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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
二章 魔術病院編
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一話 天然人たらし


『魔術病院に行ってみないか?』


そう一条先輩が告げたのはついさっきだ。でも、もう永遠とも言えるほど時間が経った気がした。


「……無理ですよ」


僕、華道のあの口からはほろほろと言葉がこぼれていく。自分でも頼りない声だと思った。


「魔術病院は私立の病院。医療技術と魔術を組み合わせての治療方法を確立し、正式に認められた唯一の病院とあって王族も使う病院ですよ。僕たちは国の補助でこの学園に通わせてもらっているものの平民です。そんないい医者に診てもらえるほどのお金なんてありません」


ご存じですよね?と笑ってやりたくなった。知っているはずなのにそんなことを言い出すなんてこの先輩はどれほど意地悪なのだろうと睨みつけるようにして一条先輩を見た。


「その気の立った猫みたいなのやめろ。言ったろ?行ってみないかって」

「猫っ……で、何が言いたいんですか」

「……一応当てがある。あっちも商売だから一銭も払わずにみてもらうなんてことできないがローンというかちょいちょい返済する形にしてもらうことだったらなんとかできなくもない気がする。――そのために医院長に直接頼みに行く機会、欲しくないか?」


一条先輩からそんな申し出があると思わず一条先輩を凝視してしまった。ただ嬉しいよりも先に出てくる感情は――


「……何企んでるんですか」

「お前先輩に対して結構失礼なこと自覚した方がいいぞ」


それは先輩に対する信用がないので、と心の中で反論しておく。


「多分綺麗事を言うんじゃ納得しないだろうし本音を言うなら半分は打算ありきだ。

あいつの才能はすごい。このまま魔術の道に進むなら将来大きな功績を残すだろう。

そんな才能の持ち主に恩を売っとくことで有利に働くことがあるかもってのとそんなすげぇ才能があるんだから発揮できるように色々万全にしとくべきだって話。納得したか?」

「……もう半分は?」

「俺の完全なる私情だからいわねぇ」


半分の打算よりそっちの方が不安になるのはなんなのだろうか。とりあえず納得はしたがその程度の恩恵でここまで協力してくれるものだろうか。


「馬鹿、結構デカい恩恵だぞ。……そうだな、後不自然なところがあったらその半分の私情に含まれるものだと思っとけ。で、どうする?」


正直胡散臭さは消えないがまたとない申し出だ。とりあえず前向きな検討という旨は、話しておく。


「とりあえず、れいと相談させてもらいますが多分そのお話受けさせていただきます」

「わかった。じゃあアポイントは取れるようにしておく」


一条先輩がそう言ったところで今まで黙って聞いていた風夜先輩が口を開いた。


「その当てってどなたなのですか?」

「魔術病院の医院長の娘、三年にいる白杜留紀だ。白杜を通して医院長に会う機会を作ってもらう」


一応友人なもんでな。と続けて言う一条先輩は横目に物思いに耽る。そうだった。ここ、上流階級の子女の通う学校だった。……医院長の娘もいるのかと少し遠い目になった。

ただ、思ってもみなかった申し出に暗闇の中に灯りが見え出したような気もして思わず固く手を握り締めた。


* * *


「というわけなんだけどどう?れい」


振られた仕事も終わり、合流したのあは一番にそう言った。なんでもないことのように言った、が結構無茶では……?

そう思った私は疑問を投げかける。


「結構無理があるのでは……?」

「どうにかなるしするって一条先輩が」


(無理やり……)


最悪パワープレイにいきそうで怖い。その医院長の娘さん、白杜留紀先輩は女性らしいし、流石にパワープレイとか乱暴な方には行かないと信じる。いや、男性に対してパワープレイなのももちろん困るけれど。


「またとない機会だしできるならみてもらった方が進展はある……と思う」

「……できれば診てもらいたいです」


先輩の友人のつてでこんなことを頼むのもだいぶ気がひけるができれば診てもらいたいというのが本音だ。

下手したら先輩とご友人の仲がこじれかねない案件だし慎重に行かなくては、と気を引き締める。


「まぁ、れいが気を張るのもわかるよ。諸刃の剣ってやつかな、上手くいけば得られる恩恵は大きいけど失敗したら先輩の友人関係が拗れる。――まぁでもあの一条先輩が言い出したんだ。きっと大丈夫。ね?」


