからずとも、どこに魔力が吸い寄せられているのか、おおまかなことならばわかる。それを、辿った結果は……。


(何故か、魔力が充てられている場所がこの地点から近いれいの場所じゃなく、もっと奥の誰かの所)


しかし、おかしくないだろうか。


目の前に見える光景の限り、れいの瓦礫はかなりの大きさで、感覚的には強度も全然足りないし、多くの魔力が、ここに当てられてもなんら不思議ではない。

でも、ここに魔力が充てられていないという事実がある。


(……もしかして)


僕は目を凝らし、れいの頭上に「それ」を確認すると――



――こんな状況なのに、ひどく嬉しいような、安堵したような気分になりながら、僕はれいの方へと駆け出した。


* * *


「防御式結界、構築――」


私、月乃玲明は、瓦礫が落ちる一瞬の内に、迷って迷って……三つ目の選択を、選んだ。


本当なら、他の人に充てるべきだった魔力を、自分のために使って――私は、私の身を守る選択を取ってしまった。


それは、珍しく私が選んだ選択だった、のに。


(――私、何しちゃったんだろう)


結界が張られる一瞬の内に、自分がしたことに気づいて青ざめる。


私は、私を救うことを選んだ。


でも、それは他の人の命を――見捨てることと同義。


(嫌、い、いや……っ!!)


私のせいで、誰か怪我する。

私のせいで、誰かが瓦礫に潰される。


私のせいで、誰かが死ぬ――


選択を、取り消したいと、縋るように祈った私だがそんなことつゆ知らない魔力は、一秒前に、私が指示を出したように結界を作り出した。


――二枚の結界を。


(え?)


私が張った結界が、誤作動を起こした訳でもなければ結界は一枚しか張っていない。そう、指示を出したはずだ。


(もし……もしも。私じゃなくて。誰かが張った結界なのだとしたら)


誰が。と、私に疑問が浮かんだその時。


「れい!!」


耳によく馴染んだ声が、私の思考を切り裂いた。


* * *


「れい!!」


何故だか、久々な気がしたその名を僕、華道のあは口にする。


「のあ……」


近いけれど少し離れた位置には、自分で張ったのであろう完全な半球体の防御式結界と、僕が作った簡単な防御式結界の二枚で瓦礫を阻む、れいがいた。


(……なんで、そんなに困ったような、後悔するような顔をしているのだろう)


れいの赤い瞳は、今にも崩れそうなほどにゆらゆら揺れていて、表情もただただ後悔を浮かべている。


(なんで……なんでっ!!そんなに自分の身を守ったことに後悔してるの!!)


僕は、れいが自分の身を……ひいては、自分の感情を認めて行動してあげたことが、こんなに嬉しいというのに。


そこまで自分の存在を否定することに、僕は怒りたくなってしまった。


――けれど。れいは、そういう人だとも、よく知っていた。……そう、させてしまったのだとも。


「の、のあ。私――」

「――その防御式結界は!」


僕が、語気を強めたことに驚いたのか、れいの話を遮ったことに驚いたのか、真偽は定かではないが、れいはすっと顔を上げてこちらを見る。


……れいが、今話そうとしたことなんて、分かりきっている。僕は、知っている。


だから――


「――その防御式結界は!この森にいる人全員に張ってある!!」


れいの考えが僕は手に取るようにわかる。

自分を否定しようとする染みついた性質も、後悔も。


だから――僕はそれを、先回って否定しよう。


「本当、に?」

「本当」


今まで不安げに揺れるだけだった瞳が、明確にこちらを捉える。


「一箇所、下手に気を抜いたら、危ないところもある。でも――まだ、全員生きている」


その言葉が、決め手だった。


「のあ。私は、今から結界を一度、張り直します」

「……うん」

「のあは私に張っている結界を完全に解除して、走り出してください」

「れいは?」


そこまで心配はしていなかったが、尋ねるだけ、尋ねてみた。すると。


「私も、瓦礫を押しとどめ結界を張り直した瞬間、自分を覆う結界を解除して、走り出します」

「うん」


なんてことないように、ちょっとヤバい感じの計画をれいは語り出した。


「時間制限式で、十秒したら、結界は解除されるようにするので、十秒したら瓦礫は地に落ちます」

「うん。……うん、つまり?」


十秒……十秒したら、結界は消えてしまう、となると僕たちの制御の範囲外にいくという訳であり……。


「私ものあも、タイムリミット十秒の内に、離れないと潰れるので気をつけてください」

「……危なくない?」

「まぁ、そうですね」


こちらの言葉には、肯定を示しながらも、その後に言葉を続けた。


「でも、仕方ないでしょう」


「――これから、色々解決するんですから、魔力は温存しないと」


(あ――)


僕は、心臓にドクンと何かが流れるのを感じた。


目の前のれいの、先ほどまで、後悔に泣きそうだったその紅い瞳は、気高い宝石のような、あるいは芯のある焔のような色を纏って不敵に笑う。


きっと、自覚などないのだろうが、無意識下でも、未来の話をして、れいは笑う。


きっと、僕の心臓にまで訴えかける何かがあったのはその不敵な顔が――



――見惚れるほど綺麗だったからだ。


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