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第九話 はじめてのクエスト。(3)

「しめた、開けてる!」



 ゴブリンの群れは三十分ほど森に分け入った場所にいた。


 それも、すみかとしていたのは懸念していたとおりに土砂災害が起こった場所で、木々が転がる崖際にできた扇状の広場だった。


 俺とアエカは少し離れた倒木の陰、これ以上は見つかってしまう。



「≪生命探知≫によると、近辺ではあの場にいる九体ですべてのようです」


「そのスキル便利だな。オレも新しいスキルが欲しい」


「シードクリスタルはモンスタードロップでも狙えるので、今回のゴブリン討伐でも出るかもしれませんね」


「そうなればありがたいけど……」



 スキルは、特定条件を満たして覚えるユニークスキルと、スキルが付与されたシードクリスタルをレリックに装着することで使える、二種類がある。


 ニオのレリックにも、シードクリスタル≪生命の杯≫がすでに装着されてあるものの、この≪創世の灰≫というスキルの使い方はいまいちわからない。


 『思い描くことで任意の現象を創造する』


 クリエイション系のスキルか、発動のトリガーがよくわからないんだ。



「あまり期待はしないで、まずは討伐することに専念しよう」


「お任せください。一匹たりとていっさいを残さずに掃滅しつくしますね!」


「いちおう安全第一な?」


「はい!」



 ゴブリンに美少女()が舐めまわされたことを根に持っているな……。



「じゃあ、突入はオレ。アエカは広場外周からの狙撃で、逃亡を阻止」


「かしこまりました! ギャフンと言わせてみせます!」


「ああ、頼む……」



 やる気はあるから大丈夫だろう。大丈夫と思いたい。


 ゴブリンたちは食事中で、思い思いに生肉やら豆?のようなものを食べていて、こちらがいることにはまだ気づいていない。

 まだ家を建てる知恵もないようで、露天のままのすみかは何も遮るものがないけど、ゆえに四方へ逃げやすく、方々に散られたら追跡は困難だ。


 だからアエカを外周に残し、小銃の射線上を阻止線として利用する。



「突入する」


「お気をつけて」



 俺は広場までのわずか数メートルを一気に詰めた。


 VRゲームらしいシステムアシストが、ステータス分の補正値に則って運動能力を底上げし、小気味よい軽快なステップを踏んで広場に到達する。


 そして、速度を維持したままで跳躍――。



「せいっ……やー-------っ!!」



 ――からの特大剣斬り下ろし。


 狙われた相手は頭頂から真っ二つにされて死ぬ。



「まずは一体! ついでの、二体目!」



 二体目はすぐそばにいたことから、特大剣を横薙ぎにしてこちらも一撃。


 そうして二体分の黒い粒子(パーティクル)が霧散し、この時になってようやくゴブリンたちはこちらの存在に気づき、火をつけられたように全員が立ち上がった。



「ギギャアアァァァァッ!? アビィッギガントゥースッ!」


「ギギィッ! アヴェンナビィ、ギガッ、ガカンポッ!」


「相変わらず何を言ってるかわからないけど、この地の領主として、このニオ ニム キルルシュテンが横暴を尽くすおまえたちを討伐しに来た!」


「イギィマティッ! ヴェルギナッパァァァァッ!」


「べつに名前は覚えなくていい!」



 ゴブリンたちは怒りをあらわにし、残る七体のうち遠間の四体は俺の背後へ、目の前の三体は対面したまま距離を詰めようと動きはじめる。


 その時、山間に木霊する一発の銃声――。


 見事、背後に回ろうとした一体をヘッドショットしたのはアエカだ。



「ギィッ!? シェゲナッビビンバッ!?」


「ギキェエエェェェェェェェェェェッ!!」


「あ……」



 さらなる銃声と、目の前の三体が一斉に飛びかかるのが重なった。


 俺はというと、まさかのこのタイミングで動きが止まってしまう。


 ビビったとかではなく、重量級の特大剣を持って着地したせいで、足がぬかるんだ泥にはまってしまい、迎撃のために一歩を踏み出せなかったんだ。


 失念していた、足場がどうなっているかまでは考えていなかった。


 結果、体重をかけられず、腕の力だけで振るった特大剣はそれでも右端のゴブリンを吹き飛ばしたものの、あとの勢いを削がれてしまう。



「ギッヒィッ! ウヒョッ、ペロペロペロペロペロペロペロペロ」


「ぎゃーっ!? またっ、やめっ、いー-ー-やー-ー---っ!!」



 押し倒される美少女()、馬乗りで顔を舐めまわしてくるゴブリン。

 さらにもう一体は、顔ではなく腋にいったからたまったもんじゃない。


 こ、こいつら、命の危機に晒されていながらバカなのか!?



「ウヒェッヘッヒェッ、ウンマー」


「いまっ、うんまーって言った!?」


「エヘェ、ペロペロペロペロペロペロペロペロ」


「ひっ、やだー-----ー-っ!!」


「おじさまにぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃ……」



 情けないことに涙目になっていたと思う。

 そんな時に聞こえてくる、やたらと低い声。



「なにしとんじゃああああああああああああああああっ!!!!!」



 そして、ものすごい衝撃波が押し倒された俺の真上を通りすぎていった。


 辺りの泥は吹き飛ばされ、倒木まで枯葉のように宙を舞い、それがどうやら蹴りだったと認識できたのは、ひらりと舞うスカート越しに白いレースのパンツが見えてしまったから。


 ゴブリンは……なんか、岩に叩きつけられて肉塊に……。うぇ……。



「うぁ、うあぁぁん……ごめんなさいぃ……。制圧するほんの少しの間にぃ、おじさまがぁ……。うぇええぇぇっ、おじさまがべちょべちょにぃっ!!」



 のろりと起き上がった俺に抱きついてガン泣きなのは、彼女しかいない。



「助かったよ、アエカ……。泥に足を取られて、オレの不注意だった……」


「うぅ、ひぐっ……おじさまぁ……おじさまあぁぁ……」


「ごめん、大丈夫だから……そんなに泣かないで……」



 大の大人がまるで子どもかのように大泣きをする。


 まあしかたない。余裕と思って、結局あと一歩で薄い本みたいな事態になったのは、こうまで取り乱す彼女のためにも反省をしないといけない。


 環境による行動制限がここまで機能しているとは、ゲームというより、それこそ現実と思って行動方針を定めていくべきだろう。


 もうあのくっさい舌で舐められるのは金輪際ごめんだ……。

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