四十一話 後悔はしたくない
「二回目公演も頑張ろうな!!」
「がんばろう」
何名かの友人と、次の公演の話をしながらふと窓の外を見た。
(あっちは森のはずなのに……)
後ろからみた背格好ではあるが、小柄な少年の様に見える。距離が遠いが故に、年はイマイチ掴めないが、高等部の生徒くらいにも、見える。
(いや、それならあっちは森だと知っているはず。
生徒のご兄弟だろうか)
だとするのならば、そちらは森しかないと教えてあげねば危ない。
そう、思うと咄嗟に駆け出していた。
少し進んでから、誰にも言わずに来てしまったことに気づいたが、すぐに戻れば大丈夫だと思い直し、そのまま少年を追った。
本当に、すぐ戻れるつもりだった。
* * *
生徒会室を出た私、月乃玲明は校舎内を軽く見回りながら、大ホールの方へ向かい出す。
「はぁー……」
今からがクラス劇の本番だし、余力を残しておくべきだったのに、なんかどっと疲れた。
勿論、生徒会の論争によるものである。
今更ながら、だいぶくだらないし大人気ない論争だったなーと、一人思った。大体にしろ、ココアもバニラもどちらでも美味しいではないか。
全くもって、くだらない。
…………だが、同時に生徒会は平和だ。とも、少し胸が暖かくなる。
何が、とかなんで、とか理論じゃなくて、ただ楽しかった。
今の私なら、素直にそう思える。
(………………もしかすると、大切ってこういうことでもあるのだろうか)
もう少しで、何かがはまりそうなのに時間は待ってくれない。
気づけば、異様なまでに混み合う、大ホールの渡り廊下まで着いていた。
生徒会室での論争もあったし、時間は少々押し気味。
のあも、別ルートから見回りをして、そろそろ到着するだろうし、ここからは今までのように考え事をしてもいられない。
また、劇が終わってから考え事の続きをしよう――
――そう、思った時。
「月乃さん!!!!」
渡り廊下の人混みの中にいた一人……見覚えがあるため、恐らく同じクラスの人なのであろうその女子生徒は、叫ぶように私の名前を呼んだ。
「ど、どうしたんですか?一旦落ち着いて……」
「そうも言ってられないわ!!――王子役の西園寺くんが見当たらないの!!」
「え――」
西園寺さん。
名前をちゃんと知ったのは今だったけれど、練習の合間にもよく声をかけてきてくれたり、人当たりがいい人という印象だった。
そして――
「……私の記憶の限りですけど、西園寺さんっていつも十分前には着いていたり、少なくともこんなギリギリの時間でどこかに行く様な人ではない……ですよね」
記憶を掘り起こしながら、呟くと女子生徒も重々しく頷く。
「そうよね。それに、ついさっきまではそこにいたのを、みんな見ているの。
最初は、少し抜けているだけだと思ったのだけれど、一向に戻って来ないし、お手洗いを確認しても見つからなくって…………」
どうしたらいいかわからず、おろおろする女子生徒を前に、一人状況を整理する。
何時もならば、早くきているはずの西園寺さんが、ギリギリの時間になっても来ない。
しかも、先程までは大ホール内にいたのも確認済み。
そして、もうそろそろ支度を始めないと間に合わない。
…………かなり、不味い状況だ。
「他の生徒たちは?」
「最初はこの付近を探していたけれど、今は校舎内に散らばって探しているわ」
それでもまだ見つからない。そうなると、最悪の最悪ではあるが、何かの事件に巻き込まれている可能性も考慮した方がいい。
考えろ、考えろ、頭を回せ――
「――のあは来ていますか?」
「まだ」
「それなら、別の誰か……貴方でも構いません。
状況を詳しく話せる人が生徒会室まで行って、簡単に状況説明をしつつ、西園寺さんの呼び出しアナウンスをしてください」
「でもそんなにすぐには――」
戸惑いの表情を浮かべた女子生徒に、にっと笑って言葉を託した。……これなら、きっとわかってくれる。
「渋る様でしたら、生徒会会計、月乃から「渋ってる暇があったら、さっさと動いてください。勝利陣営、旗頭からの伝言です」とお伝えください」
女子生徒には、まだ戸惑いの表情が浮かんでいるが、こくりと頷いてくれた。
きっと、私からだということがわかれば生徒会は躊躇いなく動いてくれる。
私の精神状態が、記憶がどうであれ、こういう状況下で信頼を勝ち取れるくらいの仕事はしてきたつもりだ。
私の早とちりで、アナウンスを使うまでの状況ではなかったら、それでいい。後で、ちゃんと謝る。
だけど――
――何か起こってからの後悔は、したくない。
「「何か」がある可能性があるので、出来るだけ大人数で行動する様に、後は校舎内の人通りの多いところを移動する様に、クラスの皆さんにもお伝えください」
「月乃さん、その口ぶり――」
私、本人からは伝えられないということを感じ取ったのだろう。
「――みんなが探していないであろう場所を思い浮かびました。私は、そこを探しに行ってきます」
きっと、みんなは探していない場所。
しかも、あの場所だとアナウンスをしても聞こえない。
私ならば、簡易式ではあるが、自力で音声拡張術を展開することも出来るし幾つか役立ちそうな魔術も使える。
こんな状況下ならば、私が適任だろう。
「今どんな動きをしているか、人伝てでいいのでクラスの皆さんにもちゃんと伝わる様にしておいてください。色々頼んでしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いします――」
女子生徒の返事も聞かないまま、私は非常階段から外に降りる。きっと、私が平民だからといってもこんな状況下ならば協力してくれると、確信めいた考えがあった。
(あっちは、大丈夫)
私は、私に出来ることをしよう――
そう、唱えて私は走り出した。