顔がこわばっている私に気を使いのあが優しく、たしなめるような口調で言った。


「ありがとう」

「どういたしまして」


しんみりした空気を断ち切り、いつものような元気さでのあは言う。


「考えても仕方ない、と言うわけで――」


廊下で立ち話をしていた私たちだが急にのあが背に回り込みぐいぐいと押してくる。

小柄なのに意外と力のあるのあに押され、滑るように廊下を歩く。


「甘いもの食べに行こう!!」


* * *


いやどういう訳だ、といいたくなるような強引な話の展開ではあったが、やたらと乗り気なのあに押し切られ、制服も着替えぬまま連れ出された先は街のカフェ。

元々ルトリア学園のある土地はティアレ国の首都、ユールであり学園を一歩抜けたらあたりには店が立ち並ぶ。

目の前を歩いていたのあの上機嫌なことと言ったらこの上ない。ふわふわの髪はいつもにも増してぴょこぴょこ跳ね、全身で嬉しさを滲み出していた。


「このお店ねっ!この前ミアから聞いて行ってみたかったんだ。なんでもパンケーキがふわっふわらしくてあとね、北部の一部で飲まれる抹茶とかっていうものをつかったスイーツもおいてるんだって!!」


行こっ、早く行こ。と袖をぐいぐい引っ張るのあの気持ちもわからないでもない。

私たちは学校こそ一流だが身分は平民なのだ。はじめは実感も湧かなかったが日々を過ごせば過ごすほど身に染みてわかっていく。

まず国からの補助は朝、夕分の食費と最低限の衣服、学校関連のお金だけである。食堂は卒業する時にまとめて請求されるので卒業までの補助がある自分達は特に何も考えず昼食に使ったりしている。生活費に関しても寮生活なため国の補助が効く。


ここまで聞けば不自由はしていないがちょっとした問題がある。否、学生にとっては大きな問題。それは――


「おやつ代を出してくれないっ!!!」


いつぞやのあが叫んだ声が、耳の奥で反芻された。


さぁ、ここで冒頭の話に戻ろう。

おやつ代が与えられないとわかった私たち(主にのあ)は考えに考え抜き、食費を節約することにした。


覚えはないが私とのあの食費を一緒にし私が買い物担当、のあが料理担当で上手いこと節約をしていたらしい。

記憶がなくなってからものあから概要を聞き、前のことを聞きながら見よう見まねで節約をしてきた。


そして、今回ある程度溜まった貯金をカフェに使ったのだ。


のあ曰く最後に外出した時から数ヵ月ぶりらしい。それはのあも舞い上がるだろう、と思い見守っている。

いつもののあと逆な気がしてちょっと不思議な感じだ。


「あっ!きた」


もうすでにナイフとフォークを握り締め、待機していたのあから歓喜の声が上がる。

のあの目の前に置かれたのはこのお店の看板メニューであるというパンケーキだ。

分厚く、皿を動かすとふわっふわっと揺れるパンケーキには贅沢にもクリームが載っている。

薄いクリーム色の生地にほんのり焦げ目がつき、純白のクリームが乗っている様子は目で見ても幸せを感じられる。


「れいはパンケーキに何かつける派?僕は王道の蜂蜜派」


私は――。答えようとして頭が真っ白なことに気づく。

答えを忘れたんじゃない。そもそも答えられないのだ。


「……ない」

「あ」

「わから、ない」


何故だろう。なぜこんなにも不安になってしまうのだろう。

パンケーキは知ってる。人気の菓子だ。

ーーでも、私はその味を覚えてない。何をかけたら美味しいのか知らない。何が好きなのか、知らない。


「すみませ――」


場の空気を重くしてしまったことを謝ろうと口を開いたがのあの言葉に飲み込まれた。


「蜂蜜、美味しいよ。後、高いけどチョコレートとか」


たまに見せる頼りない笑顔でのあは言った。


「そもそも謝るなら言い出した僕の方だって。――記憶がなくなっちゃったなら取り戻せばいいしそれを待たずとも、もう一回経験しよう」


そう言ってのあはパンケーキを一口切り分けフォークに突き刺すとこちらに向ける。


「食べる?」


冗談混じりのような、おどけた表情で言うのあの方へ少しだけ身を乗り出しパンケーキを口にする。


「……美味しいですね」

「…………」


何故かのあが固まる。


「どうしたんですか?」

「こんの天然人たらしがぁっ!!」


のあは真っ赤になりながら机に突っ伏す。


「ごめん、本当に食べると思わなかったって。だってなんとなくさ?向けてみただけなんだよぉぉぉぉ!これじゃ間接キ……」


何やらつぶやいては机に頭を打ち付けている。


「ごめんなさい。勘違いして食べてしまいました。のあのですから食べちゃダメでしたよね」

「だからずれてるんだって!!」


とかなんとかワタワタしていたらさっきまでのしんみりした空気はどこかへと言ってしまった。

記憶がなくともあろうとも、食べたパンケーキの美味しさは変わらないだろうしのあと話すのも変わらず楽しいだろう。と悶えるのあを横目に考えるとある日の夕暮れだった。


 

二章始まりました!よろしくお願いします

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