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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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四十二話 ただ、心配


「……?なんかやけに人が多いような」


僕、華道のあは生徒会室から出て、校舎内を回っている最中、ふとそんなことに気がついた。


いつもは人通りが全くといってもない通路にも、二、三人は人がいる。

しかも、ただ歩いているという訳でもなくみんな、あっちに行ってみたり、こっちに行ってみたりしている。


(何か、あったのかな)


少し、胸騒ぎを覚えながら僕は近くにいた生徒の一名に駆け寄ってみた。


「あの……」


僕の呼びかけで、くるりとこちらを向いた人に気づき、驚く。


(うちのクラスの生徒が、なんでこんな所に――)


「華道!!」


振り向いたその人は、僕も一応面識のある、クラスの男子だった。


「こんな時間にどうしたんですか?もう、劇の準備も始まりますけど」

「そんなこといってられないんだよ!!」


その言葉に、僕は即座に思考を張り巡らせた。


「……何か、あったんですか」


ここまでの焦りようともなると、何か問題が起こったと考えられる。


問題は、その規模だが――


「あぁ。――王子役の西園寺がいなくなった」


予想できうる限り、最悪とも言える。


まず、西園寺の身が危険にさらされている可能性。

西園寺さんは何かの事件に巻き込まれた可能性。

そうだとするのならば、犯人がいる可能性。

このままだと劇が中止になる可能性。


最悪の可能性は無数に湧き出る。


「……現在の行動状況は」


言葉遣いを気にする余裕もなくなり、強い口調で尋ねた。


これ以上の何かが起こる前にすぐ動いた方がいい。

まだ、不確定なため生徒会の助力は無理だとしても――



考える間もなく、人に頼らず自分たちで動くことを決める。それは、僕の昔からの考え方だった。


出来るだけ、外に広げず自分たちだけでどうにかしようとして、人に頼るのは最後も最後。


()()はそういう生き方だったのだ。


「――月乃さんから指示を受けた、一名の女子生徒が、今生徒会室に向かっている。

何やら、切り札があるらしく、それを使えば生徒会が渋ったとしても大丈夫らしい」


無意識に、みんな。特にれいなんかはそれを普段と変わらない行動と思っているであろう。しかし、今日の行動は、いつものれいの「普通」じゃない。


――れいは、人に頼ることを、選択していた。


「……華道?」


考えが、思ったのとは違ったことに、失望したでも悲しい訳でもなんでもない。だけど。


ただただ驚いた。


「あ、あぁ。ごめん。他の生徒たちの動きは?」


しかし、その余韻に浸る余裕など残されておらず、僕はすぐさま元の話題に戻った。


「この現在の状況を、互いに連絡しながら、校舎内の至る所を探している。

何かあるかわからないから、出来るだけ大人数で、行動するようにとも、月乃さんが。」

「わかった…………いや、待って」


先ほどからの話だと、れいは生徒会に行かず、誰か別の人に託したようだ。


しかし、本来ならば、れい本人が説明に向かうのが最善手だ。最も信頼されやすく、かつわかりやすい。

れいのことだから、それをわからないはずもない。もし、それを踏まえた上で、違う行動をとるのなら――


「――れいは今、どこにいる?」


れいは、「何か」に気づいたのだろう。


「月乃さん、場所は言ってなかったらしいんだけど……曰く、「みんなが探していないであろう場所」らしい」


思わず、顔が強張る。


れいが言っているのはきっと「あそこ」のことだ。


「――ごめん、校舎の方は任せた」

「え、あ。わかった!!」


急に駆け出した僕に驚く様子を、横目で見ながらも意識は完全に別のところにあった。


(こういう時のれいの予想は大体あたる。そして――)


その予想は、大体危険なことなのだ。


(一人で行くなんて!!)


そう、叫び出したくなる気持ちを抑え込みながらせめて、僕を頼ってくれればよかったのにと、一人言ちる。


……そんな僕は、昨日の帰りから抱えていた葛藤など、いつのまにやら気にならなくなっていた。


今あったのは、ただ心配。


それだけだった。


* * *


森の方へ向かう青年を追いかけ、僕は、森に入った。


(この奥には、何もないのに)


早く教えてあげなければ、という思いと……もう一つ。

僕は、違和感に気づき始めていた。


(…………いくら、知らない所だといってもわざわざ森を進むだろうか)


普通ならば、森に入る前に、違和感に気づけるのではないか。何か、目的があったのだろうか。


そう思い、引き返そうかと考え始めると、今まで全く縮まらなかった距離に、変化が起こっていたことを知る。


(少年は立ち止まって、何を……)


突然しゃがみ込んだ少年は、何かをしている。

何をしているのか覗き込もうとして――


「――バレてるよ?」


真後ろから、少し低めな……それこそ先ほどまで追いかけていた人の年くらいの声がした。


「……っ!」


はっと、前を向いてみても先ほどまでの少年はいない。


こんな辺鄙な場所に、他の人が来るわけもないし、やはりこの少年は、今まで追いかけていた少年と同一人物なのだろう。


後ろから響いた声は、こんな森に無相応な、とても楽しそうな声だった。声だけ聞いていれば何も怖がることはないはず。


……はずなのに。ひどく威圧されるような、肉食獣を前にした草食動物にでも、なってしまったかの様な、明確な力関係を示された気がした。


「ふふふふっ。本当なら、今すぐにでも消しちゃいたいくらいなんだけどね。

どうせ、すぐ叶うことだから今回はやめておくよ――」

「な」


何をするつもりか。と問おうとして、上手く響かなかった声は、()()()しか居なくなった空間によく響いた。


(逃げないと――)


あの少年は、何かをするつもりだ。

そして、恐らくそれに巻き込まれたら僕は死ぬ。


一刻も早くこの場を去ろう。



そう、走り出した――が。

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