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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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四十三話 状況の好転からの


「西園寺……中級王宮官の家の方ですか」


私、風夜凛は、先程生徒会室に駆け込んできた女子生徒から用件を聞き、どう判断するべきか思案していた。


もし、いなくなったことに、事件性があるのだとしたらここで生徒会が動かねば波風が立つ。


しかし、現在の状況からはまだ不確定。この状況下だと……。


「だけどな、もし事件性も皆無だったらどうするんだよ。ただただ迷子とか、それくらいのことに、こっちとしては動けねぇ。

……悪りぃが、アナウンスも、今の状況だと厳しいと言わざるを得ないな」


私の心情と、全く同じことを一条庶務が、女子生徒に説明した。


そう、本当ならば、アナウンスだけでもしたいところだが、事件性と迷子、どちらの可能性も捨てきれないため判断に迷う。


何か、後一手あれば。


そう、心の中で唱えた時、女子生徒は覚悟を決めたように、こちらの目を真っ直ぐ見て言葉を放った。


「……月乃さんから、伝言を預かっています」

「月乃会計が?」


予想外だった名前が出てきて、私は思わず聞き返した。


ちらりと、周囲を見ると、一条庶務も峰副会長も、はっきり表情には出さないまでも驚いた様子が見てとれた。


何故、この局面で月乃会計の名前が出てきたのだろう。

そう考えたところで、はっと結論に至る。


「あなたの学級は」

「二年一組です」


当たりだ。


この事件に直面している学級……二年一組と言うのなら、月乃会計と同じ学級。


やはり、そうなると、生徒会を頼るように指示をしたのも月乃会計になるだろうか。


「……それで、月乃くんからの伝言はなんだい?」


今まで、後ろでじっと聞き役に徹していた峰副会長も、気になったらしく口を開いた。


私にとっても、その伝言は聞き逃せないものだ。


月乃会計のことだから、生徒会がそんなにすぐに動かせないことくらい知っている。


それを、踏まえた上で、何の伝言を託したのか。

そこに、最後の一手となるような言葉が、隠されているような――


「「渋ってる暇があったら、さっさと動いてください。勝利陣営、旗頭からの伝言です」……以上が月乃さんからの……」


一拍おいて、「……ふ、ふっ」と噛み殺しきれなかった笑いがこぼれ落ちたのは誰の口からだったのだろうか。


一条庶務か、峰副会長か、はたまた私か。


そして、その笑い声を皮切りに、一条庶務と峰副会長は大笑いしていた。


「あー、ほんっとにっ、あいつ、性格わっる!!」

「いやー、言うね。月乃くんなら絶対言うね」


目の前の女子生徒は、きょとんとしていたが、まぁ無理もない。


「先程色々ありましたので。そこの二人は放っておいてください」

「あの……伝言は」


この伝言を受けて、私たちがどう変わったか言わないものだから、女子生徒は心配になったのだろう。


……伝言は、はっきり言うのならくだらない一言だった。


「さっさと動け」だなんて、先輩に向けた言葉遣いではないし、「勝利陣営旗頭」ってなんなのだ。

旗頭にしたつもりは毛頭ない。


くだらない、馬鹿馬鹿しい言葉。


でも、何より決め手になる一言でもあった。


「さっさと動け」。これはきっと、私たちは言われて動くだけ。全ての責任は自分(月乃会計)にあると示す、月乃会計なりの覚悟の言葉だろう。


月乃会計が、これには何かあると確信を持って私たちを頼ることを選んだのなら、私が出す結論は一つだ。


「――伝言、しかと受け取りました」


その言葉を受け取るなり、女子生徒は、ぱっと顔を輝かせた。


「……ということは」

「――えぇ」


女子生徒が、私に伝言を伝えたときと同じように、今度はこちらからしっかり瞳を見つめ、宣言した。


「――この案件、私たち生徒会が、責任を持って請け負いましょう」


* * *


私、月乃玲明は、非常階段を降りる昨日、如月さんに出会った――あの、森の方へ全速力で向かい出した。


(予想でしかない……けれど、ここまで探してもいないのなら、森にいる可能性も十分にあり得る)


私の中を巡るのは、事件の可能性やら、それを否定したい心情だとか。

もう色んな事が気がかりすぎてぐちゃぐちゃである。


でも、足の裏から、頭のてっぺんまでぶわっと熱くなろうとも。

土を踏みしめる足が、強く踏み込みすぎてか、じんじん痛みだしたような気しようとも。

そんなこと頭から振り払って更に走る。


しかし、秋の冷たい空気だけは、私に「落ち着け」とでも言うように冷気を放つ。


(落ち着こう。落ち着かないと)


その冷気に当てられ、少し思い直した私は、足を進めたまま大きく息を吸った。


「……すぅ、っふ。はぁ……」


焦りすぎても上手く頭は回らない。

何かを見落とす可能性が高くなる。


これ以上に悪い状況になることを、防ぐためにも、落ち着こう。


……落ち着こう、とは、しているのだ。


なのに、深呼吸によって無駄なものが削がれたせいで余計、胸のざわざわがわかりやすくなる。


どくん、どくん、と心臓が嫌な音を立てるこれを、人は胸騒ぎと呼ぶだろう。


それは、ただただ西園寺さんが見当たらないだけの今の状況に対するざわざわではない。


何か、これ以上悪い状況になるような。そんな予感。


何も根拠は浮かばない。この森が怪しいという根拠も、これ以上悪いことが起こるという予感についても、説明はできない。


……もしかすると、無意識下で気づいている何かがあるのだろうか?


そう、考えだした思考は上手くまとまらないまま、私の予想が当たり、「事」は起こった。


* * *


「ちゃんと、確認もしてきたから大丈夫」


後ろから私を見守るように、監視するように見つめる視線を浴びながら、「その人」の声に頷いた。


「えぇ、始めましょう」


だって私は悪くない。正当な怒りなのだから。


一人そう唱えつつ、私は血のような赤い石のはめ込まれた腕輪に、魔力を流した。

腕輪の石が魔力を受け取ったことを、示し赤く光ると同時に――


* * *


「え――」


耳をつんざくような、焼かれるかのような爆発音が、私、月乃玲明のいた森から響き渡る。


そして、それと合わせた一瞬のうちに、この森はこんなに暗かっただろうか。と、私に錯覚させるくらいの大きな影を落とす瓦礫が――


――私の真上の宙に放り出されていた。


引っ張りに引っ張りまくった事件、ついにです。

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