三十話 ある日森の中、幽霊に出会った
題名は森のくまさんのリズムでよろしくお願いします。
「帰りたぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?おばけぇぇぇぇっっっ!!」
「え、おばけ?」
足元から急に発せられたその声に、私、月乃玲明は叫び声を上げながら走りだした。
「いやぁぁぁ!来ないで、来ないでくださいぃぃぃっ!」
「ちょ、え、はい?幽霊じゃないんだけど!?」
「無理、無理、無理、無理ぃっ!!」
おばけが何かを喋りだしたようだが、怖くて、何を話しているか聞き取る余裕など到底ない。
「えっと、えっと!!悪霊退散、悪霊退散っ!!」
「ねぇ、それより何処が校舎?ねぇってばぁぁぁ!!」
おばけを払うという、いつぞや一条先輩が言っていた呪文を唱えているにも関わらず、お化けは永遠とついてくる。
「一条先輩嘘ついたんですかぁぁぁぁ!?」
「いや誰!?ってそれより校舎どこ!?」
もう諦めてもいいはずなのに、おばけはまだ、私の後ろから声を発する。
私もまだまだ、足は疲れてなどいず、走れる……はずなのに、またもや込み上がってくる吐き気が、私の足にセーブをかけてしまう。
「もう……無理…………」
「そうだよ!そのまま止まれ!そして校舎の位置を教えろ!」
もう、無理だと諦めの思考が入り始めたことによってか、後ろからの声を、少し聞き取ってしまう。
(校舎の位置……?もしかして、狙いは私だけじゃなくて校舎に残っている生徒も!?)
「……それなら、まだ、走らないと――!」
「いや、なんでそうなるぅぅぅぅぅ!?待って待って」
そうして、校舎の位置から軌道を変え、森の中へと突っ走り、舞台を変えて鬼ごっこは続くと思われた……が、思っていたよりすぐに、決着はついた。
* * *
「も……無…………理」
「絶対、校舎から……遠ざ、かってる…………」
ついに揺られていた胃の方に限界が来たため、私はよろよろともう歩くのと見分けがつかないくらいの速度で進んでいた。
ここまで校舎から引き離せば校舎に残る生徒たちはさすがにあきらめてくれるだろう。
(おばけは怖いけど連れ去られるなら連れ去られるで仕方がない)
もう覚悟を決めて、ぴたりと立ち止まると。
『ふぎゃっ』
可愛い声をあげて、おばけは転んだ。
「いったぁぁぁぁ」
「だ、大丈夫……ですか……?」
おばけなはずなのに、やたらと痛がっているおばけが可哀想になり、胃の気持ち悪さに蓋をしつつ、ついつい声をかけてしまう。
「おばけも、転ぶと……痛い、んですね…………」
「おばけじゃ……ないってば」
「え」
「え?」
二人固まり、沈黙が落ちる。
「おばけじゃ……ないんです、か」
「どこからつっこむべきかよくわからないんだけど、とりあえずあんた馬鹿ってよく言われない?」
あいにく私の周りには聖人のような(若干名不良はいるが)人ばかりであるため馬鹿と言われたことはない。しかし……。
「ずれてる……とはよく言われます、かね」
「やーいやーい」
転んだのが相当痛かったのか、目の前のおばけじゃない誰かの声は若干震え気味だが、どうしても恨み言は言いたかったのかやたらとつっこむし文句も言ってくる。まぁ、文句を言われても仕方ないとは思うので、甘んじて受け入れておこう。
「それはそれとして茂みからはいずりながら出てくるほうもどうかと思いますが」
「ゔっ」
特に切り返そうという意思もなかったのだが、何気ない言葉でカウンターが決まったようだ。突飛な勘違いをした私も、私だし、驚かすようなことをする誰かさんも悪い。どっちもどっちというところだろう。
「……なんかすんません」
「いえ……、こちらこそ」
暗闇の中からぬっと手が伸びて来たため、その手を握った。ひとまず和解成立である。
ひやりとした手が、一度力を強めたかと思えばするりとほどけて闇の中へとまた消えていった。
「……あぁぁぁ、思えば校舎に戻りたかっただけなのになんでこんなことになったんだろう」
「校舎に戻りたかったんですか?それなら私が案内したのに…………あ」
そうだ、思い返せばちゃんと言っていた。「校舎の位置を教えろ」と。
結局また変な方向に空回ったなぁと後悔しつつ、出した結論は――
「………………帰りましょうか」
「…………そうだな」
原点回帰である。もう余計なことはせず、校舎に帰ろう。ただただ帰ろう。
「案内お願いしても?」
「……えぇ、勿論。立てますか?」
いまだ座り込んだままであった、その人に今度はこちらから手を差し伸べる。
「どうも」
その言葉と同時にぐい、と手を引かれ、その感覚もまた消えたかと思うと、今まで姿が見えないまま話していたその人の姿がくっきりと見え――――
『あぁぁぁぁぁぁ!!』
相手も、私の姿が見えたのだろうか、二人で声をあげた。
「あの受付の……!」
「なんか怖い生徒会のひとじゃん!?」
私の第一印象がそれなのは解せないが、ひとまずはおいておこう。
目の前の人物、目までかかる長さの濃い紫の髪に、それとは対照的なまでの明るいピンクとも呼べるような、でもちゃんと紫であるマゼンタ色の瞳。
自信なさげに下を向くその人は、昼間、立花(父)の対応に困っていた、あの男子生徒であった。




