四十四話 大切の意味
「え――」
私、月乃玲明に影を落としたそれが、大きな瓦礫であることは、割と冷静に受け入れられた。
(大きな、瓦礫)
凄く、重そうで、私くらいの大きさ。
何が、起こっているのかは、把握しきれていないが、一つだけ確かにわかることがある。
この瓦礫は、私の真上にあるのだから、このまま、世界の道理に従うのなら、私のいた場所に落ちる。
私は、死ぬ。
(……どうしよう)
私は、落ちるまでの一瞬の間に、三つの選択のどれを取るか、思案した。
一つは、ここら一帯に結界を張って、せめて学園にいる保護者には、何があったのかを悟らせないようにする、行動。
先ほどの爆発音で、何か問題があったことは気づかれてしまうだろうが、まだ、外から隠せた方が誤魔化しが効くし、混乱も防ぎやすい。
……が、範囲の問題で魔力の消費が半端じゃない。
そして、二つ目は、この森の中にいるかもしれない西園寺さんを守るための防御式結界。
しかし、私は知識はあれども、のあほど結界術に慣れている訳でもないし、咄嗟の判断で思うように結界を張ることなど難しい。
何処にいるかわからない西園寺さんに結界を張れるとしたら莫大な魔力を消費をして、探索の魔術を使いながら張ることしか出来ない。
そして、最後の三つ目――自分に、防御式結界を張る選択。
理論で語るのならば、全くもって合理的とは呼べない選択。プラスどころか、総合的に見るのなら、マイナスな選択。
だって、私一人が死んだところで何にもならない。
私は平民だから、この身にたいした価値がある訳でもないし、素晴らしい何かを持っているわけでもない。
生徒会の席を潰す、邪魔なやつとも思われているだろうから、なんなら死んだ方がプラスにもなるかもしれない。
でも……。
『自分を大切にしてよ。心配させないでぇ……』
怪我を、してほしくないんだと思った。
幼馴染だから。昔からの知り合いだから。
『その言葉の意味を、今一度考えてみて』
でも、他の意味があるらしい。
大切には、他の意味があるのだと。それに、気づいてほしいと。
『楽しいに正解なんてないので、難しく考えず自分が楽しいと思うまま、それを享受してください』
あの時は、「楽しい」について、語ったけれど、きっと「悲しい」も「苦しい」も同じ。
ちゃんと、自分の感情を大切にしなさいと、風夜先輩は、言いたかったんだと、思う。
(――そっか)
なんか、わかった気がした。
私はのあの言葉を「自分の身体が傷つかないように」大切にして、ってことなんだと思っていた。
でも、多分そうじゃなくて。
自分を、失いたくないから、傷つきたくないから、大切にするのだと、今思った。
きっと、みんなが言った、大切は――
――自分を、認めてあげること。
体を大切にするのも、元からいえば、そこから出てくる行動なのだろう。
自分を失いたくないという感情を、認めて、行動する。
それが、のあの言った、大切。
(……どうすれば、いいんだろう)
気づいた。気づいて、しまった。
――私は、私を損なうことが怖い。
ライが、死ぬかもしれないと思ったのと、同じように。
痛い思いをするのが嫌だ。死ぬのも嫌だ。
全く、合理的じゃなくて、損害を生むかもしれないけれど、私は――
* * *
何分も全力疾走して、ようやっと森までたどり着いた僕、華道のあは、大地が揺れるような轟音に、思わず顔を顰めた。
(何の、音っ!?)
そう思った瞬間、目に入ったのは何処からか上がる炎と、その炎に焼かれる木。
そして……その向こうにちらりと見えた、火元と思われる一部が爆破されたように損傷する塔。
(まさか、今の音は管理塔が爆破された音!?)
最悪の斜め上をいく状況に、どうしようかと思案できる間もなく、僕はさらに青ざめた。
――木の、向こう側に黒髪の少女が立っている。
そして、その真上には今にも降り掛かろうとする塔の崩れた一部が。
(――まずい)
れいならば、この状況下でも自分一人ならば、防御式結界を張ってやり過ごすことはできる。
……実力の話をするのなら。
しかし、れいの性質上、自分を疎かにして別のこと……例えば、この森にいるかもしれない西園寺さんに、魔力量でゴリ押しで防御式結界を張ったり、この状況がバレないように森全体に結界を張ったりしかねない。
森に結界を張ることも重要な案件な一つだが、まずは人命……れいを優先したい。
れいの身を守るためにも、僕が座標を割り出して結界を張ればいいのだが――
(――どうすれば……)
れいは、たった今……いや、現在進行形で死の危機に直面しているため、自分の身を最優先にしても何も言われない。
しかし、この場におり、比較的余裕のある僕は、出来るだけ全員を救えるように、努力しなくてはいけない。
これは、人道的な話だけではなく、「生徒会役員」としての義務の話でもある。
その点を考慮すると……れいに完璧な防御式結界を貼ることは不可能だ。
座標を割り出すのにかける時間で、他の人の身が危険に晒されてしまう。
(考えろ、考えろ。完璧ではなくても、れいを守る方法。他の人の命も救う方法を……)
そう、一瞬のうちに何度も何度も思考を重ね――ある方法に気づいた。
(…………!そう、対象は人間)
人間だけに、結界を張れる、簡単な方法――
土を踏みしめ、パッと目を開く。
スローモーションが、解けたかのような空気に、身を任せながら、僕は早口で言葉を唱える。
「対象――地魔力の多い物体。範囲、頭上……」
そして、最後に唱えた。
「――防御式結界、構築!!」
のあくんが使った魔術につきまして、「だからどういうことだってばよ」と思った方、次回ちゃんと説明しますのでご心配なく。
強いてここで語るなら、れいちゃんがハロウィンの日に怪我した時の治療に、心の中で語っていたことにヒントがあります。
(三章、三十一話おかしな館。参照)
これかもしれないと、にやっとしていただけましたら嬉しいです。
(さらっと語っていたので、見返さなくてもわかったらかなりの強者かも……)




